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■ シロツメの檻

シロツメの檻
作者 [ ホシノオト。 さま ]
ジャンル [ 会話劇 ]
容量・圧縮形式 [ 70MB・ブラウザゲーム ]
製作ツール [ RPGツクールMV ]
言語 [ 日本語 ]
備考 [ 現在、ブラウザ版のみプレイ可能 ]
配布元 ダウンロード先

(補足)
2023.06.28:ゲームアツマールのサービス終了に伴い、リンクを変更。

シロツメの檻 シロツメの檻 シロツメの檻 シロツメの檻 シロツメの檻

レビュワーハマリ度グラフィック サウンド合計総合判定
ES 8 /10 10/10 8 /10 49/60 B
赤松弥太郎 7 /10 9 /10 7 /10

 《 ES 》  ハマリ度:8 グラフィック:10 サウンド:8

囚われのドラゴン、囚われの少年。

本作「シロツメの檻」は、その「大人の童話」な雰囲気に惹かれてイチオシにした作品です。ADVとしても短編で、シナリオの尺自体は1時間もない作品です。
人死にや出血表現こそ多少ありますが、それこそ「童話に出るレベル」であり、決して子供に見せられないほどの刺激的な表現ではありません。
END数は4つ。BAD ENDである1~3は簡単な選択肢で見られますが、TRUE ENDはかなり条件が厳しくなっています。「竜と少年の会話」というミニマルな舞台ながら、選択肢は意外に多くあります。実を言うと、私ことESは自力でTRUE ENDを見れていません。イチオシレビューの連絡を作者に出すと同時に、作者自身から攻略法を教えてもらって、やっと見れたのです。

本作、「選択肢は多い」と言いましたが、実際にEND分岐に関わる選択肢は「同じ選択肢が繰り返し出現しない」3か所のみです。ほとんどの選択肢は「話題」として全選択しないと話が進まない仕掛けです。
しかし、私は公式サイトのヒント「少年の気分が下がらない選択肢しつつ最終日を迎える。」(原文ママ)という情報を深く考えすぎてしまいました。この「全選択しないと話が進まない」会話に「少年の気分が下がる話題」が多数入っていたのです。何とか「少年の気分が下がる話題」を避けようと他の選択肢を繰り返し選んでも話が進まず、途方に暮れてしまいました。
正直言って、答えを知っている現在でも、何故「自分の小屋に描いた絵の種類」が少年の気分に影響するのか分かりません。END1に分岐する「人間の絵」はともかく、「風景の絵」を見た少年の態度は「気分が下がっている」ようには見えないのです。必ず触れる「他の人間」の話題で「話を変えてもらっていいかな…」と少年が言うシーンの方が、「気分が下がっている」印象が強いのです。

選択肢がTRUE ENDを迎えるかどうかは、最後の最後まで行かないと分かりません。しかし、その最後の最後で分かる「少年と竜が本当に望んでいた結末」は、確かに感動となる展開でした。
TRUE ENDのヒントに「壁の落書きの選択肢で『ドラゴン』を選択。」が追加された現在なら、TRUE ENDを見るのにさほど苦労は掛からないでしょう。END1, 2に分岐する選択肢を除けば、他の選択肢はどちらが「少年の気分を下げない」選択か明らかなので。
本作は、ぜひ全てのENDを見てほしい物語です。私からは、どれも「完全な『めでたしめでたし』とはいかない展開」とだけ言及しておきます。

 《 赤松弥太郎 》  ハマリ度:7 グラフィック:9 サウンド:7

花咲く場所が きっとみつかる

 菓子と、他の料理との違いは何か。
 ボクは、主となる目的の違いだと答えます。
 生きるために必要なエネルギーを摂取し、腹を満たすために作られるのが、料理。
 であれば、菓子は、こころを満たすために作られたものです。
 人間の手によって、純粋に誰かの幸せだけを願って作られたものであるはずです。

 パンの代わりに菓子を食べても、腹は膨れるかも知れませんが、それは菓子の目的ではありません。
 腹を満たすという役割から解き放たれているからこそ、菓子には、食べ過ぎれば毒になるような量の砂糖や塩分が含まれていたりします。
 日々の喧噪からいっとき離れ、少しだけ食べて、少しだけの幸せを感じる、というのが菓子のあり方です。
 快いものだけを摂りつづけても、幸せなんて感じられないでしょう?

 酸いも甘いもあるのが自然。
 人間にとって好ましいものばかり求めても、それはやはり不自然で、歪んでいるのでしょう。
 童話もまた、同じこと。
 甘いだけの童話というのは、やはり不自然で、どこかに苦みのあるお話の方が、信用できるとは思いませんか?

