■ 断片思想
作者 [ 黒時 さま ] ジャンル [ 横スクロールアドベンチャー ] 容量・圧縮形式 [ 241MB・ZIP ] 製作ツール [ WOLF RPGエディター ] 言語 [ 日本語 ] 配布元
- (補足)
- 2020.11.05:現在の最新バージョンは1.05です。
レビュワー ハマリ度 グラフィック サウンド 合計 総合判定 ES 9 /10 10/10 8 /10 53/60 赤松弥太郎 8 /10 9 /10 9 /10
《 ES 》 ハマリ度:9 グラフィック:10 サウンド:8
吐くほど厳しい、断片の真実。
本作「断片思想」は、美しいドット絵で描かれる、美しくそして残酷な物語です。そして、それを味わうためのADV部分も、かなり難易度が高くなっています。
- 序盤で、しゃがみ移動でのスニーキングアクションなど、本作のアクションシーンの「基礎」を厳しく学ばされる
- 屋敷で目覚めてからは、6日×朝昼晩で2回ずつ水晶を集めるタスクがある。タスクは「手帳」にブラッディ・マリーが書き記してくれるので、確認しながらこなしていくこと
- しかし、手帳の上側にあるタスクを解決すると時間が進んでしまう。下側から優先して解決する必要がある
- 深夜にも水晶を集めるタスクが2つある。1つは、ブラッディ・マリーの話を聞いて、次の日のタスク内容を書いてもらうこと。もう1つは鏡のシンリーから教えてもらった場所に行き、探索ステージをこなすこと
- 探索ステージの目的は、基本的には謎2つとアクションステージ1つを乗り越えてゴールの大水晶までたどり着くこと
- このアクションステージが曲者。1日目のハリセンボンが密集した通路を通過するには、しばらくハリセンボンの動きを見て隙間を探らないといけない
- アクションステージだけは事前にアイテムを使うことでスキップ可能。END分岐にも影響しない(と攻略情報に明記されている)
- しかし、アクションステージをスキップするアイテムは、例外なくアクションステージ後の「水晶の欠片」を取るために使用する。1日目以降の水晶の欠片は、「アクションステージを越したご褒美」としてより深いストーリーを味わうために存在する
- そして、「水晶の欠片を放棄したり、欠片で開ける扉の先にあるストーリーを見なくても、END分岐に影響しない」と言われている通り、水晶の欠片で開放されるストーリーはヴィネア自身が吐くレベルでキツいエピソードばかり
- アクションステージ最後に手に入れた大水晶を持って「献上室」に行くことで、1日のタスクは終了となる
- そして、この「献上室」での行動がENDの重大な分岐条件となる(と攻略情報には少しボカして記されている)
そう、本作は「うっかり折れてしまうフラグ」が最初から最後まで林立しています。それを解決するために、セーブスロットは40個とかなり多めに用意されていますが、このセーブ操作が本作最大の困りもの。セーブ・ロードの操作が独特すぎるのです。
- 1画面に表示されるスロットは8個まで。セーブ9以降のスロットはCキー(3ボタン)を押してページを切り替える
- ただし、ページを戻すボタンはない。行き過ぎてしまった場合は、もう4回Cキーを押さないといけない
- Zキー(1ボタン)を5秒近く押しっぱなしにしないと、セーブ・ロードは実行されない。ゲージが満ちるまでにZキーを離すと、セーブ・ロードは中断される
わざわざ自作してまでこのような煩雑なセーブ画面にしたのには、理由があるのでしょう。1つは本作で徹頭徹尾貫かれている「雰囲気」をセーブ画面にも反映するため。そしてもう1つは、数秒の猶予を持たせることで、上書きしてはいけないセーブを止める判断を与えるため。それだけ、作者は本作のセーブに慎重さを求めているのです。
本作には、それだけ慎重で細かいセーブが求められるのです。本作は1周するだけで5時間近くかかる長丁場。しかも、1日目の行動からEND分岐があるため、下手したらほぼ最初からプレイをやり直す羽目にもなりかねません。
