■ 星の王女さま
作者 [ haco さま ] ジャンル [ 童話テイストの長編RPG ] 容量・圧縮形式 [ 592MB・自己解凍EXE ] 製作ツール [ RPGツクールVX Ace ] 必須ソフト [ 日本語 ] 配布元
レビュワー ハマリ度 グラフィック サウンド 合計 総合判定 ES 8 /10 9 /10 9 /10 53/60 赤松弥太郎 9 /10 9 /10 9 /10
生と死の狭間、そこで生きる少女たち。
前作「片道夜行列車」を踏まえて本作「星の王女さま」を見ると、もう私には二者のような複雑なシステムの戦闘を行うのは「片道夜行列車」ぐらいの長さが限界なのだと気づきました。
「片道夜行列車」も「星の王女さま」も、ステータスとスキルは全て装備品で強化する仕組みになっています。ほぼ固定のドロップだった「片道夜行列車」に対し、長編の「星の王女さま」では、装備品の強化も様々な道があり、それらを全て使いこなさなくてはなりません。
敵からのドロップ、マップから拾う、素材と大金を集めて限界突破…詳細なチュートリアルが付くとはいえ、これらを全て使いこなすのは、中々に記憶容量を使います。
当然、戦闘難易度に関しても「星の王女さま」は「片道夜行列車」以上です。
ダメージの応酬が激しく、アイテムも各10個までと制限が厳しいため、カプセルをボリボリと、ポーションをゴクゴクと貪りながら進むのがセオリーとなります。幸い、カプセルは敵から余る程ドロップするし、ポーションに至っては飲んだ後の空き瓶が無いとアイテムを獲得できないマスまであります。ドロップ品の活用という点でも、アイテムはドシドシ使うことを推奨されているのです。
また、「星の王女さま」にはF.O.E…撃破特典が得られる強敵がフィールド上に点在しています。ほとんどは「ボス並み」程度に抑えられているF.O.Eですが、2番目のダンジョンでいきなり「出会うと死ぬ敵」が出てくるなど、RPG的な属性・状態異常対策以外の攻略が必要になります。特に「出会うと死ぬから避けるしかない敵」は、本作の「道に幅が無い上、ポイントに着くたびに止まる」フィールドと相性が悪いです。「近場に行かない」以外の対策が取れませんでした。
そして、私が本作で最も難易度が高いと感じたのが、画面左上のシェアODゲージ。星のゲージが満タンになったキャラのオーバードライブをコストゼロで即時発動させる強力なゲージです。…敵味方問わず!
話が進めば進むほど、敵のオーバードライブは強力になります。しかも、ODゲージを満タンにした瞬間にODが出ない場合もあり、油断していると、誰がOD権を手に入れたのかを見失ってしまいます。
対策のためには、ターン初めのコマンド選択時に残りポイントを見て、攻撃・防御を切り替える他ありません。敵に渡さないことはもちろん、誰にOD権を渡すのかも重要になります。ODの種類は、装備武器によって回復・攻撃・補助の3種に大別されます。全員のODを攻撃にして速攻を掛けるか、ヘイトを集中させやすいマリナに回復ODを装備させて耐えるか、各キャラの補助ODで敵対策をするか…対峙する敵、およびプレイヤーの趣味に応じて、戦略は大幅に変わるでしょう。そんな頭脳への負荷が大きい戦闘ですが、それを牽引してくれるのが、「片道夜行列車」と同じく少女たちが織り成す「生」のストーリーなのです。
登場キャラ全て…マリナとサツキを含めて…が秘密を抱えています。彼女ら・彼らが抱える「生」も、マリナとサツキの目を通して語られる仕掛けになっています。表面的にはユルめの語り口になっていますが、マリナの夢に出てくる幻の少女、独りの時には自身の運命に潰れそうになるサツキ、ハードな部分は「片道夜行列車」に引けを取りません。
果たして、マリナとサツキ、2人が出会う人々、手を貸す味方、対峙する敵、それぞれはどんな「執着」を抱え、どんな「生」を描くのでしょう。本当に長いストリーですが、ぜひ読み進めてください。
《 赤松弥太郎 》 ハマリ度:9 グラフィック:9 サウンド:9
天に輝け五つ星
帽子世界からの多大なる影響も感じさせる本作ですが、良い意味で換骨奪胎して、自分のものにしています。見た目ほど似てはいません。
