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■ マイコンスレイヤー

マイコンスレイヤー
作者 [ 天丸 さま ]
ジャンル [ 80年代マイコン少年に送るレトロPCネタ満載アクションゲーム ]
容量・圧縮形式 [ 70.6MB・ZIP ]
製作ツール [ インディゲームクリエイター ]
言語 [ 日本語 ]
配布元 ダウンロード先

マイコンスレイヤー マイコンスレイヤー マイコンスレイヤー マイコンスレイヤー マイコンスレイヤー マイコンスレイヤー

レビュワーハマリ度グラフィック サウンド合計総合判定
ES 8 /10 10/10 9 /10 52/60 B
赤松弥太郎 8 /10 9 /10 8 /10

 《 ES 》  ハマリ度:8 グラフィック:10 サウンド:9

初見殺すべし。慈悲はない。

私、実をいうと、レトロPCについては専門外です。本作「マイコンスレイヤー」の元ネタの1つである「マイコンBASICマガジン」は、図書館にあったせいで愛読していたものの、読んでいたのはほとんどアーケードゲームや家庭用ゲームの情報のみ。メインコーナーであるプログラムについてはゲーム内容以外ほとんど理解していませんでした。
そのため、今回のレビューは、レトロPC愛については割愛し、純粋にアクションゲームとしての出来について語りたいと思います。

本作のアクションゲーム単体の難易度としては「初見殺しが多いが、経験を積めば何とかクリアできる。救済措置も数多い。」と、時間のある方にお勧めな評価です。
「時間のある」と念を押したのは、本作の救済措置が「足踏みを強いられる」物ばかりだからです。

フィールドのアクションは、一部強い敵がいる以外は楽な部類。複雑に見えるマップも、道中ほどなくしてMAPと宝箱サーチが手に入るため、迷ったらポーズメニューで確認です。
うろつくザコも、やり過ごしてから攻撃連射で間引く方法で楽に処理できます。
ただし、「一部強い敵」…飛び道具を持つ敵の処理が困りものなのです。弾速が速いため、見てからジャンプはほぼ間に合いません。それどころか、プレイヤーがジャンプでかわせない場所に陣取っている例が数多くあります。私は、いまだにシャッツオ(仮名)をノーダメージで倒すことができません。
場合によっては、ボンバーで一掃した方が被害が少なくなります。最大4発しかストックできないため、ザコ1体に使うのはためらいがあるかもしれません。ぶっちゃけ、ボンバーは宝箱や(レP子の場合は)敵からのドロップで余るほど手に入るため、安直に使っても問題ありません。
一番死亡経験を積むのは、やはりボス戦でしょう。ボスの攻撃は変則的ゆえに、1~2回程度の戦闘経験ではまず回避する道筋すら見つけ出すことはできないでしょう。序盤の時点で「ゆっくり通り過ぎたと思ったら、いきなりホーミングしてくる」という、シューティングゲームでも回避の難しい攻撃を放ってくるボスがいるのです。

そして、本作が最も難しいのは、「一気に全回復できるシステムが無い」ということです。ボス戦でのギリギリ勝利…本来ならば歓喜の雄たけびを上げるシーンです。しかし、本作では絶望の嘆きを上げることになるでしょう。
本作、回復ポイントが無いために、体力回復も1upも宝箱や敵ドロップに頼るほかありません。体力は食べ物で、1up…というより復活にはコイン100枚が必要になります。
特に、コイン100枚は序盤はかなりの無理ゲーとなります。ちょっと話が進んで「STANDARD」以外にも挑戦できるようになれば、マップが広くなる分集まりやすくなりますが、STANDARDをクリアするまでは、レP子でザコキャラつぶしをして集める他ありません。
ちなみに、コインの使い道は「キャラの復活」以外ありません。ショップも実装されていないため、道中を邪魔する高台や壊せそうな岩は、対応する味方を見つける以外にありません。