そして、それだけやりこむ価値のある物語と絵姿であることは、この私が保証します。屋敷内のタスクで集まる6色の水晶は、それぞれ屋敷の使用人6名に対応しています。彼女たち6名の「屋敷に来るまでの人生」が、水晶を集めるごとに一遍ずつ明かされていく仕掛けも施されています。
6日×朝昼晩ごとに書斎や鏡の間に溜まっていく資料も、攻略のヒントにはならないものの、物語のヒントとしては重大な意味を持つ文章ばかりです。少なくとも1周目は、屋敷内を隈なく探索し、資料・会話・タスクを万遍なくこなすことをおススメします。
登場人物の意味を、屋敷の意味を深く知ることで、ヴィネアの真相、そしてプレイヤーがやらかした行動の意味と罪がより心に刻まれることでしょう。
《 赤松弥太郎 》 ハマリ度:8 グラフィック:9 サウンド:9
なぜに生まれてきたかなんて 考えてもわからないんだ
難点から先に言いますと、本作、導入が長すぎるんですよ。
ゲーム開始後、迷宮に放り出され、古典的すぎる謎解きと鬼ごっこが十数分。
次に館の地下室へ放り出され、長い長い廊下を歩き、地下室とは反対側の浴室に辿り着いてから、一部屋ずつ丁寧に案内してもらって数十分。
ついつい引き出しを開けて調べたり、寄り道したりしがちですが、特に実りは無く、時間はどんどん過ぎていきます。
やっと案内が終わって、これから自由行動かと思ったら、鏡に1つ1つ水晶を嵌めて回るお使いイベントが発生……。
短気な人でなくても、切るかどうか検討するタイミングだと思います。ボクも正直迷いましたもん。
初見でここまで辿り着くのに30分~1時間弱、ここまで本作本来の楽しみはほとんど出ていません。
1日目の深夜までプレイすれば、本作がどういうゲームなのかわかってくるのですが、この長い長いゼロ日目を終えるまでが、まず壁です。
ゼロ日目で切ろうか迷っている人に対してボクができることなんて、ネタバレくらいしかありません。
初見の驚きも大事なんだろうけど、そこまでプレイしてもらえないんでは、元も子もありません。
これから書くことは、ゲーム慣れしている皆さんなら、だいたい1日目をクリアする段階で感づく仕掛けでしょうから、あらかじめ知っておけば、判断が付くと思うんですね。
よって、
※ここから先、ネタバレを含みます
これでよろしいか。
まず伝えておきたいのが、本作はホラーでは無いという点。
ホラーの定義が人の数だけあるのは百も承知ですが、ボクとしては、不条理がないものをホラーとは呼べないなあ。
強いてジャンル分けするなら、サイコミステリー、ですかね。すべての謎が解明される、という意味で。
エンドAに辿り着き、すべての本を読みこなせば、この館はなんなのか、住人は何者なのか、スッキリと判明し、後味の悪さはまったく残りません。
鬼ごっこやアクションも、本作の重要な要素だけど、しかしテーマではありません。
あくまでも本作のテーマは、館の住人たちとの交流です。
時々刻々と変化する会話、水晶の欠片を集めるミニゲーム、そして深夜に発生する「空間」、その全てを通じて、プレイヤーは住人たちのことを理解していきます。
ケームプレイそのものというより、住人たちと親交を深める、その過程が楽しいのです。
ただ、ちょっと名前が覚えにくいですよね。
おさらいとして、館の住人たちをまとめましょうか。
服装で割と印象が変わるので、目の色と髪の色で覚えましょう。
最初に出会って、着替えを用意してくれた子が、イリシュ。
館の掃除や洗濯、備品の管理などを一手に担っている、働き者です。
良く言えば真面目ですが、融通が利かない面もありそうです。
歓迎会の主催者、カーテナー。
腕の確かな料理人ですが、館の住人たちは偏食家揃いで、フェンとテトラしか食堂を利用していないのだとか。
料理以外の所では、かなりそそっかしい所が散見されます。最初に見かけた時も、床にものをぶちまけてあたふたしてましたね。
