■ ラシュイットリーテ
作者 [ 笹見 観 さま ] ジャンル [ ほのぼの日常系ファンタジーADV ] 容量・圧縮形式 [ 381MB(RTP同梱版), 184MB(RTPなし版)・ZIP ] 製作ツール [ RPGツクールVX Ace ] 言語 [ 日本語 ] 配布元
- (補足)
- 2020.12.25:現在の最新バージョンは、1.03です。
レビュワー ハマリ度 グラフィック サウンド 合計 総合判定 ES 8 /10 10/10 9 /10 53/60 赤松弥太郎 8 /10 9 /10 9 /10
《 ES 》 ハマリ度:8 グラフィック:10 サウンド:9
日常が壊れ、そして生まれる物語。
本作「ラシュイットリーテ」は、「キャラとの交流」が重要になるアドベンチャーです。
前半部の攻略として、「サレス・ノエ・マルルース・エンリカの4人とのエピソードを最後(ex)まで進める」があります。エピソードの完全制覇は「各日で3回攻略できたなら余裕。2回以下だと達成不可能」という絶妙なバランスになっています。そのために、各エピソードで「いい感じの選択肢」を選ぶ必要があるのです。
「いい感じの選択肢」にも、「目印が入って分かりやすいが、主人公の能力値が一定以上ないとPERFECT扱いにならない」「残り3つの選択肢から話の流れをヒントに、PERFECTな選択肢を選ぶ」の2種類があります。
公式ホームページに入っている攻略は、「答え」のみしか記載されておらず、「PERFECTな選択肢となる理由」については本編をしっかりと読み進める必要があります。
物語の全貌を知るためにも、より深い物語を知るためにも、しっかりとシナリオを読み込むことを推奨いたします。そして、全キャラのエピソードを完全読破してからが、「ラシュイットリーテ」の本番となります。前半部で触れた各キャラの「不穏」とは規模も方向性も段違いの、ラシュイットの真相に迫る「不穏」が。
この「真相」についても、前半部のエピソードでしっかりと伏線が張られています。そのためにもエピソードは見逃し厳禁ですし、見逃さないよう色々な演出や濃いキャラで魅せてくれます。
もちろん、後半部の展開はネタバレ領域。ぜひダウンロードして自らの目でご覧ください。そして、本作を楽しむためには、ある程度好みの問題が出てきます。本作に出てくるキャラクターは、誰も彼も、主人公を含めて問題児ばかり。いや、一番の問題児が主人公と言えるレベルに、主人公がトラブルメーカーとなるエピソードも多いのです。特にノエ編で主人公のダメっぷりは顕著になります。
主人公を含めた各キャラの「ダメな所」も含めて愛せるかどうか、それが本作を楽しめる条件となります。
各キャラの愛すべきダメっぷりは、オープニングからエンディングまで詰まりっぱなしです。そして、ダメな所もあるけれど優しく一生懸命なキャラたちが織りなすラシュイットの物語、ぜひ余すところなく堪能してください。
プレイ時間は1周で2時間ほど。各キャラのENDを見る場合は、エピソードを最後(exまで全部見てからの祭り本番後)まで進めたセーブデータを分けて取っておきましょう。
《 赤松弥太郎 》 ハマリ度:8 グラフィック:9 サウンド:9
見えなかった愛を 心の目で確かめて そして強く立ち上がれ
ちょっとした算数の問題です。
本作の自由時間は7日間、そして1日のお手伝い回数は最大で3回。すなわち作中最大でも7 × 3 = 21回。
対してエピソードは、4人のキャラクターそれぞれに5つずつ、4 × 5 = 20本。
つまりお手伝いをフルでこなしても、1回分の猶予しかないということです。
1日3回お手伝いする条件は、1日1回もバッド選択肢を引かず、1回はパーフェクト選択肢を引くこと。
では毎日3回のお手伝いを続け、全員の全エピソードを見るためには、どのような初期ステータスで望めばいいのか……
と、ここまで計算する人なら考えてしまうでしょうね。
でもそれは大きなミステイク。
結論から言えば、ステータスが必要な選択肢は一切選ばずとも、1周で全エピソードコンプすることは可能です。
「ステータスが必要になるんだから、見返りも必ず大きいはず」というゲーマー的な考え方が、誤りの根本です。
いいですか、サレスのエピソード1の選択肢をよくご覧なさい。
会社で人と会おうとする時、社内をぶらついて探そうとする人、いないでしょう?
