■ イツワリの令嬢少年
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作者 [ meLtRoman さま ] ジャンル [ 3D探索ADV ] 容量・圧縮形式 [ 966MB(解凍後)・Steamからインストール ] 製作ツール [ RPG Developer Bakin ] 言語 [ 日本語 ] 備考 [ 要・Steamクライアント ] 配布元 ![]()
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レビュワー ハマリ度 グラフィック サウンド 合計 総合判定 ES 8 /10 10/10 9 /10 50/60 ![]()
赤松弥太郎 8 /10 8 /10 7 /10
《 ES 》 ハマリ度:8 グラフィック:10 サウンド:9
影が渦巻く情念の世界、だからこそ、一筋の光は美しい。
本作「イツワリの令嬢少年」のテーマは「倒錯」。男として生まれながら「令嬢」として育てられた主人公・リズ。それ故に性格も捻じ曲がり、誰に対しても…愛するニンフに対しても「嫌な」態度を取るリズ。しかし、倒錯しているのは彼だけではありません。私が見た限り、登場人物の半数以上が何らかの形で倒錯しています。
それと同時に、いや、倒錯しているからこそ、本作は「耽美」なる物語です。水晶のごとく綺麗で儚い外見の中に、ドロドロと凝り固まった様々な情念が渦巻く…その濁流を美しく描いた物語です。
本作はその物語を、「リズに宿った『誰か』」という一段上からの視点で巡ります。プレイヤーが握り操るものは、リズの運命だけではありません。視点…プレイヤーとして操る「黒薔薇の魂」の正体のみならず、全登場人物に秘められた「ドロドロと凝り固まった様々な情念」を解き明かしていきます。
息子であるリズに「令嬢」として生きる運命を強制した、厳格で冷酷な父
我が子を想いながら、夫に逆らえず何もできない母
一癖も二癖もある使用人たち
そして、リズの婚約者でもあり、リズに黒薔薇を与え、この物語へと導きだしたクレスト。
いったい登場人物は何を想ってリズの周りにいるのでしょうか。もちろん、「リズを想う登場人物」の中には、「あなた」…黒薔薇の魂も含まれています。本作は探索ADVですが、舞台は2階建て+中庭を設けた屋敷内に限定されています。基本的に「屋敷内に点在する特定人物に話しかける」「特定の場所に行ってイベントを閲覧」の手順で進むため、屋敷内の隈ないローラー探索が求められます。もちろん、「点在する全ての人物に話しかけ」「行ける場所全てに向かう」プレイが推奨されます。物語を理解する意味でも、実績を解除する意味でも、分岐条件を達成する意味でも。
で、この探索ですが、私にとってはとにかくキツかったですね。酔うんですよ。操作も画面もFPS形式なもので。探索シーン…イベントを探す時間はどうしても中だるみになるため、物語で牽引するにも限界があり…。
FPSな操作性自体も、あまり褒められたものではありません。
- 人物含めた障害物に頻繁に引っかかる
- 事物への調査・人物との会話・ドアの出入りに「対象をセンターに入れて左クリック」が必要なせいで、思った通りにイベントを出せない
- 「3Dな背景に2Dな人物」というペーパーマリオ仕様ゆえに、背景に隠れた人物が見つけづらい場面がある
3D酔いで鈍った頭では所々で必要な人物が探せず、細かい休憩が必要でした。
それでも、本作は最後まで楽しんでほしい作品です。前半の「(ひねくれて歪んだ)リズから見た、(令嬢相手故に取り繕われた)各登場人物の表面」、中盤の「(一種イーブンな状態の)『黒薔薇の魂』から見た、(それでもやはり取り繕われている)各登場人物の表面」、そしてラストでようやく判明する「『黒薔薇の魂』を含めた各登場人物の本心」…本作は、「人物の物語」を醜い面を含めて、王道的に、丁寧に、美しく描いた物語なのです。
そう、ネタバレではありますが、本作のストーリー本筋は意外なほどに「王道な愛の物語」。ただし、全ての人物が幸せになるわけではありません。死ぬ人物だっています。道中の選択によってその生死が分かれるEND分岐も存在します。
そんな本作の物語、ぜひ自分の目で奥底までご覧ください。先述の通り、攻略手順は「屋敷内を隈なく探し回ればストーリーが進む」「ストーリーが進んだら変わった場所をまた隈なく探し回って見つける」の繰り返しなので、とても簡単です。
もし「変わった場所が見つからない」ならば、家具や柱の裏に人物が隠れている可能性があります。「隈なく」の範囲は意外と広いので、心してください。そして、アップデートの予定があるならば、現在のFPS的な操作系統に加え、3DダンジョンRPG的な(1マスずつカクカクと動く)操作系統を追加してほしいです。
本作、FPS的な「360度自由に細かく動ける」が長所となる場面がほとんどなく、3D酔いしやすい・障害物にめり込む・イベントの当たり判定から微妙に外れるなどの短所ばかりが目立ちます。
「一人称視点」であることは物語上重要ですが、「3DダンジョンRPG的な操作」でも本作の物語は十分に表現できるでしょう。ぜひご検討ください。それだけで本作は色々な方面で(酔いにくい・探しやすい・障害物に重ならない)プレイしやすくなるはずです。
《 赤松弥太郎 》 ハマリ度:8 グラフィック:8 サウンド:7
立ち向かえよ魂 空より高く青く
「前近代が舞台で、女が男であることを強いられる物語」といったら、すぐに池田理代子と手塚治虫が思い浮かぶでしょ?