作中最も豊かな表情を見せる子で、見ていて飽きません。
館内を案内してくれた、テトラ。
中庭や花瓶など、館内の植物の世話をやっています。
とても面倒見がいい子です。反面、ちょっと行きすぎてお節介焼きになってしまうこともあったり。
とはいえ、唯一フェンから外出許可をもらっている住人で、その点では信用されていると言えます。
浴室の前でばったり出くわした子が、フェン。
私服姿も印象的ですが、ベールに黒服姿の方が記憶に残るかもしれません。
普段は礼拝室で祈っていたり、書斎で本を書いていたりします。
のんびりとした話し方をしますが、個性派揃いの住民の調整もしていて、こう見えて色々と気を使っているようです。
応接室の双子の姉、メメル。
浴室に向かう時、ドアからのぞき込んでいたのがこの子です。露悪的に振る舞っていますが、ヴィネアへの興味が隠せません。
普段は応接室で、妹と一緒にいることが多いようです。
なおテトラとフェンは2階の「寝室」、イリシュとカーテナーは1階の「私室」で寝ています。
メメルの妹が、シルル。ちょっと名前がややこしいので注意。
とても絵が上手く、描いたものは夜になると動き出すとか。
応接室や書斎にいて、フェンの書いた本の挿絵を描いたりしています。
とても無口な子ですが、ヴィネアといる時は気が休まるようで、だんだんと話してくれるようになるでしょう。
鏡の中の幽霊さんも、まあ、館の住人と言っていいのかな?
翌日、水晶の欠片がもらえる場所を手帳に書いてくれる、攻略上とても重要な子です。
会話の話題については、攻略上重要なものはありませんが、住人たちや館のことを知る上ではきわめて重要です。
館のことなら、誰よりもよく知っています。雑談もとても重要なので、お見逃しなく。
他には、厳密には館の住人では無いけどシンリーとか、
あと忘れちゃいけない、ヴィネアもいますけど、
何を書いてもネタバレにしかならないから、この2人は割愛!
おしまいです!
今回の目的はあくまで、キャラクターの早見表の提供でした。あぶないあぶない。
語りたくなる魅力に溢れたキャラクターですが、本編で余すところなく語られますから、無粋なことはよしましょう。
さて。
ゲーム慣れしている皆さんであれば、1日目が終わる頃には、エンドAに辿り着く条件が見えるでしょう。
しかし、エンドAを見ただけで、本作のすべてが理解できるわけではありません。
掘り下げて理解するには、寄り道するのが近道です。
上でも述べた、住人たちとの会話やミニゲーム、そして幽霊さんの裏話。
館の謎を理解する手がかりは色々ありますが、中でも重要なのは本です。
同梱の攻略情報に、本は世界観を補足するためのもので、攻略とは一切関係ないと明記されています。
つまり、世界観を理解するためには最重要と書いてあるんですね。
住人というフィルターが存在しない分、そのメッセージはより直接的です。
中には、あまり関係しなさそうな本もありますが、答えそのものなんじゃないかという本もあったりします。
明らかにジャンルが偏っていて、心理学関係の本が特に多い。
当たらずとも遠からずなものを1つ紹介するとしたら……「世にも怖い心理学実験シリーズ」でしょうか。
ミルグラム実験、スタンフォード監獄実験、サードウェイブ実験と、タイトルを眺めているだけでもメッセージが伝わりますよね。
エンドAに至る最初の分岐を踏破した皆さんなら、これが何のことを言っているのか、理解できるはずです。
さらにもう1つ、謎解きの大きな鍵がありますが、よもや見逃してはいないでしょう。
各「空間」に1つずつある隠し部屋のことです。
アクションスキップに用意されたアイテムを消費せず、別の場所で使用することで、鍵が得られます。
これまた同梱の攻略情報にて、アクションやステルスを省略してもED分岐には一切影響しないと明記されていますが。
世界観の理解に影響しないとは書いてない。つまり、そういうことです。