まず受付を通しますよね?
「やりたいことを思いつくままにやったって間違いじゃない」「どれを選んでも結局どうにかなる」とラッシェはおっしゃいますが、効率の面から見てあからさまな正解もまた、存在するわけで。
ステータスを使う選択肢は、成功すればバッドにはならないと保証されてますが、必ずしも最善の選択肢ではありません。
能力によるごり押しよりもスマートな解決方法が、たいていの時は見つかるはずなんです。
最善の選択をする、少なくとも最悪の選択を避けるには、きちんと考えることがベースです。
相手を知り、主人公を知り、状況を知れば百戦殆からず、でしょう。
さほど難しくは無いので、身構えずに取り組んでいきましょう。状況のわかりやすさで言えば、サレスのシナリオが一番でしょう。
警邏ルートの確認のため町を案内する、というミッションは、地元民である主人公なら、選択肢を選ぶ余地も無くクリアできるので。
むしろメインになるのは、そんな誰でもできそうな仕事なのに、町長の子息に頼らざるをえない、彼の周囲の事情の方です。
しかし、サレスだってエリートですし、地方赴任の経験だってあります。
なるようにしかならないし、そのあたりは特に心配する必要はありません。
仕事はできる人なんですよ。
心配なのは、彼の仕事以外のポンコツっぷりの方なので。
この図体のでかい男が、いたいけな主人公に身の回りの世話をさせるなんて、絵面が犯罪ですよ、まったく。
後半になると、ステータスが高くないとどうにもならない状況になってくるのが、サレスシナリオの難しさです。
最悪の事態にはなりにくいので、他のシナリオでパーフェクトを狙うのがよいでしょう。
一転、状況がむつかしいのがマルルシナリオ。
商店組合のお手伝いということで、政治的な駆け引きが前面に出るシナリオです。
ただし、主人公が直接組合と交渉するわけではない、という点には十分注意してください。
主人公の立ち位置は、あくまでマルルの手伝い。マルルの支えになれれば、それでいいのです。
要領が良く、しっかり者の印象を受けるマルル。ですが、それだけの人ではないことを、長い付き合いのある主人公は知っています。
バカがつく程の正直者で、やや失言癖があり、主人公の前だとお姉さんぶって、背伸びしすぎてやらかすこともあり……
一言で言うと、可愛らしい人なんですよ、彼女もまた。
そんな彼女をフォローするように、背中を押すように動いていけば、必ず結果は着いてくるはずです。
……男の子主人公の初恋の行方も、きっと、もしかしたら。
5歳年上、兄の幼なじみという関係をひっくり返すほどの甲斐性が、果たして見せられるかどうか、ですけどねえ。
主人公と同学年の幼なじみで、無二の親友であるノエ。
でも今回、せっかくのお祭りだというのに、ノエはどこかピリピリしていて……
という、幼なじみの関係から一歩踏み出して、新しいロマンスが始まっちゃいそうな導入に、ドキがムネムネしちゃいますね。
まあ、いくら年齢以上に幼い2人とはいえ、子どもの頃のままの間柄でいることが難しくなってきた時分でもありました。
主人公は、町長の子息です。衣食住、何一つ不自由なく、特に目標もなく、今までのほほんと生きてきました。
一方ノエは、孤児です。
主人公がなんとも思っていなくても、ノエの方が身分の違いを感じています。
養児院にいられる刻限も次第に迫る中、二人が将来のことを考え初めても、なんの不思議もない頃合いなのです。
やーん甘酸っぱーい。
……といった、後々のことを気にするのは、若い2人にお任せするとして。
このシナリオでプレイヤーが気をつけるべきは、適切な人に適切なことを頼もうという、1点に尽きます。以上。そして、謎の歌姫エンリカ嬢。
