■ 未完のエリザ
作者 [ ナイデン内田 さま ] ジャンル [ ホラーアクションアドベンチャー ] 容量・圧縮形式 [ 101MB・ZIP ] 製作ツール [ WOLF RPGエディター ] 言語 [ 日本語 ] 配布元
レビュワー ハマリ度 グラフィック サウンド 合計 総合判定 ES 9 /10 8 /10 9 /10 74/90 シュン 8 /10 7 /10 9 /10 赤松弥太郎 8 /10 8 /10 8 /10
つぎはぎの楽譜、つぎはぎの世界、つぎはぎの恐怖。
今回のイチオシ「未完のエリザ」は、ナイデン内田 氏お得意の「ステージ制のアドベンチャー」です。序章+4ステージに様々な仕掛けが施されており、それをクリアすることでとりあえずのEND、隠し要素やパーフェクトクリアを目指すことで真ENDへのヒントが開かれる仕組みになっています。
難易度設定も絶妙です。初見では力及ばずGAME OVERとなる箇所がほとんどですが、そこも数回程度のトライでクリアできるよう考えられています。「どうしても」という場合には、作者ホームページでのヒントも完備されているため、「詰まる」心配はまずありません。
一度クリアしたら二度は御免だと思う箇所…特に「天国と地獄」ステージの大群をすり抜ける箇所…もありますが、真ENDの道筋はゲーム内のフラグではなくパスワード方式。一度クリアしてパスワードをメモっておけば、通してクリアする必要はありません。ミニゲーム部分は、ここまで考えて作られています。ストーリー面も、物語を紐解くことで「エリザ」の真相に迫っていく、そして、現実のある音楽家のエピソードとリンクしていく…これまた「謎解きの妙」を味わえるものに仕上がっています。
しかし…実をいうと、私、本作をイチオシレビューすることに乗り気ではありませんでした。本作に対し、原因不明の不快感を抱えていたのです。
本作を真ENDまでクリアして、ミニゲームを完全クリアした達成感、見逃していたヒントを再発見できたこと、そして「エリザ」の真相…その全てに感動しました。それでも、「原因不明の不快感」は消えないままでした。
その「原因不明の不快感」を消化しきれないまま、ナイデン内田 氏に今回のイチオシレビューの事前連絡をしてしまいました。「コラージュを主とし、使いまわしも多い敵デザイン」などと失礼なことも言ってしまいました。
一体、この不快感は何なのでしょう。私は、ナイデン内田 氏の作品をプレイしたのは本作が初めてではありません。マリンを主人公とした前作「棺桶時計の動く夜」もクリアしてますし、それ以前の作品からプレイしています。
この不快感を探るため、処女作の「七不思議鎮魂曲」から通してプレイすることにしました。
その中で気づきました。私が初めてプレイした「青巫女幻想曲」から、本作「未完のエリザ」まで、ストーリー導入がほぼ一緒なのです。
「美少女が異世界に放り込まれてステージセレクト」…ざっくりとした印象は、「青巫女幻想曲」から「未完のエリザ」までほぼ一貫していました。
私が「未完のエリザ」を初プレイしての第一印象も、「またこれか!」だったことを思い出しました。
思い出したのが初期の作品である「青巫女幻想曲」だったのも災いしたのでしょう。まだまだナイデン内田 氏の技術が洗練されていない時代だったため、追いかけっこの難易度が高かったり、謎解きの一部が理不尽…そこまでの行程を無にするような解答法だったり、ホームページの後書きを見ると、ストーリーも未完成だったようです。
むしろ、「青巫女幻想曲」から数々の試行錯誤を重ねて「未完のエリザ」の実績ができたのだと考えると、私もナイデン内田 氏の作品に対するトラウマを払しょくし、「未完のエリザ」の感動にアップデートするべきでしょう。ナイデン内田 氏の作品を語るにあたり、「コラージュを主とし、使いまわしも多い敵デザイン」は決してけなす意味ではありません。作品に共通する「壊れてしまった世界」を表現するために必要不可欠なものだからです。
