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■ まぢちる

まぢちる
作者 [ 春紫(春太郎 さま & むらさき さま) ]
ジャンル [ 魔法少女+サスペンス ]
容量・圧縮形式 [ 300MB前後(全4話)・ZIP ]
製作ツール [ RPGツクールMV ]
言語 [ 日本語 ]
備考 [ ブラウザ上でのプレイも可能 ]
配布元 ダウンロード先

まぢちる まぢちる まぢちる まぢちる まぢちる

レビュワーハマリ度グラフィック サウンド合計総合判定
ES 8 /10 9 /10 9 /10 75/90 B
シュン 7 /10 9 /10 8 /10
赤松弥太郎 8 /10 8 /10 9 /10

 《 ES 》  ハマリ度:8 グラフィック:9 サウンド:9

兵器としての勇者 道具としての少年少女

本作「まぢちる」は、ストーリーコンセプトとしては「魔法少女」と「勇者と魔王の物語」、ゲーム内容としては「ミステリー」、そして、ストーリー本質としては「利用されて捨てられるモノたち」の物語となっています。
この一文だけで相当なネタバレが詰まっていますが、そもそも、公式ページを見るだけで「花火と阿麒は死亡確定」というネタバレを出しています。あまつさえ、最終話で判明する「犯人」さえ、公式HPに記載されています。もし、ご覧の貴方が本作を未プレイの場合、「犯人当て企画」のページは回避しましょう。
そして、その「犯人」のネタバレは、本作にとっては序章にすぎません。ストーリーの本質は「利用されて捨てられるモノたち」の物語。「犯人」に限らず、「登場人物紹介」にあるほとんどの人間は、悲劇的な最期を遂げます。主人公である「なかあき」でさえ例外ではありません。むしろ、「なかあき」が「まぢちる」の事件を起こした原因の一つであるのです。

「犯人」に至るまでの推理と、そこに至るまでの追いかけっこを初めとしたミニゲームはそれほど難しくないでしょう。追いかけっこの中には「死んで覚える」レベルには難しいものがありますが、ミニゲーム前にはセーブ画面が入るため、リトライには苦労は掛かりません。
最も苦難となるのは、それらをクリアしていく中で判明する、登場人物たちの悲劇的な生い立ち。それらの原因のほぼ9割である「司令」が、最初の被害者として事件の切っ掛けを作るというのですから、皮肉なものです。
真相を知ってから、もう一度1話からプレイしてみると、本当に色々な伏線が張ってあることが分かります。どこで「犯人」が殺害を決意したのか、なぜ「犯人」あそこまで残虐な犯行を成し遂げるようになったのか、なぜ被害者は殺されたのか、その全てが1話目から描かれているのです。
その「犯人」を当てるのは、それほど難しくはないでしょう。「なかあき」の推理によって、ある程度まで導いてくれるからです。しかし、なぜ「犯人」が「犯人」になったのか、その原因は、当の「なかあき」が否定するほど悲劇的なものです。
本作の一番の被害者は、この「犯人」です。人が魔に勝つために狂わされ、唯一の心の支えを失いかけ、ENDによっては完全に敵となる、そんな悲劇の持ち主です。

ストーリー内、および「次回予告(嘘)」でのコメディシーンは、本編の悲劇から少しでも目を逸らしたいという思いから作られたものでしょう。正直言って、シリアス100%ではとても耐えられないほど、悲劇は重いものなのです。
コメディもシリアスも、春紫らしさがよく出た作品です。プレイ時間は4話でも数時間程度。ぜひ読み進めてください。

 《 シュン 》  ハマリ度:7 グラフィック:9 サウンド:8

歪んだ心に、奇跡も魔法もあるわけない。

 本作は魔法バトル物の皮を被ったミステリーです。そしてそれも奇跡など無いと思ってしまうほどの暗い話です。
『りるれふ』でも思いましたが、その絵柄でこんな話を作れるのも凄いと思いました。
せめてもう少し救いがあれば・・・と思ってしまいます。

 「Magic Attack Children」・・・通称「まぢちる」。子供たちが人知れず人と魔の戦いに身を投じています。
しかし・・・司令官の殺人事件を皮切りに次々と事件が発生していきます。
長崎 八月十五日(ながさき なかあき)、月下 日和(つきした ひより)を始めとするメンバーは事件に巻き込まれていきます。
事件の犯人は?メンバーに隠された事情とは?待ち受ける悲劇とは・・・?

