■ Rewot.16ーリワット イチロクー
![]()
作者 [ 植物の灰 さま ] ジャンル [ 血と毒の回顧RPG ] 容量・圧縮形式 [ 340MB・ZIP ] 製作ツール [ WOLF RPGエディター ] 言語 [ 日本語 ] 備考 [ 第17回 WOLF RPGエディター コンテスト 総合2位 ]
[ R-15指定作品 ]配布元 ![]()
- (補足)
- 2025.10.11:現在の最新バージョンは、Ver2.00です。
![]()
![]()
![]()
![]()
![]()
![]()
レビュワー ハマリ度 グラフィック サウンド 合計 総合判定 ES 9 /10 10/10 10/10 58/60 ![]()
赤松弥太郎 9 /10 10/10 10/10
《 ES 》 ハマリ度:9 グラフィック:10 サウンド:10
医は仁術。それ故に苦しみ、それ故に救われる。
今月のイチオシ作品「Rewot.16ーリワット イチロクー」のジャンルは、自称「血と毒の回顧RPG」。一般的に言えば「ノンフィールド型RPG」。
前進だけで展開を進めるシンプルな構造のあらゆる箇所に「血」「毒」「回顧」を詰め込んだ作品となっています。
詰め込まれている「血」「毒」「回顧」には複数の意味があります。一義的な「出血表現」「攻撃アイテムとしての毒」「回顧されるストーリー」だけではないのです。
「血」ならば「受け継がれし物事」、「毒」なら「仕掛けられたトラップ・皮肉」、「回顧」に至っては、過去の記憶そのものが主人公・アセビに襲い来る試練兼モンスターとして描かれています。
そう、本作には戦闘システム・ストーリーともに「仕掛け」が数多くなっています。ストーリーの仕掛けは、流石に読者の皆様自らの手でご覧いただきたいところ。本稿では、戦闘の仕掛けを中心に語りたいと思います。本作の戦闘チュートリアル、不思議な構成となっています。他のRPGで培った経験に従うと「最初の戦闘で傷ついたので『薬草』で回復」「シキミの『注目』で攻撃を引き付ける」という行動をとりがちでしょう。しかし、本作はそれが罠となっています。
「最初の戦闘で傷ついたので『薬草』で回復」、実はデバフ「出血」のチュートリアルとなっています。「出血」が掛かっている間はHP回復ができません。それでいてこの場面では、アドバイスが入るレベルで「薬草」を使うよう促されます(ご丁寧に、この時点では「解毒薬」を持っておらず「出血」の治療はできません)。HPが回復せず「?」と思った辺りで「出血中にHPは回復できない」というアドバイスが入ります。
また「シキミの『注目』で攻撃を引き付ける」も場面に合わせた使い分けが要ります。(序盤の)シキミはHP・防御力が低く、壁役としてはあまり役に立ちません。雑魚相手に「注目」を使うと一気に落とされかねません。復活の3ターンも、ザコ戦で費やすには重いペナルティとなります。これも、ある程度ザコ戦をこなした辺りで「実はザコ相手に『注目』は使うべきではない」とアドバイスが入ります。
この「初回に痛い目を見させる」構造、実はかなり記憶に刻み込まれやすくなっています。「少し気を緩めると負ける」「戦闘によって有効な戦法が異なる」バランスになっているが故に、「痛い目を見させて知識を深く刻み込ませる」という構造は意外と攻略の助けになっています。びっくりはしますが。
そして、本作は敗北に対するペナルティは低め。ザコ戦はすぐに逃走できますし、ボス戦で全滅しても前のフロアに戻るだけ。アイテム補給もその場でSearch(↓キー)を繰り返せば大丈夫です。
ボス戦は「誰を先に落とすか」「状況に応じて有効な毒は」など、どれもこれも作戦が必要。対してザコ戦は通常攻撃連打が最善の策で、下手な搦め手は先述の「『注目』を使うと逆にシキミが落ちかねない」など碌な目にあいません。これも幾戦の経験…時には敗走を何度も繰り返しての経験が必要になり、また、それを苦も無く繰り返せる楽しさもあります。本作では、アイテム集めの他に成長も重要です。序盤の成長要素は「アセビの最大HP」だけですが、中盤で最大HPを消費して他のステータスを上げる「Psych Up」メニューが追加されます。