帽子世界の、インフレ上等オーバードライブどっかんぼっかーんなバトルも良いものですが、本作のバトルはより精緻です。
本作のODも強力ではあるものの、万能ではありません。各キャラ3種類ずつのODは攻撃・補助・回復に特化しており、1回の戦闘で1種類しか使えません。
そして、本作には即時全体回復させる手段がありません。回復魔法もレアなので、特に序盤は注意が必要です。
終盤、精霊が使えると状況が変わりますが、それまでは、パーティメンバーの役割分担に注意して、回復と攻撃のバランスを取らなければなりません。
事前のセッティングが重要です。
さらに本作独自要素としてシェアOD、いわば時限爆弾ですな。爆発のタイミングで行動したキャラがODをどっかーんする、という。
これ、爆発させる権利が敵にもあるのがミソ。敵がシェアODを爆発させると、完全回復したり、即全滅クラスの攻撃を放つことも珍しくありません。
なので、シェアODゲージが溜まってきたら、速攻で自ら取りに行くか、敵に取らせないためにそのターンは守りを固めて、次のターンで確実に取りに行くか、という緩急の判断が重要になってきます。
カウンターなどの自動攻撃でもシェアODゲージが溜まるため、技能が揃う終盤になるほど頻繁にゲージが溜まり、計算しにくくなる。ハイリスクハイリターンになるのです。
これがかなり神経を使います。そしてその分、単調になりにくい面白味にも繋がっています。
そしてストーリー。前作も色々言いましたが、今作もなかなかぶっ飛んでると思いますよボクは。
だってね。オープニングのこのシーン。
オープニングでいきなりクライマックスっぽいシーンが出てきたら、これはずっと先々、最終決戦あたりのシーンを先取りして見せてると思うじゃないですか。
実際、このシーンはとても大切なシーンです。中盤の。
いい感じで盛り上がるんですが、わりとあっさり流されてしまいます。そして最終決戦まではこの後、まだまだ時間が掛かるのです。
一大決心して告白したサツキさんですが、宙ぶらりんになってしまい、みんなと一緒にいられるのは嬉しいけどと、ちょっと微妙な気持ちをのぞかせたり。
あまりにあっさり流されるので、初見では間違いなく面食らうと思いますよ。
どうしてこんなことになったのか、考えてみるに、本作の作劇法に理由がありそうです。
本作は群像劇であり、同時に点描です。
たしかに、サツキを元の世界に返すため、月の女王を倒す、というマリナの目的は一貫しており、それがストーリーの主軸になってはいます。
しかし、マリナはその目的を隠しています。当初はサツキ本人にすら話そうとしません。決して賛同者を増やそうとしないのです。
結果、マリナの仲間たちは、それぞれまったく違う理由で彼女に同行しています。
月の女王に対する仇討ちだったり、マリナとの個人的な関係だったり、ただなんとなくだったり。
登場人物それぞれの物語は関連しながらも独立しており、「みんなの力を合わせて!」みたいな熱血なノリにはなりそうもないんですよ、当初。
前作とは世界観が繋がっているというのですが、方向性はやや異なります。
前作の人物も登場し、パーティメンバーに加わったりもしますが、前作とはまた異なる面を見せています。
さらにその上で、サツキが「ナニコレ」としか言えないような電波通信が紛れ込んできたり、本作のメッセージは前作以上に多声的です。
しかし、全体を通してみれば、本作のメッセージは明確に色彩を帯びています。
表面的には乙女チックな色恋の話が多くて、前作とはだいぶ違うように見えますが、根っこは多分おんなじです。
端的に言えば、生きることであり、執着すること、となるでしょうか。
この作中世界の基本設定が、最初のミッションで説明されます。
ここは死後の世界ではあるけれど、永遠に存在し続けられるわけではありません。
存在することへの執着が消えれば、その人は消滅します。存在するためには、なんらかの執着が必要です。
しかし、執着は必ず苦しみを産みます。その苦しみに耐えられなかった者は、魔物へと姿を変えてしまいます。
つまり、存在することへの執着を持ち続けつつ、その苦しみを乗り越える意志を持たなければならない。
意志をもった執着、これを愛とか憎しみとか言うんじゃないですか?