 様々なキャラの視点に切り替わりながら探索や推理などを行っていきます。
簡単なミニゲームやアクション要素も用意されています。それほど難しくないですが苦手な人葉苦戦するかもです。
今回は全4話の話を1つずつ追って行きたいと思います。

第1話:これだけならまだ普通の話です。殺人事件が発生するまでは。
最初の話だけに自己紹介がメインです。それだけなら良かったのですが・・・。
地味にスタッフロール時の演出もこれからを暗示しているようでちょっと怖いですね・・・。
「魔法少女ひよりちゃん!華麗に参上!」とか言ってる場合じゃないということは良く分かりました。

第2話:この話からは推理要素が含まれるようになっています。間違えてもすぐやり直せるので問題はありません。
アリバイのまとめなどミステリー要素が増していく話となっています。
ラストは・・・あまりにも悲劇です。この辺りから悲劇度がおかしな方向へ向かっていきます。

第3話:今回は過去話が多め。また他の話より少し短めとなっている代わりに難易度が少々高いです。
特にあの人物に追いかけられる場面は良く考えないとすぐ捕まってしまいます。
それにしてもあの人物の言葉にそんな法則があったとは・・・。

第4話:いや・・・まさか犯人があの人だとは思いませんでした。紹介ページにも犯人の考察などが置いてあるページがあります。
自分は全く推測してなかったのですが、話の展開で大体の予想は出来ましたね。本当に驚きました。
そして悲劇度も加速していくことになります。
終盤の選択により4つのエンドに分かれます。自分は3→4→1→2の順に見ました。
いずれにしても完全なハッピーエンドは存在せず、陰惨な結末を迎えるものが多いです。
それでも全てを投げ出して逃げるのはダメなことだと思うのですが・・・。しかしそうしなければ解決しないことがあるのも事実です。

 全話を通して見ると些細なことでも後に繋がっていることが分かります。
もちろん、それが良い方向に結びつきはしません。分かっていても変えられない運命だったのです。
犯人が分かってからもう一度プレイしてみると如何にこの話が悲劇であることが改めて分かります。
「ちょっと、あの時そんなこと思ってそんなこと言ってたの!?」と思ってしまうような出来事だらけでしたね・・・。
にしても「次回予告(嘘)」は結局何だったのでしょうか?自分には何故入れたのか良く分かりませんでした。

 《 赤松弥太郎 》  ハマリ度:8 グラフィック:8 サウンド:9

襲い来る敵は まだ限りないのだ

 この作品についてはネタバレしてもしょうがないのでネタバレ無しでやります。
 本作をプレイして思ったことを、本作の内容には一切触れずに書いていきましょう。
 未プレイの人が気になる疑問も、もしかしたら答えられるかもしれません。さらなる疑問はプレイしてのお楽しみ、ということで。

魔法少女ものとミステリーって組み合わせ、相性はどうなのか?
 可能性と応用範囲は、とても広いと思います。
 魔法少女での死の描写がタブー視されなくなった現在、2つのジャンルは多くの要素で重なり合います。隣接しているとすら言えます。

 多くの場合、魔法少女は自らの正体を隠しています。そして同じ魔法少女同士で、秘密を共有する独自の関係を築いています。
 これはミステリーでいうクローズド・サークルの概念に対応します。
 魔法少女が魔法少女として殺害された場合、犯人は敵か、仲間かに限定されます。
 正体を知っているのが仲間たちだけという状況下で、変身アイテムを盗まれれば、必然的に仲間を疑わざるをえないのです。

 能力の限界設定とその探り合いは、すでに推理ものに足を踏み入れています。
 これは魔法少女ものと言うより異能バトルものの要素ですが、その方向性の魔法少女ものも存在しています。
 さらに、魔法少女になる前の多様なバックボーンが併存していることも重要です。
 仲間内でも知られていなかった過去の因縁や行動動機は、犯行の動機付けに欠かせない要素です。

