■ END ROLL
作者 [ せがわ さま ] ジャンル [ 探索要素が多めな、絶望系RPG。 ] 容量・圧縮形式 [ 292MB・ZIP ] 製作ツール [ RPGツクール2000 ] 言語 [ 日本語 ] 備考 [ 現在のバージョンは、1.09 ] 配布元
レビュワー ハマリ度 グラフィック サウンド 合計 総合判定 ES 9 /10 9 /10 9 /10 80/90 DECOすけ野郎 8 /10 9 /10 9 /10 赤松弥太郎 9 /10 9 /10 9 /10
全ての悪徳を味わった少年
本作のシナリオの中心となるのは、主人公の少年・ラッセル。当然ですね。本作の世界はラッセルの見る夢なのですから。
「Moon Whistle XP」のレビューで赤松氏が指摘した点が、本作でも一部当てはまります。
しかし、当たっているのは一部のみ。本作の主人公・ラッセルは、ぜのん19歳のように悩み、絶望した人間ではありません。絶望するほど成熟していない(特に精神的に)のがラッセルの特徴であり、ストーリーのキーポイントとなるのです。
序盤を見て驚いたことでしょう。ラッセルの為した悪徳を。「なんてサイコパスだ、本作の主人公は!」と憤慨した方もいらっしゃるかと思います。
しかし、本作は決して「悪を賛美する物語」だったり「主人公が堕ちていく物語」ではありません。むしろ、「主人公の成長譚」という、まっとうな物語なのです。ストーリー3日目辺りで「罪悪値」というパラメータを目にするでしょう。これが、本作の重要なパラメータであり、「主人公の成長」を表すバロメータでもあるのです。
メイン一本筋に行くと、目にすることないままNORMAL ENDに行くかもしれません。「罪悪値」の上昇には、ヒントさんや情報屋たちが度々指摘する通り、寄り道が重要になります。
ただし、その寄り道で明かされるストーリーは、メインストーリー以上に「絶望的」な代物。当然ですね。「メインストーリーで味わった絶望の後追い」なのですから。
理想郷と思っていた夢の世界が「徹底的にタチの悪い刑罰」であることをこれでもかと味わせてくれます。
「罪を感じないサイコパスに『人並みの幸せ』を与えることで、罪悪感を自覚させる」というテーマで描かれた物語は、探してみれば意外と出てきます。
その中で本作が特徴的なのは、RPGとしてプレイヤーが実際に「罪を感じないサイコパス」であるラッセルの世界をラッセルの視点で体験することで、「罪悪感を自覚してゆく」ラッセルの成長と絶望を目の当たりにすることにあります。
しかし、本作の寄り道を味わえば味わうほど、「どうしようもないな、こいつの人生。」という思いもまた生まれてきます。ラッセル自身が原因でない悪徳も、同じようにプレイヤーを襲ってくるからです。そんなラッセルたちとプレイヤーに襲い掛かってくる悪徳に対処するためには、RPG的な成長と戦闘が必要不可欠になります。
序盤では驚くでしょう。従来のRPGツクール製のゲームに比べてデフレ気味の設定になっているので。ディスペルハーブが1クルミで購入できる経済状態、1桁ダメージの応酬となる戦闘、地味目の展開です。
そんなデフレ具合も、後半になると値上がりしてきます。それへの対処にも「寄り道」が重要になります。
寄り道の敵は、強い分経験値が多めに手に入るため、レベルが低めの仲間を育てるのに役に立ちます。ストーリー後半では、マーケットとシーサイドの間の道に占い小屋のような建物ができ、そこでボス戦が追体験できます。経験値稼ぎをするならば、ここを拠点にするのがオススメです。いざという時の回復やアイテム補充が楽にできるので。