また、絵作りのできない作者にとって、恐怖を盛り上げるクリーチャーづくりに「コラージュによる不気味の谷現象」を利用するのは効果的です。現在では1キャラとして認識されている「青鬼」も、実写の顔を歪ませて作られたキャラですし、現在のアプリ版ではヒカキンなどの実写俳優をコラージュした亜種まで登場しています。
現在は、ナイデン内田 氏のシリーズにも多数のファンが付き、美麗なスチルを提供してくれる有志も増えています。これを機に、モアイや顔デカ坊主など、クリーチャー側のレギュラーも「フワッティー」みたいなスターシステム性が欲しい所です。いつまでも「以前見たクリーチャー」扱いもあれですし。改めまして、ナイデン内田さま、本作「未完のエリザ」を心行くまで楽しませていただきました。
メール時の失礼な物言い、誠に申し訳ございません。
《 シュン 》 ハマリ度:8 グラフィック:7 サウンド:9
未完成だからこその良さもある。勝手に手を加えたりしたら・・・。
ここのサイトの作品はゴリラが印象的です。自分はこの作品以外プレイはしていませんが・・・相当癖が強い作風のようです。
この作品は第10回 WOLF RPGエディター コンテストで総合グランプリを獲得しており、その完成度は目を見張るほどです。
作者も言及していますが「未完」というタイトルですがちゃんと作品自体は完成しているのでご安心ください。
マリンという14歳のピアニストはある時、豪華客船の倉庫で「呪奏のエリザ」という呪われた楽譜を発見します。
倉庫に閉じ込められたマリンは仕方無く楽譜を弾くことになります。そして辿り着いたのは赤く荒廃した世界。
この世界ではエリザという女性がこの世界に絶望していました。更に4つの歪められた楽譜の世界が待っています。
果たしてマリンは楽譜の世界を攻略し、真相を見つけ出すことが出来るのでしょうか?
この作品はまず序章のゲームをクリアし、その後4つに分かれた世界を攻略していく・・・という流れです。
第〇楽章になっている4つの世界の攻略する順番は自由です。全て攻略するとエンディングに進んでいきます。
行く先々で様々な要素が待っています。その中にはすごろくもあり、ここの作り込みは半端ないのでぜひプレイしてみてください。
エンドは2つですが・・・最初に見るのは確実にノーマルエンド。ある条件を満たさないとトゥルーエンドには進めないようになっています。
紹介ページには攻略ヒントもあります。作者自身も見ることを推奨しているそうなのでチェックしておきましょう。
特に最後の質問は資料を見ても分かりにくいので攻略を見た方がいいでしょう。ちなみにトゥルーエンドを見るのに周回は不要です。
楽譜の世界はまるで何かに取り憑かれたような残酷なものばかり。攻略しても何も解決してなさそうな世界もあります。
しかしよく考えてみると「未完の作品に勝手に手を加えられたので世界が歪められた」というものであり、未完の状態に戻した・・・と考えれば
それほど問題があるようには思いません。未完成だからこその良さもきっとあるはずです。
道中で手に入る「忘却のカケラ」は重要なヒントになっています。条件が厳しいものもありますがなるべく全て入手し、それらを意味するものは何か考えて見てください。
一番重要なのは「名前」ですかね。その名前が何を示すのかは・・・プレイしてお確かめください。カンが良ければすぐに分かるはずです。
それにしてもすごろくは本当に作りこまれています。一度プレイした後でもまたプレイすると新しい発見があるかも・・・?