オープニング1
 ええ、「童話のような」という比喩が、本作のレビューには必ず付いてくるでしょうね。
 「童話っていうことは、つまり残酷描写ですね!」と色めき立つ、ボクのようなひねくれ者も、はい、いるわけです。
 ご安心下さい。期待するまでもなく、本作は過酷です。

オープニング2
 こちらにおわしますのが、本作の主人公であるドラゴンです。
 反抗期の男の子みたいにいたいけで、まあなんて可愛らしいのかしら!
 ……そんな訳ありませんよね。相手は何百年生きたかもわからない、万物の霊長ですよ?
 本来ヒトとは比較にならないほど巨大で、強大で、賢明な生き物を、無理矢理小さな姿に押さえつけて、弱体化させているのです。
 あまりに不自然で、歪んだ状態です。いつ爆発するかもわかりません。
 なのに安全装置は小さな魔法の錠前、たったそれだけ。しかもその鍵は、飼い主である少年が保管しています。
 これ、大量破壊兵器のボタンを、子どもに渡すってことじゃありませんか。

オープニング3
 このドラゴンが、幸せと自由をもたらすんですって。
 なんとも皮肉の効いた、いい台詞ですね。
 当のドラゴンは虫かごに押し込められ、幸せでも自由でも何でもないと言うのに。
 だいたい、子どもに「お前に自由と幸福をやろう」と嘯きながら自爆装置を渡すって、どこのテロ組織だよ。
 実に悪意が詰まりすぎたギフトです。
 それほどの悪意を、この年齢で向けられてしまう少年というのも、ただ事ではありません。

マドレーヌ
 不自然な環境に押し込められ、歪められてしまっているのは、ドラゴンも、少年も同じこと。
 そんな2人の関係を繋ぐのが、お菓子です。
 望むものが手に届かない、牢獄の中にあって、ほんの少しの慰めを菓子に求める。
 それが、淡く消えてしまういっときの幸せでしか無いことも、きっとわかっています。
 それでも2人は、菓子と同じように、互いの存在を求めずにはいられなかったのです。

 いたいけという言葉は本来、心が痛むほどいじらしい、という意味だったそうで。
 「かわいい」と「かわいそう」は元は同じ語源という説も、この2人を見ているとなんとなく頷けてしまいます。

 甘みも苦みも、ギュッと詰まった本作の味は、ボクの好みではあるのですが。
 ゲームとして見た時に、ちょっと(から)い、じゃなかった、(つら)い部分が目立つんですよ。
 これは惜しいなあ。

ハマリ度 : 7 / 10
 短編にもかかわらず校正が甘く、助詞抜けが多い。進行するほど誤字・脱字が増えるのがとても残念。
 選択肢でキャンセルすると常に2番目の選択肢が選ばれる点や、ドラゴンが自分の名を明かしていないのに少年が呼んでしまう点も気になった。ほとんどキーボード操作なのに、オープニングの1箇所だけマウス操作が必須である点も不親切。
 アドベンチャーとしては、20世紀の香り漂う古風な作り。何が正解が全くわからない選択肢に、一発即バッド、最後の最後で全問正解か判定する方式までも併用。その凶悪さに対して、セーブスロットが5つだけでは心許ない。短編だからかろうじて成り立ってはいるが、たやすくクリアはさせないという意識があからさま過ぎる。
 そのテーマから、自由度はとても低く、マップの変化も乏しい。一方で、ものを調べた時のテキストは作り込んであり、タイミングによって細かく変化する。全体のボリュームに対してとても豊かな背景を垣間見せる、本作の醍醐味がある。
グラフィック : 9 / 10
 童話調の世界観にプレイヤーを引き込む画風は本作のハイライト。ドラゴンの歩行グラフィックもよくできている。
 馬車のシーン、Ctrlキーを押しっぱなしだと少年の顔がズレる。選択肢や独白等、実際に台詞をしゃべっていない場面で彩度が下がる演出は、画面が妙にくすんでいるようにしか現状見えない。彩度をもっと下げて、頻度ももっと下げ、演出にメリハリを付けてほしかった。
サウンド : 7 / 10
 同じ曲がローテーションで繰り返し流れる日常シーンが印象に残る。閉塞感を感じさせる演出にはなっている。
 文字送りの音が文字表示と合っていない点はかなり気になる。台詞送りの音も含め、本作の雰囲気と合わないように感じる。

 クロスレビューという形式を採るので、切り口が少なくなりがちな短編は回避されがちなイチオシレビューですが、いや本作はイチオシに選ばれて良かった。
 インパクト勝負ではなく、丹念に作り込んだからこそできた、忘れられぬ味わいが、ここにはあります。

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