力の入ったムービーシーンなので、その点でもぜひご覧頂きたいですね。
最初は、このムービーが何を意味しているのか、100%は理解できないと思います。
理解できるとエグいですよ。そりゃあ吐き気もしますって。
何がエグいって、こういうシーン自体は割とありふれているというところです。共感しやすいのです。
ゲーム上、エンディングに必要なイベントでは無いことは、確かなのですが。
しかしヴィネアにとっては、これはいつかは直面する問題だった気がします。
いろいろ予断を与えているのですが、本作は丁寧に作ってあるので、やり込もうとすれば自ずと、こうした要素には気がつくはずです。
丁寧に作られた本作をやり込もうと丁寧にプレイすれば、初見でAエンドを達成し、すべての謎が解明できた爽快感が味わえます。ボクが証人です。
しかしながら、そのやり込む気が起きるかどうか、というと……ボクも周回プレイしたいとは思わないんだよなあ。
必ずしも、丁寧に作ってあることが、プレイヤーのやる気につながるとは限らないのです。
- ハマリ度 : 8 / 10
- 物語の導入としては、失敗ではない。しかしゲームの導入としては、楽しみをほとんど見いだせない。グラフィックの美しさは間違いなく武器だが、それだけで30分も引っ張れるほどフリーゲーマーは悠長ではなさそうだ。
丁寧というのも困ったもの。引き出しの中身まで作り込んであるのは純粋にすごいと思う。ゲーム本編にはほとんど関わらないのも、それはそれで結構。しかしオープニング時点で、思わず引き出しの中身を漁り始めてしまうのが、やりこみゲーマーという人種なのである。それで本筋を見失ったり、飽きたりしてしまうのは、プレイヤーの責任より、楽しみ方の方向性を打ち出せていないゲームの側の責任が大きいと思う。
鏡ワープが開通すれば、動線がスッキリしてテンポは格段に良くなる。そこまでプレイすれば本作の強みは十分に出ているだけに、惜しいの一語に尽きる。
難度は高くないし、誘導も丁寧に作ってあるので、ミスした時はミスしたとわかりやすい。
ただし、意地悪ではある。時間経過するミニゲームと気付かずクリアし、水晶の欠片を取り逃がす、隠し部屋を見逃す、エンドC以下が確定する、等々、ボクは細かなことを見逃してはリセットをしていた。1ミスするとエンドAにはたどり着けない仕様だし、1週の時間がそこそこ長いゲームだから、最初からコンプリートを狙っていたのがその理由。
1週目でエンドAを見てもらう想定なら、予め判断できる情報を出して欲しい。1週目でエンドAにたどり着かなくてもいい想定なら、周回の負担をもっと軽くできないものだろうか。- グラフィック : 9 / 10
- ドット絵、そしてアニメーションはまさに圧巻。これ単品であれば異論無く10点。
しかしゲームとして見ると、特に館の見通しの悪さを指摘せざるを得ない。これも根は丁寧さにあって、書き込み量が多く、キャラグラが大きいから発生した問題。
ウディタでも横長ウィンドウ設定は可能なので、採用する選択肢もあったと思う。
UIのわかりやすさもまた素晴らしい。- サウンド : 9 / 10
- クラシックのピアノ曲を多数採用した、安定感のある選曲。
SEのタイミングが細やかで正確なのが美しい。「自分はどこまでも普通の人間」だと悩む主人公ですが、それはちょっと待っていただきたい。
作中の描写から見る限り、本作開始時点で主人公が、まっとうな精神科をまっとうに受診していれば、高い確率で病名がついたと推定されます。その程度には異常です。
本作ではひどく悪い扱いを受けている精神科医ですが、それはストーリー上のことであって。
生きづらさを抱えているなら、診療が必要な場合も多々あるし、悪い精神科医ばかりということもないのだと、そこは弁護しておきたいところです。
なにしろ共感しやすい作品です。「もしかして自分も……?」と思い悩む人もいるかも知れませんが、ご自身の健康については、医療機関にご相談を。