 ただし、それでも正反対の部分があります。
 長期的な成長物語に位置づけられる魔法少女ものとして、死んだらそれっきりのミステリーの作話は根本的に相容れません。
 ある程度完成している主人公が、通りすがりに事件を解決するスタイルがミステリーに多いのは、主人公を(現実世界で)長生きさせるための方法ですが、魔法少女ものではそれは取りづらい。
 温泉若おかみシリーズのような手法もありえるかもしれませんが、魔法少女とミステリーの掛け合わせは、基本一発ネタと心がけた方が良さそうです。
魔法がある世界のミステリーで、合理性ってあるのか?
 その世界での理屈に一致しているかどうかで判断するべきと考えます。
 ノックスの十戒は知ってますが、あれとて金科玉条などではないはずです。
 たとえば霊媒術が実在する世界でのミステリーであれば、霊媒イコール非合理とはなりません。
 その性質と制約、可能なことと不可能なことが物語中で明確に説明されていれば、その理屈に沿って可能か、不可能かは判断できます。

 ただし、その世界の理屈でも説明が付かない現象なら、それはやはり不合理です。なんでもアリの免罪符にはなりません。
 世界のルールが明確に説明できないものだったり、特定人物にだけ有利に作られていても、ミステリーとしては批判されるでしょう。

 また、新しいルールの提示は、慎重にやらないと、プレイヤーがついて行けなくなります。
 今まで制約があり不可能と考えられていたことを、ある人物ができるようになったとします。
 しかしこの段階では、なぜできるようになったのか、ルールが変わったのか、今までの説明がただの思い込みだったのか、その人物が特異なのか、なんらかの条件があるのか等々、プレイヤーからは判断ができません。
 今までの説明への信憑性がなくなってしまうので、より説得力のある描写で説明し、定義してもらわないと、プレイヤーとしては裏切られた気分にもなるでしょう。

 もっとも、合理性が特に重視されるのは、ミステリーの文脈です。
 ミステリーで無ければ、ある程度の不合理やご都合は許容されるんじゃないかと思います。
サスペンスに期待するものは?
 ボクが期待するのは、極限状態で織りなされる、人間性のぶつかり合いです。
 そのぶつかり合いの中から、人間の哀しさとか、美しさとか、そういうものが見られればボクとしては満足なんです。
 ミステリー要素は、そこまでしっかりしてなくてもいいかな、と。

 えてして混同されがちなサスペンスミステリーですが、かなり違う意味を持つ言葉です。この文中では分けて書いてます。
 ミステリーのかなりの部分はサスペンスに属すると言えますが、サスペンスは必ずしもミステリーとは限りません。
 ミステリーに求められる厳密な謎解き……読者に示されている情報だけで犯行が説明できるか、等々は、なんとなく当たりがつく程度でもボクはいいんですよ。
 斜め上を行く真犯人とか、奇抜なトリックとかも、ボクは別に求めてないんです。
 どうせ頭悪いから、わかんないし。

 それよりも、生々しくドロドロとした人間模様とか、望んでいなかったのに避けられなかった悲劇とか、取り返しのつかない罪と苦悩とか、そういうものをボクは見たいんです。
 で、最後には、それでも人間捨てたもんじゃないなと思えるような、一抹の希望のようなものを匂わせれば、2時間ドラマを見終わった後のような満足感が得られるんじゃないか、と思います。

 ただ、どの程度無茶でも受け入れられるか、個人的な差は大きいと思います。
 ボクよりずっと頭のいい人だったら、ちょっとした矛盾でも気になって仕方ないってこともあるでしょう。
 ミステリーっていうだけでも、敢えてそれを書くっていうのは十分な冒険だと思うのです。
法律で裁けない罪に対して、責任をどうやって果たしたら良いのか?
 ……簡単に答えの出る話ではありません。
 それはいつだって、人が悩み、考えてきたことです。