そんなわけで、本作の登場人物はみな、人それぞれに違う愛や憎しみを持っています。
叶わぬ恋と知りながら、相手の幸せだけを願って片想いし続ける人。
相手にふさわしい人間になろうとして、好きな相手だからこそ独り立ちしたいと思って、無理を押し通そうとする人。
今はもういない人を忘れられず、その想いから行動をする人。
マリナも、月の女王も、決して譲れない執着と意志を持っている人です。だからこそ強いのです。
サツキは最初、そうした愛も憎しみもわからないまま、この世界に辿り着いてしまいました。
そんなサツキが、オープニングのあのシーンで、「みんなのことが好き」と言えるまでになったんです。
みんな、必ずしもサツキのために動いていたわけではないところが、この話のポイントです。
マリナは目的を秘密にしていたのですし、マリナだってサツキのためだけに行動し始めたわけではありません。
ギブアンドテイクで成立した愛情ではないのですね。
サツキがみんなの、それぞれ違う生き方に触れたことで、自分にとっての「愛」ってなんだろう? と考えた結果が、あの台詞だったのでしょう。
前作よりも飲み込みやすい味付けになっていますが、それでも一度に全てを把握するのは難しい物語です。
ボクもできれば複数回プレイしたかったのですが、残念ながら時間切れ。
隠しボスへの挑戦をいくつか残した段階での評点です。
- ハマリ度 : 9 / 10
- 前作同様、導入に問題があり、損をしている印象がある。
システムで言うと、ODゲージがどれか、シェアODとは何か、クリティカル発生時に必要な操作は何か、まったく説明無しに放り込まれるので、最初は画面の半分くらいの情報がわからない。わかりにくい割に戦局に多大なる影響があるシェアODが特に厄介で、せめてシェアODだけでも段階的に開放できなかったのかと思う。
ストーリーの導入は逆に欲張りすぎ。クライマックスシーンをチラ見せ→朗読による世界観説明→サツキがこの世界に来てから旅に出るまで、と3段階踏み、それぞれの情報がリンクされないまま大量に提示される。
特に朗読はこの時点では思わせぶりな情報ばかりで、実は直接ストーリーに関わるわけではない。プレイヤーとしては自分のペースで進行できない時間が続くのがつらい。絵本のような世界を強調する手法とはいえ、この作品の場合、朗読による導入を作る必要があったのかは疑問。エンディングも同様。
キー操作、Shiftキーがフィールド・メニュー・戦闘でそれぞれまったく役割が違うのは改善点。フィールドでダッシュに使うキーは基本押しっぱなしになるので、メニューでも押しっぱなしにして難易度変更してしまうことが多かった。同時押しが基本のキーボード操作ならではの問題かもしれない。- グラフィック : 9 / 10
- UIは情報の展開がまずいだけで、グラフィックではわかりやすく整理されている。派手なエフェクトも多いが、見にくくなることはほとんど無かった。
前作で指摘した、歩行グラの胸反らしは依然一部キャラで気になったものの、だいぶ改善している。- サウンド : 9 / 10
- 全体的にバランスが取れた選曲。有名どころの曲が多いものの、流れとして引っかかる部分がまったく無い。
ザコ戦・ボス戦・王女戦と戦闘曲の役割分担がしっかりしていたのも好印象。ストーリー進行に合わせて戦闘曲を変更する作品も多いが、一貫させた場合の安心感があることが学べるだろう。
ODゲージ満タン時のSEとクリティカルの入力受付SEは、できれば分けてほしかった。朗読は、それ単品では決して悪くはない。「忘れないで欲しい」。マリナの言葉はきっと、ボクたちプレイヤーにも向けられているのでしょう。
彼女たちの「生き方」を通じて、自分自身の生き方や、自分以外の人たちの生き方にも目を向けてみるのも、いいのではないですか?
本作が多声的である以上に、この世はもっと多様なのですから。