繰り返しの戦闘は好まないプレイヤーにも、「ベッソー島」という抜け道があります。ベッソー島では、温泉や魚料理でステータスの底上げができるのです。正直、これほど強力な成長要素を100クルミ+αで手に入れられるのはお得すぎです。ベッソー島を購入できる頃には、充分溜まっている金額です。
上記2つの寄り道は罪悪値には影響しないため、積極的に利用しましょう。それ以外にも、攻略的なネタバレ要素は全て、作者様のHPどころか同梱のReadmeに余すところなく記載されています。
これらの攻略的なネタバレを見た上でTRUE ENDを見ましたが、その上でもズシンという衝撃が来る顛末だったことだけ伝えておきます。
これほどの衝撃が来るのは、仲間たちが皆「いい人たち『だった』」から。そう私は解釈しました。
優しさがつらくなる…その展開に耐えられる方には、きっと良い衝撃が楽しめるでしょう。耐えられない方にはオススメできません。「罪」と「絶望」を描いた物語だからこそ、楽しめる方に届いてほしい。そう願っています。
《 DECOすけ野郎 》 ハマリ度:8 グラフィック:9 サウンド:9
終わりの始まりの 始まりの終わりに向かって 突き進んでいく
今月も不調につき短縮版でお送りいたします。しかし、これはネタバレ無しで書くのは難しいな。
えーっと、15歳以上推奨の、時々ほのぼの、だけどダークなホラーRPGです。
主人公の父がお酒やお馬さんに夢中になっている間、母親は家に男を取っ替え引っ替えし馬(略)という非常に荒んだ環境で育ってしまった主人公が、いろいろアレなことになってしまったので今の状態になり、「どーしてこうなったのか」という過程を突っ走っていきます。
ちょっぴり脅かしもあり、グロあり、いろいろな交流もあるのだけれども、主人公はこのまどろみのHAPPY DREAMという悪夢から抜け出せるのだろうか…というのがだいたいの内容です。どこに行けばいいのか、何をすればいいのか、という攻略はサブシナリオ含め全て作者さんのホームページに全て書かれているので、詰まったらそこを参考にすると良いでしょう。
ゲームバランスは、想定していたよりは易しいものでした。ちゃんとダンジョン内でレベル上げをしていけばボスは倒せますし、時折やっかいな敵もいますが属性や状態異常に気をつけてさえいれば問題なく進めるでしょう。
いろいろとサブシナリオもあり、さらにはマルチエンドを採用しているため、ならべく時間をかけてゆっくりと進めていったほうがより一層楽しめることでしょう。
…で、これは、多分やる時期を間違えていたと思う。ゲームが悪い、というわけではなく合う合わないの問題があると思うので。多分、それかなあ、とは思った。もっと主人公に近い年齢だったら、何かこのゲームにのめり込むことがあったのかもしれない。ゲームもやる時期というのが非常に大事ですよね。はい。
《 赤松弥太郎 》 ハマリ度:9 グラフィック:9 サウンド:9
あるさ、そりゃ。でも本当にはしなかった。当たり前だよなそんなの。
人を殺すか、殺さないかなんて、本当に薄い皮一枚の違いでしかありません。人間に大した違いはありゃしません。
ただし、「やったか」「やらないか」という違いは、厳然として、どうしようもなくそこに残ります。