「Psych Up」は、縛りプレイでない限りは「限界まで使用」をおススメします。それだけ、序盤のアセビは火力が低く、ボスへのトドメ以外はアイテム役に徹する他ありません。「力」や「速」を上げることで、アセビも火力役として十分に参加できるのです。費やせるHP量には限度があるため、「他のステータスに割り振りすぎてすぐ戦闘不能になる」という事態にもなりません。
それでは、シキミの成長はどうなるのかというと…これがストーリーの根幹に触れるのです。根幹に触れずに言うならば「後半になるまでシキミは成長できない」「それでも『注目』で伸びるステータスで十二分に(火力役としては最大強化したアセビよりも)戦える」仕様になっています。
そう、本作はシステムとストーリーが密接に絡み合っているのです。意外な箇所が意外なエピソードと。「Psych Up」メニューの開放も、ある患者の記憶を思い出したことで解放されます(それ故に画面がR-15相当の真っ赤っかな代物になっているのです)。
また、HPの成長は、序盤から終盤まで「回顧」がカギとなります。それはアセビたちの過去が分かるとともに、アセビが失い捨てたものを思い出させる悲劇でもあります。
助けられなかった悪魔病患者…
悪魔病を研究する中で狂っていった母、断絶していった父…
悪魔病に消極的な教団との対立、その真相…
R-15指定をかけているだけあり、悲劇には本当に容赦がありません。
あらかじめ伝えたいこととして、本作は「その悲劇を乗り越えるRPG」です。塔を登ることで見えてくるアセビの過去…苦い記憶を持つ人物が各階層のボスとして襲い掛かってくる展開…そして、登り詰めた末に待つ真相…。本作の本番は「ここから」です。
塔の頂上に待つ悪魔とは何なのか…明らかに怪しいシキミの、それでも予想だにしない正体は…それを常に心にとどめながら、本作をプレイしてください。
暗澹たる序盤の雰囲気によらず、爽やかな読後感を味わえる物語です。「?」と思った方にこそ、本作をプレイして欲しいと思っています。
終盤になるほど、アイテムや素材が重要になりますが、基本的に所々でSearchしていけば余るバランスになっているため、ご安心ください。
《 赤松弥太郎 》 ハマリ度:9 グラフィック:10 サウンド:10
切り札はキミの中 研ぎ澄まされた勇気にして
The Tower。大アルカナ、いわゆるタロットカードの16番目のカードです。
タロットなんて人の数だけ違った解釈があるもので、以下はあくまでボクの解釈ですのでご了承ください。作者とは解釈一致していません。
また、本作はウェイト版をモチーフにしているとのことなので、以降の説明はすべてウェイト版に依拠して行います。
「The」がついてるということは、これは特定の塔、つまりバベルの塔を指します。
神の怒り、崩壊する塔、倒れる王冠、投げ出される人々。どう見ても不穏な絵柄で、良い意味にはなりそうにありません。
災害、転落、瓦解、アクシデント……なんらかの破滅を連想させます。
強いて言えば、旧秩序からの解放と解釈できるかも知れませんが、それは予期しない、望まれない形で訪れます。
そのため占いの中では、大アルカナ全22枚のうち最悪のカードと言われてきました。
タロットカードには上下があって、上下逆さだと意味が変わると解釈されています。
ものごとの違う側面だったり、裏返しで、だいたい良い意味のカードなら悪い意味に、悪い意味のカードなら良い意味になると捉えます。これが逆位置です。
ところが塔については、正位置でも逆位置でも悪い意味にしかならないという解釈が一般的です。
なぜなら、崩壊はすでに起きてしまっている現実だからです。
逆位置でも良くて軟着陸、悪く考えれば見て見ぬふり、破綻した関係への固執という、よりひどいことになります。
さて、本作のタイトル「Rewot」とはもちろん、「Tower」の逆読みです。
そして、本作の舞台になる塔って階数の数え方が妙ですよね。
最初にいるのが、16階。で、階段を1つ上ると、15階になる。
これってつまり、どういうことかな?
ともあれ、すでに崩壊は始まっています。
もはや引き返すことはできません。
前に進むしかないのです。ただひたすらに、前へ。
![]()
![]()
改めて、ノンフィールドRPGは引き算の美学です。
フィールドをそぎ落として本作が手に入れたのは、シームレスで一貫した演出。
そして、ストーリーと有機的に絡んだボス戦の没入感です。
上の画面を見てください、戦闘と探索でほとんど画面構成が変わらないでしょう?