《 赤松弥太郎 》 ハマリ度:8 グラフィック:8 サウンド:8
目映い世界 魅せて
ボクが好きなゲームのひとつに、「ダンジョンキングと、ミニゲーム集」という作品があるのですが、今はダウンロードできないのですね。
SRPGツクールの傑作、ワイルドキングダムシリーズの第3作であり、メインの「不変なダンジョン」では骨太のSRPGが楽しめる……のですが。
本編を覆い尽くす14本ものミニゲームが総じて、実験作だったり、一発ネタだったり、嫌がらせのようなギャグだったりで、プレイヤーから見て「なんじゃこりゃ?」と言わざるを得ないものがほとんどです。
作中で作者曰く、「こんなのマイナス要素にしかならないってわかっててあえて入れてるんだ!」「せっかくつくったの削除するのもったいないから…」とのこと。
次回作「覇王」では、本編よりもおまけのすごろくの方が面白いと言われてしまったり、この後のリィさんは迷走が続きます。
中でもぶっちぎりの物量作戦を展開しているのが「グッドバイキング」ですね。ボクは大好きだなぁ。
メインになる4本のゲームも、大量のミニゲームも、玉石混淆、それぞれ個性豊かすぎておよそ収拾が付かない混沌の闇鍋と化しています。
それをオープニング、作者がこのゲームを作るまでというメタゲームを導入することによって、強引にひとつのゲームだと主張してくるのです。
今となってみれば、作者さんの自己評価が低かったのもうなづける話ですけどね。質の面でバラツキがひどいし、ゲームとしてのまとまりがありません。その反省が「ツクラーの野望」を産んだのでしょう。
しかしボクは、もったいないから混ぜちゃったという、制御不能な混沌の中にこそ、リィ作品の魅力があったように思えてならないのです。
さて。
「グッドバイキング」から17年が経ちました。
ネット環境は常時接続が常識になり、「作ったものはCDに詰められる限り詰めて郵送しよう」という考え方は、もう誰もしません。
今では、「小さい作品でもまず完成させよう」という考え方が普通ですし、みなさん推奨しています。
たとえ小さなアイディアであっても、ゲームとしてまとめあげる力が重視される、そんな時代なのだろうと思います。
そんな現代の視点に立つと、本作のゲームとしてのまとまりには、だいぶ妖しい部分があります。
本作のメインは、5つの「楽章」と呼ばれる世界の探索ですが、それぞれの世界の独立性が高く、ギミックもルールもまるで異なります。
楽章と言うからには、序章、第一楽章から第四楽章へと続く連続性があるはずなのですが、本作のストーリーから連続性は読み取れませんし、どこからプレイしても問題ないよう作られています。
その中でも特に独立性が高く目を引くのが、第三楽章のすごろく。探索ADVというジャンルさえ踏み越えます。
「元々美しかった世界が、歪められてしまった」というバックグラウンドさえ、すごろくの中には歪みが及んでおらず、その点でも浮いています。
今は探索して、理解を深めるパートだから統一感がないんだろう、この後歪みを正していく解決編で、すべての世界を繋ぐような話になるんじゃないか……とも期待していたのですが、さにあらず。
解決編はトゥルーエンドで語られますが、これまた各楽章の世界とは独立したアフターストーリーです。
各楽章からパスワードとなる文字を集めてくるというミッションが追加されますが、クラシック音楽の知識が多少でもあれば、序章の文字だけでパスワードは推定できるので、それ以外の各楽章をプレイし直す必要もありません。
最後の推理にしろ、解決編の中で完結している内容で、各楽章を思い返す必要すらないのです……。
いっそ各楽章のギミックをより掘り下げて、個別に独立した作品として仕上げた方が、完成度は増すんじゃないか? という疑問が、当然出てきます。
特にすごろくなんて、それ単品でやりたい人もいるでしょうし、純粋に探索ADVだけを目当てにしている人から見たら、下手をしたら時間を取られるだけの邪魔になっているかもわかりません。
本作がまずギミックありきで作られていることは、プレイすれば明白です。
一つ一つのアイディアだけでもゲームが作れるはずなのに、どうして全部混ぜてしまうんだろう、もったいない、と思う人がいても不思議ではありません。
わかりますか? 観点がズレてるんです。
本作は、現代に蘇ったダンジョンキングであり、グッドバイキングなのです。
「せっかくつくったの削除するのもったいないから…」なんですよ!