いくら理解し、共感したとして、その一線を踏み越えることはできないんです。
本作の主人公ラッセルは、幾多の人を殺めた立派なイカレ野郎です。
これ、既にクリアした人には強く言っておきたいんですが、その点で彼に同情の余地は一切ありませんからね。
彼には精神疾患を疑わせるものはなく、責任能力、つまり罪を犯した自覚もある。
その動機は多くの場合、身勝手で一方的です。日記で空々しい表現を使って動機を正当化する彼は、見ていて寒々しいものがあります。
たしかに、彼の過酷きわまる家庭環境は、人格形成に深刻な影響を与えています。
統計的には、あのような環境で育てば、殺人等の犯罪を起こす率が高まる、相関関係があると言えるかもしれません。
しかし、彼が殺人を起こしたという個別のことについて、その責任は家庭環境にのみあり、本人には無い、なんて話は通らない。
被害者にとっては理不尽としか言いようが無く、遺族の心中を察するにあまりあります。
操作キャラたる主人公が、そんなイカレ野郎。
本作、導入の時点で主人公をプレイヤーから隔絶しています。
オープニングで因果応報と言われ、白い部屋に監禁されテレビ越しにくそみそに言われた時点で、まあ、うすうすわかるじゃないですか。
にも関わらず、本作の舞台となるのは主人公の夢の中。言ってみれば100%彼です。
登場人物も、世界観も、すべて彼から出てきたものじゃありませんか。プレイヤーに逃げ場所はありません。
ゲームを進めるためには、同情の余地も無いイカレ野郎の内面と向き合うしか無いのです。
そんな作品が、どうして楽しいのか。どうしていつの間にか彼に共感するようになるのか。
ゲームとして、RPGとして、ちゃんとできているからです。
凝ったシステムや目新しさこそありませんが、ストーリーに神経を使う本作にとっては、かえって絶妙のバランスと言えます。
寄り道要素を探し、手に入れた技や装備で強化していく。その過程は、ゲーマーの性としてどうしたって楽しいのです。
この世界を探索すればするほど自然に、その世界の主であるラッセルを、深く理解していくことに誘導されていきます。
ラッセルと自分の違いを指折り数え、なぜ彼は殺人者なのか、なぜ自分は殺人者では無いのか、そこに違いなどあったのか、考えずにはいられないのです。
しかし、プレイヤーはラッセルの理解者である一方で、ラッセルの破壊者でもあります。
プレイヤーが探索を進めれば進めるほど、ラッセルの世界はどんどんと傷つき、壊れていきます。
「ラッセルのため」なんて大義名分は、結局嘘っぱちです。
テレビのおねえさんは「画期的な更生プログラム」などと言っていますが、奴らに更生の意志なんかないことは、最初からわかりきってます。
しかしプレイヤーはこれに乗っかって、ゲーム感覚でラッセルの死刑を執行しているとも言えるわけですから。
それもこれも、RPGとしてちゃんと作っているから。プレイヤーとして参加している自覚があるからこそ、この胸糞悪さが成立するのです。
たとえば、キャラクターについて。
この世界は所詮、ラッセルの脳内。一部の例外を除き、登場人物も全てラッセルの脳内の幻に過ぎません。
人形劇の一人芝居なんですよ、この世界は、どこまで行っても。
他人への興味の薄いラッセルのこと、現実世界での彼らがどの程度この世界に反映されているか、大いに怪しいものです。中にはほとんど接点の無い、通り魔的に殺しただけの人も含まれているんですから。
遺族が知ったらどう思うでしょうね?