音楽もまったく切れ目がありません。探索画面のインストに歌やらメロディーが乗ってきて、インタラクティブに切り替わります。
ボス戦の戦闘自体も、非常に面白くできています。
アセビ先生の調合する毒はどれも強力で、シキミの攻撃と組み合わせて、いろいろ悪いことができちゃいます。
HP回復が鬱陶しい敵には、出血毒で回復を妨害したり。
切り札で強烈な攻撃を撃つ敵には、麻痺毒 + シキミの奇術でデバフしたり、錯乱毒で矛先を変えたり。
しかし、ワンパターンにこちらの強みを押しつければいいわけでは無く、相手に応じた対処が必要不可欠です。
ステータス回復技を持つ敵に出血毒は無力ですし、錯乱毒を使うとひどいことになる敵もいます。
また、バフ + ヘイト上昇技「注目」を使うシキミの運用も大事です。
ボス戦ではタンクとして運用することが多いのですが、敵によっては「注目」を使わない方がいい場面も当然あります。
このサイトの読者層なら、常に逆位置・おまじない無しの一番難しいモードが一番楽しめるだろうと思います。
もちろん無理をする必要はありませんし、いつでも難易度が下げられると思えば気楽なものです。
![]()
ストーリーについて、衒学的な解説をしようと思えばいくらでもできるけど、ここまでにしますね。ご自身の目でお確かめください。
本作はタロットの他にも仏教とかキリスト教とか、様々な寓意を援用していて解釈にハマります。
わざわざフォントも自作していて、解読すればさらなる真相が明かされる……でしょうが、ボクはそこまでやらないなあ。
ストーリー自体は素直です。複雑な読解をしなくても、起きたことは100%理解できます。
なので安心してください。かるーく、シキミちゃんかわいいだけでプレイしても、本作はその期待をまったく裏切りませんから。
でもボクはセンセイの方が好……評点しましょう。
- ハマリ度 : 9 / 10
- 随所に台詞主の間違いがある。流れでわかるとはいえもう一度見直してほしい。
UIについて。→キーで調合、←キーでそれ以外の機能、という使い分けは良い。調合画面で素材の数が一覧表示されないのが不満点1、アイテムを集中管理できる画面になっていない。全アイテムを8個溜めるプレイスタイルは想定していなかったらしいが、薬草は唯一の全体回復ソースなので、調合画面でぱっと見て直接数が確認できないのは煩わしい。
Zキーで前に進む仕様は、雑に操作すると誤爆しやすく不満点2。不可逆な操作なので誤爆しにくい、Cキーなどを割り当てるべきだったのではないか。もしくはパッドプレイを想定せず、探索画面はカーソルキーのみで操作するものと割り切り、住み分けるかだ。
作者自身が指摘するとおり、ザコ戦や素材集めに前向きな意義が見いだしにくいのは確か。だが何にでも意味を積み込もうとするより、ある種の弛緩はあっていい。敵を倒して前に進めばストーリーも進む、というJRPGの気軽さを追求するなら、いっそアイテムの上限を取っ払っても良かった。リソース管理を盛り込もうとすると、かえって本作の焦点がぶれてしまう。- グラフィック : 10 / 10
- 一貫した演出と世界観が最大の見せ所。細かいところまでよく作り込まれていて、視認性も良好。
- サウンド : 10 / 10
- アイディアの勝利。1人の歌手のクリエイティブ・コモンズ楽曲とそのアレンジを作品のメインに据える着眼点、そしてそれをインタラクティブミュージックとして落とし込んだ技術が見事。
曲の切り替わりはもう少し緩やかにした方が好みではあるが、意図した演出なら何も注文はない。プレイ時間は公称3~5時間、ボクのゲーム内プレイ時間もちょうど5時間でした。
面倒になってリセットしたりいろいろしてるので、実際のプレイ時間はもう少し多いと思います。
プレイ時間が一致するのは別段不思議ではなく、レベル上げがない、ボス敵の強さも固定である以上、時間が掛かってるのは単純にボクが下手くそだからなんですけども。
でもさ、アイテムの個数上限がたった8個とわかってたら、ついついボス前に全枠埋めたくなったり……しませんか? しますよね?
なんというかそこは信頼関係ですよね。この先絶対8個全部使うようなバトルが待ってるだろう、という。
それはきっと取り越し苦労でしょうけど、もしかしたら良いことあるかもしれませんね♪