ボクはナイデン内田さんの作品は本作しかプレイしておらず、作者性にまで踏み込んだ議論はできません。
ですがおそらく、このような「ミニゲーム集」を作る理由は純粋に、思いついたものをどんどん放り込むのが性に合っているからに違いありません。
当初想定していたのと、結果としてまったく違う物になってしまうのも、それでは致し方のない面があります。
ReadMeで繰り返し強調するゴリラ成分も極薄ですしね。ボクは過去作を知りませんし、ゴリラ要素をほとんど踏まないでクリアしたので、正直困惑するばかりでした。
最後の作者部屋では、各世界のギミックを振り返りながら、「もっと工夫のしようがあった」「うまく活かせなかった」「未熟さを実感した」と反省しきりです。
しかしボクはそこから、作りたいものを作っているという楽しさばかりが感じ取れるのですよ。
そういう部分でもリィさんを思い出すのですよね。
しかし、やはり課題となるのは、ゲームとしてのまとまりについてです。
例に出したリィさんは、そもそも「ゾンビでた~」のように、一つのアイディアでも完成度の高い作品を作れる技量の持ち主です。
それでも、「グッドバイキング」ほどのゲームともなれば、まとめ上げることも大変で、量と作り込み両面で圧倒してなお、メタゲーム導入という、ある種の裏技を使わざるを得なかったのです。
しかし、この17年の間に、ボクたちは新しい武器を手に入れました。
いわゆるホラーゲーム、探索ADVというパッケージです。
近頃はびこる、ホラーとは言えない内容であっても、なんでも「ホラーゲーム」として売り出してしまう強引さには、辟易している人も多いと思います。
しかしそれこそが、ホラーゲームというパッケージの強さを証明していることは、異論が無いでしょう。
どんなゲーム性であっても、なんでも受け入れてしまいますからね。
そして、未完の楽曲というモチーフ選択も、とても良い着眼点でした。
1つの楽曲の世界という断りがあれば、どんなに多彩な世界観が混ざり合っていても、何も問題なく共存できるのです。
さらに、未完である、ということ。
何かの着地点を想定して、そこに辿り着くように構成されたものではない……
まさしく、本作のスタンスに自己言及しているのです。これもメタの一種と言えるでしょう。
語弊はありますが、本作もまた「未完」なのです。
今回は第四楽章までで終わっていますが、別に第五楽章、第六楽章と作り続けたって、本作は何の問題もなく受け入れられたのです。
それぞれの楽章毎に見ても、問題解決の方法は楽章の中では提示せず、未解決のままで終わっています。完結していません。
そして、本作は「未完」であることに意味がある、とボクは思うのです。
「コンサートに出るには未完成の曲は認められない」という科白は、完成した作品しか受け付けないウディコンと、本作に対する自己言及と考えて間違いありません。
無理矢理この作品世界を完結させることを躊躇したナイデンさんが、過去のリィさんと同じ手法を採ったのは、はたして偶然でしょうか。
もし意識していないとすれば、とても示唆に富んだできごとだと思うのです。
まあ、比較に出したダンジョンキングやグッドバイキングと本作、ゲームそのものの性質はまったく異なりますけどね。
まずプレイ時間が、本作はせいぜい数時間ですから。真面目にパスワード集めをやるともう少し伸びるかな?
これは時代の違いと言うより、戦場の違いでしょうね。
審査員が必ずプレイするという保証のもと、重厚長大化が進み疲弊を招いたコンパクと、限られた時間での一般審査という制度上、長い作品は回避される傾向のあるウディコンの差です。
本作単体の評価としては、そつなくまとまった作品と言えるかと思います。
- ハマリ度 : 8 / 10
- 作者部屋の反省点がいちいち的確で、特に付け加えることは無いように思う。
思いついたまま要素を実装しても、必ずしもプレイヤーにとって楽しいものになるとは限らない。ストレスになってしまうこともあるだろう。
しかし、この作品についてはこれで構わない。挑戦と冒険を続けてほしい。- グラフィック : 8 / 10
- 素材メインの構成だが、描き下ろしのトゥルーエンドのインパクト、そしてメニュー画面のカットなど、押さえるところはきちんと押さえてある。この点でもまとまりがとても良い。
- サウンド : 8 / 10
- 各楽章毎の曲、不気味な効果音、そして書き下ろしのトゥルーエンド曲と、これも押さえるところは押さえた構成で隙が無い。必ずしもインパクトはないが、ストレスにならない作り込みが好感触。
いや、繰り返し言いますが、本作の性質上、そつなくまとめること自体、とても大変なことですからね!
もしかしたら今回、本作はたまたま上手くいっただけ、なのかも知れません。
ナイデンさんが今後も冒険をし続けるのなら、そのアイディアが必ずしも、プレイヤーに受け入れやすいものになる保証もないのです。
しかし、それでも一向に構わない、とボクは思います。
ぜひとも、自分がときめくものを追い求めて、ゲームを作ってもらいたいと願うのです。