本作、操作感は軽快で、90年代のゲーム…PCエンジンあたりを知っている方ならばクスリとできるネタもあり、楽しいアクションであることは確かです。ただ、「復活に時間がかかる」という一点が、所々で「軽快なプレイ」の邪魔をしてくる点にだけご注意ください。
…一体、何の目的でこんな仕様にしたのでしょうか? 何かのゲームのリスペクトとは考えられないのですが。プレイヤーを突き放すタイプの高難易度レトロアクションならば、「キャラの復活」なんて生易しい仕掛けなど入れてないはずなので。

 《 赤松弥太郎 》  ハマリ度:8 グラフィック:9 サウンド:8

あの日のすべてが空しいものだと それは誰にも言えない

 昔話をしましょう。
 本作が扱うマイコンの時代から数年下り、ボクが初めて触ったパソコンは、父が買ってきたIBM PS/55 noteでした。
 CPUに386SXを搭載した(一応)32ビット機です。2MBのメモリと40MBのハードディスクを内蔵、そしてOSはIBM DOS J4.0/Vでした。
 いわゆるDOS/Vの元祖となったモデルですが、世は98全盛期であり、DOS/Vが普及するにはさらに数年の時間を必要としていました。

 両親はワープロとしてしか使いませんでしたが、兄とボクは、すぐにそれでは物足りなくなりました。
 しかし、本機は当時、日本ではまったく取り扱いのなかったPC/AT互換機。ソフトなんか売っていません。もちろんモデムも取り付けていません。
 そして第一に、両親とも機械への興味が薄い環境に育った兄弟には、パソコンのソフトを買って来るという発想がなかったのです。
 (ちなみに、当時の我が家の電話は黒電話、テレビはダイヤル式、エアコンはなく電熱ヒーターだけ、ゲーム機もありませんでした。)
 ある時、修理に出して帰ってきたパソコンに、おまけとしてゲームがインストールされていた時のことは、今でも覚えています。
 アルカノイドやパックマンを、「アメリカのゲームってすげーなー、でもむずいなー」とプレイしていました。
 当時としては速すぎたCPUが原因で、動作速度が上がっていたことを知ったのはずっと後年のことです。
 すぐに飽きてしまったのですが、それしかプレイできるゲームが無かったので、いつまでもプレイしていました。

 そして、兄が気付いたのです。このマシンにもBASICが搭載されていることに。
 ないものは、つくるしかない。
 図書館に行くと、BASICの本がありました。そしてBASICの辞典がありました。古今のマイコンのすべての方言を網羅した一冊でした。
 N88 BASIC用に書かれた本とその辞典を手に、ボクたちはIBM BASIC用のプログラムを書こうとしました。
 しかし、その本にも、どの本にも、DOS/VのVRAM構造やシステムコールは載っていませんでした。同じPS/55のデスクトップ機とも異なっていたのです。
 どうしたってCALL・PEEK・POKEのところでつまづくし、文字と画像を同時に表示する方法もわからなかったボクたちは、単純なプログラムしか完成させられませんでした。

 図書館には、フリーゲームを紹介した本もありました。
 SuperDepthの白黒写真と、マシンの白黒LCDを見比べながら、98だったらこんな素晴らしいゲームが作れるのかな、と夢想していました。
 ネットワークに繋げば、この光り輝く世界に行けるんじゃないか、と……。
 A4サイズの漆黒の弁当箱は、ボクたちにそんな夢を見させてくれたのです。

 以上は、ボクのフリーゲーマー前史です。
 この夢想は、ネットワークに繋ぐよりも前に、とあるフリーゲームによって打ち砕かれるのですが、その話はまた別の話。

 つまりボクは、マイコンに対する憧れは持っていますが、思い出は共有できないのです。本作の元ネタもほとんどわかりません。
 それでも本作から伝わるのは、自分のベースに対する確固たる自信。
 故郷を持っている者の強さです。