「前近代が舞台で、男が女であることを強いられる物語」というと、パッと思いつかないじゃないですか。
男の娘ブームだのTSブームだの時代は移り変わってきましたが、どういうわけか時代ものは、まだまだ手つかずで残ってるフロンティアです。
ましてTSでも芝居の女形でもなく、性自認は男のまま、嫌々仕方なく女として生きてるなんて、おいしいネタなのに供給がほとんどゼロなんですよ。
これはやるしかないでしょう。
窓際で一人物思いに沈む女装少年。
政略結婚の前日、身分違いの慕情を押し殺してお付きのメイドを突き放し、メイドはそれをすべてわかった上で受け容れる。
屋敷の中では彼女以外味方と思えず、婚約者との会話もうわべばかり。
屋敷の外に逃げ出すことも叶わず、バルコニーで遙か高い空を見上げては沈み込む……
いやーツラい、けどイイ、こういうの大好き!
15の少年がそんな目に遭えば、「なんでも叶えてくれる妖精」なんて言いつたえにすがって、かのメイドと結ばれたいと願ってしまうのも道理です。
が、しかし。
その結果、現れた妖精に身体を乗っ取られてしまい、リズの意識は深く沈んでいき……
ええ、その後、リズから妖精に操作が移り、リズを操作することは、金輪際ありません。
終盤でリズは目覚めますが、自ら能動的に動くことはほとんどなく。
結局、この物語を通してリズ君、何もやってない。
気付けば彼を取り巻くすべてが変わってしまい、彼としてはとんでもない状況になるのですが、彼は流されるまま。
少しは見せ場もあるものの、やはり主人公になり損ねた少年という感は拭えません。
まあ、手詰まりの状況だとはいえ、他人に自分の運命を委ねてしまった時点で、彼には主人公たる資格が無かったのでしょう。酷な言い方ですが。
ということで本作、リズ君に取り憑いたその「妖精」さんが主人公です。
この妖精さん、当初はしがらみが無いのをいいことに、屋敷の中のそこら中に首を突っ込みます。
そして暴かれる、この屋敷の人間模様、それぞれの人物の思惑と裏の顔。
タイトルである「令嬢少年」ではなく、彼を取り巻く背景、舞台装置に視点が移っていきます。
まあ、男子が生まれたにもかかわらず、それを歪めて女として育てるのは、誠に遺憾ながら不自然ですからね。
だから供給が少ないのもわかってますよ。
「わけのわからない遺言に従って」とか、「魔法で気がついたら」「そういう世界だから」とか、そんなご都合でごまかしたくない以上、舞台装置は大がかりにならざるを得ません。
ただし、時間は限られています。
結婚式まで一日足らず、プレイ時間2時間未満という短期間では、プレイヤーがすべての課題を解決することなんてできやしない。
当座の状況を改善し、あとはリズたちに託すしかないのです。
当然ながら、お気軽な大団円にはなりません。
そして運命の輪は否応なく回り、歴史は淀むことなく紡がれていくのです。
さて、そんな本作が、正式リリースから半年経っていないRPG Developer Bakinで制作されたことに注目が集まるでしょう。
ティラノやツクールではなく、なぜBakinなのか?
本作のグラフィックはPS2と比べても見劣りする程度で、わざわざ一人称視点の3Dで表現する意義はあったのか?
意義はわかりません、が、意味はあったとボクは思います。
本作のマップは、プレイすると意外と広いというか、閑散としてるんですよね。
なのにマップ構造は単純で、行ける場所は限られている。人との会話は頻繁に更新されるものの、人数もさほど多くはない。
心理的に窮屈というか、広いだけの鳥籠に入れられている印象を強く受けました。
たぶんこれ、2D見下ろし型では味わえない感覚だったと思うんですよ。
少年が、苦しい状況に絶望しながらあがき、成長し、立ち向かおうとするも運命に翻弄されていく……
タイトルからそんな話を期待していたボクとしては、半分程度は肩すかしでしたが、十分に納得のいく読後感でした。
作者さんを勝手に同好の士と思ってるんですが、他にも色々やりたかったこともあったのは窺えます。
それを抑えて、このボリュームに収めたのは好判断だったと思います。
作り込みはとても丁寧で、手抜かりは見当たりませんでした。
ただまあ、ボリュームと言えば、ボイスに関してはちょっと。
音量がバラバラで、聞いていてツラいところがありました。
BGMをしっかり聞きたいからとBGMのボリュームを上げると、ボイス再生中にBGM音量が下がるようなこともなく、かき消されてしまうことも多かったです。
予算の制約もあってリテイクもそうはできないだろうと思いますが、ならばミキシングでなんとかするしかないところなので、そこは今からでも改善を望みたいところです。
もちろん次回作にも期待しております。
美少年の絶望顔は、なんぼあってもいいですからね。