旅の一座の歌姫と言いながら、世間ずれした感じはなく、というよりむしろ世間からちょっとズレてます。
いつもほえほえとしているかに見えて、肝心なところでは鋭く切り込んできたりと、独特のリズムに振り回されます。
しかし、よく内面を見れば、ごくごく普通の17歳の女の子。
恋に恋するお年頃の乙女ということです。
女の子主人公だと、エンリカはしょっちゅう粉を掛けてはイチャつこうとするのですが、ボクにはどうにも、淡泊に感じるんですね。
なにせ本作には、男の子主人公とノエという、完全にデキてるカップルがいるので。比較するのもかわいそうな話なんですが、ああいうどろりと濃密なニュアンスが、エンリカにはありません。
ある年ごろにありがちな、頭でっかち耳年増的なアレで、いざ本気で迫られるとヘタれて逃げ出すタイプと見たねボクは。カワイイなあ♥
攻略については、そこまで迷う要素はない、と思われます。
常識の範疇で考えれば、最も効率の良い選択肢は何か、少なくとも困った時の神頼みは役に立たなそうだなと、判断できるはずなので。
エピソード4だけは、初見ではノーヒントの運試しです。ステータスごり押しか、リセットプレイでいいでしょう。
ここまでのヒントで、おそらく、皆さんは公式の答え合わせを見たり、虱潰しをせずとも、1周で全員の固有エンドが見られるはずです。
どの選択肢も魅力的なので、全選択肢ローラーしたくなる気持ちもわかりますけど、ギャラリーモードでやれば十分でしょう。
というのも、ギャラリーコンプのためには、最低2周必要なんですよ。男の子と、女の子で。
2周目の途中でダレていたボクの評点です。
- ハマリ度 : 8 / 10
- 丁寧に分岐を作っているのは好印象。ギャラリーだけでは確認できない、細かい分岐もある。キャラクターが定まっているからこその安定感がある。
バックログやスキップ機能はあるが、スキップは遅め。そしてセーブデータまわりの仕様ははっきりとした不満点。オートセーブされる度に初期カーソルがスロット1に戻る、そしてスロット1にセーブするとオートセーブ上書き & 次回オートセーブで上書きされる、イベント中はオートセーブのみで任意セーブ不可能、そのせいでオートセーブをゲーム内で別スロットに待避することが不可能、クリアデータが通常セーブスロットを使い上書きできてしまう、等々。ギャラリーモード自体はグローバルセーブを使っているのに、クリアデータだけツクール2000ライクな仕様なのは謎。
女の子主人公からプレイしたからだろうか、男の子の台詞がほとんど女の子と共通で、細かいところだけ違っている点には違和感が強かった。キャラクターとして異なる味付けをしている以上、大筋で同じストーリーを辿るのはまだしも、リアクションが一致することがここまで多いのは考えられない。女の子と同じような台詞を言う場面と、独自の台詞を言う場面の間でキャラクターの断絶を感じる。- グラフィック : 9 / 10
- 淡い色合いと適度な丸さが暖かい。実写背景もあわせて淡色に調整されているが、見分けは付きやすい。
ただし、ステータス画面の進行度表示では、この淡さがマイナスになっている。モノクロの絵に下から色が付いていく演出では非常にわかりづらい。- サウンド : 9 / 10
- 木管とストリングを中心にまとめており、配布元の違いを越えた統一感がある。場面ごとの使い方もメリハリがあって印象に残りやすい。
結局本作の魅力は、グラフィックを見て感じたような、ユルくて暖かい雰囲気にこそあるんですよ。
多少シビアな背景も描いてはいますが、この作品の中では、きっとすべてが赦される、そういうぬくもりを感じてほしいと思います。
肩肘張らず、多少遠回りしたって、いいじゃありませんか。