 本作は最初、エイプリルフールの一発ネタくらいの、軽い気持ちで作りはじめたものだったそうです。
 それがあれよあれよと膨れあがって、13ステージに及ぶネタてんこ盛りにまで成長してしまったのです。
 作者本人ですら、ニッチすぎて全部のネタがわかる人がいるのかと懸念するまでになった本作は、完全にジョークという領域を越えてしまいました。
 しかしできあがった本作は、最初の志からズレてはいないと、ボクは思います。
 かつての戦友たちと、そしてその後の人達へ、「俺たちは、この時代を確かに生きてきたんだ」という想いを、きちんと形として見せてくれます。
 そして同世代の人達が、このゲームをプレイして楽しみ、それぞれの思い出話に花を咲かせているのです。
 ボクにとって、それはどこか眩しく、羨ましさを覚えます。

 本作でも述べられているとおり、「昔は良かった」とはとても言えないこともたくさんありました。
 今振り返れば、しなくていい苦労もたくさんしてきたし、思い出すのが辛いことだってあったでしょう。
 それでも昔を恨まず、未練を持たず生きていく、そのことはイコール今生きている自分に誇りを持つということなのだと思います。
 あの時の良い思い出も、悪い思い出も、すべて今生きている自分を形作ってきた、欠かせないものだったと認めていく。
 それは決して、懐古趣味なんかではありません。

 そこで一つ疑問なのは、この作品のタイトル。
 この作品の「マイコンスレイヤー」たちは、全員マイコンへの愛に溢れていて、マイコンを殺害するものではありません。
 なぜマイコンスレイヤーなのでしょうか?

 本作の制作経緯を追えていないので、完全な当て推量になってしまいますが。
 もしかして本作、企画の初期段階では前作のP6mkⅡと同様に、マイコンを破壊するゲームだったのではないですか?
 それがネタに溢れていく内に、ある時点で、マイコンを壊すようなストーリーは忍びないと思うようになったんじゃありませんか?
 だって、本作をプレイしたら、マイコンを破壊したり、マイコン時代を否定したり、そんな気持ちになれっこないですもの。
 この作品が、誰も傷つかないこのストーリーで本当に良かったと思います。

 ゲームとしては、オーソドックスなプラットフォーマーです。
 その観点での評点がこちら。

ハマリ度 : 8 / 10
 道中はレP子でアイテム収集しつつ慎重に進めば、だいたい全快でボスまでたどり着ける。攻撃が厳しいボスもいるが、コインコンティニューでごり押しできる。ステージやボスに仕込まれたネタやレトロPCを集めていく楽しみがメインなので、ストレスにならない難度設定はありがたい。
 しかし、ボス戦で消耗して帰還した後、次のボス戦までに回復するのが面倒くさい。ホームステージで全快できるようにして良かったのではないか。
 仲間集めが大きくフィーチャーされ、オープニングのシルエット表示などで期待感を煽るが、残念ながら使用機会の格差は大きい。キャラ縛りをするのは面白いかもしれないが、攻略できないステージも多いだろう。
グラフィック : 9 / 10
 なんと言ってもネタ度たっぷり、名機の特徴を再現したドット絵が圧巻。さすがにスクロール等の共通システムが変わったりはしないが、敵の挙動はそれっぽく仕上がっている。
 むしろStandardステージよりも、制限のある他ステージの方がグラフィックに気合いが入っている気がしてならない。昔取った杵柄ということなのだろう。
サウンド : 8 / 10
 あえて手作りにこだわり、全ステージとイベントシーンあわせて約20曲を書き下ろす、その意気や良し。
 曲それぞれにもなんらかのモチーフがあるのかも知れないが、わからないのでノーコメント。作曲の意図などがわかるサウンドモードがあれば、もっと楽しめたかもしれない。
 SEは明瞭でわかりやすい。音声も味があって良い。
 昨日までの記憶すべてが、必要とわかる日がボクにも来るのでしょうか?
 今はただ、そう思える日が来るように、ボクにとっての故郷であるフリーゲームという畑にしがみついていくだけです。

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