■ ティルキッス
作者 [ MIR さま ] ジャンル [ 弾幕アクションRPG ] 容量・圧縮形式 [ 242MB・ZIP ] 言語 [ 日本語 ] 配布元
レビュワー ハマリ度 グラフィック サウンド 合計 総合判定 ES 8 /10 9 /10 9 /10 53/60 赤松弥太郎 8 /10 10/10 9 /10
弾幕は剣よりも強し
本日のイチオシ作品「ティルキッス」は、アクションRPGに「弾幕」を組み合わせた、スタンダードでありながら新鮮な驚きを味わえる作りになっています。
ほんの数か月前までは有料ソフトであっただけに、そのボリュームも難易度も一筋縄ではいきません。
特に、通常のアクションRPG的な感覚で突っ込むと、面白いようにHPが減っていくでしょう。ゲームオーバーになるたびにゲージで実績が解除される点から見て、製作者側も本作は「死を積むゲーム」であると自覚して提供していることが分かります。
本作でダメージを食らいやすい原因は、弾幕よりもむしろプレイヤーの勇み足になります。弾幕STGともアクションRPGとも異なる「ティルキッス」独自の操作感を、この長いシナリオの中で見つけ出さなくてはいけません。
通常の弾幕STGで回避に集中できるのは、プレイヤーの攻撃が射撃…しかも広範囲であるためです。相手に軸を合わせなくても、サイドショットで充分なダメージを与えられるのです。
対して、ティルの主な攻撃は剣による近接攻撃です。攻撃ボタン押しっぱなしでショットも撃てますが、「魔力」が切れると撃てません。本作は全方位から敵が来るため、位置だけでなく向きも合わせる必要があります。むしろ、前と左右を一発でカバーできる剣攻撃の方が便利な場面が多いでしょう。
勢い、プレイヤーが近づく動作と敵の移動が噛み合ってダメージを食らうシーンが多くなります。
移動速度がダッシュと通常速度で両極端なのも、プレイヤーが勇み足しがちな原因です。通常移動は、敵に近づくにはまどろっこしく、弾幕を避けるには大雑把と、絶妙な速度設定になっています。モタモタしてると稼ぎが減るため、どうしてもダッシュに頼りがちになります。
また、近接攻撃に頼ると、意外にネックになるのがノックバック。一度攻撃を与えると、すぐに剣の間合いから外れてしまうため、再び近づくタイミングで敵に触ってしまう…と、追撃一つにさえジレンマと技量が必要になります。
そして、もう一つのネックが、意外に持続時間の長い弾幕攻撃。序盤の青スライムでさえ、十字弾を盾にして逃げる…なんて戦法を使ってきます。ストーリーが進むほど、雑魚の弾幕も厳しくなるので、いかにその合間を縫って剣を叩き込むか、以前にレビューした「ありふれたホシの終末期」と同じジレンマを、本作でも味わうことになります。しかも、本作では剣攻撃の方がメインなので、そのジレンマはより厳しい形で襲ってくるでしょう。ボス戦になると、またゲーム性が変わります。ボスが作り出す「魔空間」により、ショットが撃ち放題になるのです。…逆に言えば、ショット撃ち放題という特典が無ければ到底立ち向かえない難易度であること。
最初に「魔空間」を味わう1話ボス戦では、いきなり画面縦いっぱいに敷き詰められた弾幕がティルを追ってきます。(第1話時点では)威力は小さいためゴリ押しでも行けますが、ダメージを抑えた立ち回りをするとなると、弾幕の壁が散らばる位置までティルを後退させる必要があります。ショットがホーミングとなるフランベルジュを手に入れていなかったらヤバい所でした。バトルとストーリー、両面からプレイヤーを煽ってくるのが、本作の魅力です。ただし、その分、レベル上げなどでストーリーの流れが中断されると、途端に中だるみになってしまう短所にもなりえます。
非常に長い物語ですが、お時間があれば、ぜひ一気に突っ切る形でプレイしてほしい、そんな作品です。
《 赤松弥太郎 》 ハマリ度:8 グラフィック:10 サウンド:9
あなたって、本当に最低の屑だわ!
まだご存知ない方にお伝えしましょう。
本作は乙女ゲーです。
たしかに、ティルキッスには乙女ゲーの主人公としてやや無自覚な部分があります。
キャラ付けにしては半端な「のじゃ」語尾といい、頑固で粗野な面といい、女子が共感できる部分に乏しいというか、根本的に女子力が欠乏しています。じょしちからは有り余ってますが。
しかしそんな彼女でも、曲がりなりにも、花もうらやむ15歳です。恋に恋する季節です。
言い方を変えれば、彼女はとても一途で誠実な人間です。これと決めた人には、とことん尽くす献身ぶりを見せます。
自分の不器用さに悩み、反省しながら、彼女は自分のなすべきことをなそうともがきます。それが美しいのです。
人里離れた山奥で育ち、出会いも何も無いまま王都へやって来たカントリー・ガールを待ち受けるのは何か?
乙女ゲーのテンプレートに沿って考えれば、おのずとわかるでしょう。
イケメンです。もちろん2人。
まずは正統派の美男、アイロネイアさんから。やはり美形キャラは長髪でないとね!