殺されてなお、その殺人者の脳内人形劇に参加させられる……距離を置いて見ているとおぞましい光景ですよ。
なので、ボクはあまり本作の登場人物達と、深い関係を結びたくないのです。
どうしても、虚しい感じが抜けません。
しかし本作は、徹底的にキャラ立てをしています。本当に細かく作り込んであるのです。
イベントの移り変わりで細かく変化していく台詞に、回復ポイントでの会話。デートイベントに入浴イベントまで完備。
そしてトゥルーエンドは、全プレイヤーキャラごとの分岐まで用意されています。
細かく作り込んであれば、コンプリートしたくなるのがゲーマーの性でしょう。
ええ、ボクもやりましたとも、映画館デートのコンプリート。一人だけ一緒に観られない映画があると知った時は悲しかったなあ。
しかし、ボクは思ってしまうんです。
なんで彼らの好感度を稼がなきゃいけないんだ? と。
種明かしをすると、実はこの作品、好感度システムはありません。
映画館イベントなんて、いかにも好感度が上がりそうですがフェイク。実は終盤のある選択肢だけでキャラシナリオに分岐する仕組みです。
まあ、最初の方の選択肢までキャラ別ルートに反映していたら、再プレイが大変ですものね。そういうところもちゃんと考えてあるんです。
でもボクは、年齢に身長、全身の設定画まで公開して、いかにも二次創作を歓迎するような公式の姿勢を、立派だと思いつつ、それに迎合できない自分も感じていました。
そんなことをしたところで、彼らが浮かばれるわけではないじゃないか、と。
だからルート分岐の時も、特に深い考えも無く、適当にユーミを選んだのです。
ボクの印象が変わったのは、本当に最後の最後になってからでした。
エンディング後のおまけダンジョンをクリアすると、開発室的なおまけが開放されるんですね。
そこで、作品世界から解放されたプレイヤーキャラと触れることができる。
さらに、操作キャラを変更することもできて、プレイヤーが操作していないラッセルと会話することができる。
そこでようやく、ボクのEND ROLLが終わった。ボクはラッセルから離れることができたのです。
やっとわかったんですよ。
この夢の世界の住人たちも、ちゃんと生きていたんだ、ということが。
彼らがラッセルから生まれ出た者だったとしても、クスリの幻覚でしかないとしても、彼らのいのちもまた、彼らの真実だったんです。
そしてそれは、ラッセルも同じ。彼もまた生きていたんです。
プレイヤーが操作されていようが、関係ない。彼は彼で、ひとつの人間だったのです。
彼なりに必死に生きていたんです。それが、どうしてこんなことになってしまったのか。
ボクはここに至ってやっと、ラッセルを少し理解できたのだろうと思うのです。
まあ、本当に簡単で、当たり前の話なんですけどね。わかっている人には最初からわかっているでしょう。
ボクのような鈍い人間には、あのおまけ部屋は必要なものでした。
もし良ければみなさんにも、そこまでやり込んでもらえればと思うのですが。
色々と残念だった点にも触れていきましょう。
- ハマリ度 : 9 / 10
- エンカウント率がやや高め、そしてザコ敵がやや固め。寄り道してキャラを強化しても、快適とは言いにくい。ザコ戦闘も本作の重要な構成要素ではあるが、ただでさえストーリーが重いので、ザコ戦闘はもう少し楽がしたい。
ドーピングと全員用の本を一切使わず、全キャラ経験値を均等に育ててプレイ。ラビリンスやおまけダンジョンは、各キャラごとの個性が楽しめた。せっかく各キャラ使い道が違うのだから、経験値格差の是正措置がほしかった。世界観の設定としても入れて不自然はなかったと思う。
よくやり玉に挙がる時限イベントの多さと、寄り道要素による分岐については、多分攻略ページの作りが悪い。エンディング分岐の説明では、最低限バッドエンドを回避できるイベントだけを書くべきだった。見逃してしまった時限イベントを突きつけられるのは、プレイヤーの心証に良くない。- グラフィック : 9 / 10
- 戦闘アニメーションがぐりぐり良く動く。バリエーション豊かなキャラチップが、小さな箱庭世界のごった煮感をよく現している。
マップや一枚絵は、色数を抑えたマットな仕上がり。本作のモチーフでもある16ビット機を思い出させる。- サウンド : 9 / 10
- 40曲書き下ろし。別荘の音楽モードには一部収録されていない曲があるので直接再生すること。
ループは短め、10秒未満のものさえ存在するが、それぞれにハッキリとした情緒があり、飽きが来ない。特に突出した曲は無いが、全体としてまとまりがある。
mp3が再生できない環境があるためか、すべてwaveになっているので容量に注意。ツクールローダーを使う時は圧縮したままだと起動に時間が掛かるので、一度解凍しておいた方が良い。入浴イベントのあるRPGは名作、というリストに加わる作品でした。
しっかしこうして並べると、どのイベントもゲームの個性がもろに出てますね。本作の場合はそれほどでもないかも。