 手元の大辞林には、【責任】について以下の通り書いてありました。
①自分が引き受けて行わなければならない任務。義務。 「 -を果たす」 「保護者としての-」
②自分がかかわった事柄や行為から生じた結果に対して負う義務や償い。 「 -をとって辞職する」 「だれの-でもない」 「 -の所在」 「 -転嫁」
③《法》 法律上の不利益または制裁を負わされること。狭義では、違法な行為をした者に対する法的な制裁。民事責任と刑事責任とがある。
 2時間ドラマであれば、反省の余地の無い悪人であっても、必ず③の責任を負わせるべく、警察がやって来ます。
 法律で裁けない悪であれば、事件の最中で被害者となり殺されたり、あるいは失脚したりして、②に相当する報いをどこかで受けることになります。
 2時間ドラマは、勧善懲悪の物語だからです。

 魔法に対して法律的な責任が生じる世界は、まだ幸せです。
 道徳の最低レベルを決めるのが法律なのだから、まずは法の上の罪を償って、それを土台に責任の負い方を考えればいい。

 魔法が公表されていない世の中で、魔法を使わなければ不可能な犯罪を、どうやって償えば良いのですか。
 自分が引き金になって世界が滅んだとして、誰もいない世界で、誰がその罪を裁くのですか。
 たった一人、自分だけが犯した罪の重さを知っている時、いかなる罰を自分に与えたところで、それは自己満足に過ぎないのではないですか。
 これは別に、魔法に限った話じゃない。魔法がない世界でも同じなのですよ。
 自分の罪を自分が知っている時、自分から逃げるすべはありません。

 背負いきれるものなら、背負えばいい。自分の正義に従えばいい。
 でも、背負いきれない責任を背負って死ぬくらいなら、自分を赦して生きた方がいい。
 生きていさえすれば、必ずどこかで、ふたたび責任を背負う時がくるのです。
 今度は①の意味で、かつて失敗した自分だからこそできることが、きっとあるはずなんです。
 死んじゃったら、そこでおしまいじゃありませんか。

 評点で、ストーリー以外の、ゲーム性や操作感について触れていきます。
 ストーリー自体にどの程度の評価をしているか、評点を見ればおおよそおわかりいただけるでしょう。
ハマリ度 : 8 / 10
 全編通してタブレット、キーボード無しでクリア。ミニゲームに多少苦労はしたが、タッチパネル操作を十分に配慮していると感じた。
 短い探索パートとミニゲームを繰り返しながらシナリオが進むが、ほとんどのミニゲームが1~2回限りの使い捨て、ステータス上昇も実績もない。プレイ感覚としてはQTEゲームに近い。初回プレイ時なら没入感を得られるが、2週目以降は努力しても結果が好転しないことを知っているせいで、ただ煩わしい。
 プレイヤーが展開に関与するのは、せいぜい最終盤のエンディング4択くらい。犯行をプレイヤーに操作させる真相編の狙いはわかるが、全編通してプレイヤーが主体的に関わっている感覚に乏しいため、いつものお使いイベントの延長で終わってしまうのがもったいない。
グラフィック : 8 / 10
 独特の質感のある一枚絵は良い。しかしキャラドットが平板なので、背景色によってかなり見づらい。特にエントランスの床の色は濃いので、見えにくくなりやすい。
サウンド : 9 / 10
 DOVA-SYNDROME行けばなんとかなると思わせてくれる、安定した選曲。クライマックスでのタイトル曲逆再生は狙いとして面白い。

魔法少女もので少年が変身することをどう思うか?
 ジェンダーフリーの観点から言えば、魔法少女を女子に限るのは差別的であると言えるでしょうが、ボクはその点にあまり興味がありません。
 ボクの立場としては、美しい人が、美しい衣装を着たなら、それは美しくなるに決まっていると申し上げたい。
 今となっては、女性が男性的な衣装を着ることに対しては、特に違和感なく受け入れられるでしょう。しかし、逆はどうか。
 男性が、女性的な衣装を着ることを屈辱と感じる、それこそが差別意識ではないでしょうか。
 せっかくの美男、生かさないのはもったいない! イッツ・ショータイム!!

 上記に限っては、プレイ前の期待をそのまま書いた文章です。未プレイの方は期待されませんように。
 決して、第2話の予告画像を見た瞬間、憤怒のあまり我を忘れたわけではありません。ええ。おそらくは。

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