端整な顔立ちにさわやかな笑顔、柔らかい物腰に気遣いのできる優しさまで完璧に備えた、絵に描いたようなイケメンです。
剣の腕前も、イリスフィードで三本の指に入る実力者。仕事もできるし性格もいいし、隙がありません。
年ごろの男なんか今まで見たこともなかったティルが、一目で惚れてしまったことを誰が責められるでしょうか。
気になる点としては、妙に顔見知りからの評価が良くないことです。
もちろん悪くはないんですが。なんというか、冷淡というか。
ああ、イケメンだよね、優しいよね、でもそれだけだよねって感じにボクには聞こえるんですが、どーいうことだよ。
顔が良くて仕事ができて性格も良くて、それ以上何を求めるのでしょうか?
おそらくティルにとって最大の障害は、彼が妻帯者だということでしょう。
ボク個人としては、好きになった以上どうしようもない、という考えですが、ティルの性格上、他の人を押しのけてでも想いを遂げる、なんてことはとてもできないのです。
きっと奥さんにも事情があるのでしょう、城からかなり遠くに住んでいるのですが、アイロネイアは単身赴任をせず、今でも離れた自宅から毎日城に通勤しているとのこと。
これは奥さんが羨ましい。ティルはそんなアイロネイアがますます好きになってしまうのでした……。
しかし、アイロネイアへの想いは叶わぬ恋。
そうなれば俄然注目が高まるのが対抗馬、ジャスティ君です。
ちょっと悪ぶって突っかかってくる、やんちゃな男の子というのも、実にテンプレ通りの展開で安心しますね。
プレイヤーにはわかっているとはいえ、ティルの初期印象は最悪です。
はるばるド田舎から出てきたティルに初対面から、ねんねは帰れの、寄るな乳臭いのと悪態を並べるのは、デリカシーがない以前に距離感を間違ってると言うべきでしょう。
ティルもジャスティも、あまりに正直すぎ、不器用すぎるんですよ。それはもう、呆れるほど。
似たもの同士、類は友を呼ぶ。惹かれるところは必ずあるものです。
初期印象が最悪の状態から、根は熱くて正義の人なんだとアピールして持ち直していく、これもお約束。
コイツのズルいところは、システムにも愛されているところですよ。
ゲームオーバー時のヒント担当が、なぜかジャスティなんです。
他に適任はいくらでもいるでしょ? とか、ふつうメイン格がやるものじゃないでしょ? とか、いろいろ疑問は出てくるでしょうが、ジャスティなものはジャスティなんで、仕方ない。
最初はいつもの調子でさんざんティルをバカにするのに、ティルが本当に落ち込んでるのを見ると励まし、アドバイスをしながら先輩風を吹かせる、というパターンで進行するのですが、これが実に微笑ましい。
こんなもの見ちゃったら、もうジャスティのこと憎めないじゃないですか。
こんな形で、メイン格のキャラを側面支援してくるゲーム、ボクは知りません。ズルいんだよなぁ。
憧れの先輩と、ケンカ仲間の男の子の間で揺れ動くティルのハート。
イケメンが次から次へと現れて、ティルは一体、これからどうなっちゃうの~!?
……ん? なんですかプレイ済みの諸兄?
ボクが嘘をついているとおっしゃりたい? ルートも攻略要素もないものは乙女ゲーではない?
いえいえ、本作のストーリーは間違いなく乙女ゲーですよ。
そしてヒロインはティルです。
そうでなければ、あんな劇的な結末に至るわけがないでしょう?
評点。
- ハマリ度 : 8 / 10
- まず、ゲームとして説明不足。敵を攻撃した時に出る★が経験値であるとか、基本的な情報がどこにも書いていない。また、セーブ時もロード時も初期カーソルが常にファイル1なのは、当時の水準から見てもひどい仕様。
魔法ボーナス倍率2倍で逃す経験値が多すぎて、魔法剣がザコ戦で使いづらすぎるのはやはり問題。MPは基本、フロアクリア後の回復にしか使わなかった。それぞれの魔法は個性的な部分もありもったいないし、ティエラ・カオスの独擅場を許す原因にもなっている。
メインストーリーは丁寧に作ってあるし、それ自体のテンポは悪くない。しかし宿泊が進行フラグになっていることが多く、特に中盤は宿と城を往復するだけのゲームになりがち。レベル上げしろということなのだろうが、そんなに上げても仕方がない。生活感のない、閑散とした城や街を駆け抜けるのは寂しいばかりで、お使い感を加速する。
- グラフィック : 10 / 10
- 顔グラの表情差分が本当に素晴らしい。やられ顔にスト2リスペクトを感じられる。ドット絵の完成度も隙が無い。
ティルキッスの食らい判定は、胸、というより首に近い場所を中心に広がっており、特に正面向きのときにやや違和感がある。終盤の敵はザコでも容赦なく弾幕を仕掛けてくるので注意。- サウンド : 9 / 10
- 「哀しみを勇気に変えて」のフルバージョンが聞ける。サマルトリア、リュウジといった作曲者たちの、もはや聞くことも難しい名曲が多数使われていて、当時を偲ばせる。
台詞開始の効果音が個性的で、シリアスな場面で鳴るとかなりの違和感があったところでマイナス。類は友を呼ぶし、朱に交われば赤くなる。その人の周りにいる人って、どこかしらで共通点があるものなんですよ。
あの劇的な展開も、ティルがティルだったから、呼び寄せてしまったものなのかも知れません。
でもティルがティルだったからこそ、あの結末に着地できたんです。それはとても誇るべきことだと思うのです。