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■ マダム・ポプスキンの憂鬱

マダム・ポプスキンの憂鬱
作者 [ とてちけ さま(制作・企画) ]
[ でみ さま(イラスト) ]
ジャンル [ 探偵サスペンス ]
容量・圧縮形式 [ 147MB・ZIP, ブラウザゲーム ]
製作ツール [ ティラノスクリプト ]
言語 [ 日本語 ]
配布元 ダウンロード先

(補足)
2022.08.14:現在の最新バージョンはv1.0.8です。

マダム・ポプスキンの憂鬱 マダム・ポプスキンの憂鬱 マダム・ポプスキンの憂鬱 マダム・ポプスキンの憂鬱 マダム・ポプスキンの憂鬱 マダム・ポプスキンの憂鬱

レビュワーハマリ度グラフィック サウンド合計総合判定
ES 10/10 10/10 9 /10 55/60 A
赤松弥太郎 8 /10 9 /10 9 /10

 《 ES 》  ハマリ度:10 グラフィック:10 サウンド:9

現代技術は、足も記憶も補強する。ただし、「判断」は未だ人間だけのものだ。

本作「マダム・ポプスキンの憂鬱」のジャンル名を、私は「探偵サスペンス」と名付けました。そうです。探偵が主人公の物語であるにもかかわらず、本作は推理要素が薄い作品となっています。
それというのも、情報整理などの推理に関わる要素は、本作の主人公が自動で完璧に整理してくれるからです。通してプレイすると、かなり面食らいます。主人公の情報整理力の優秀さに。
その分、本作のゲームとなっている箇所は、「足で情報を稼ぐ」要素です。手に入れた情報・それを基にした次の目標は主人公が完璧に整理してくれるものの、「どこから情報を集めるか」「いつ情報を手に入れるか」「あえてサボるか」などの行動は、プレイヤーに完全に任されています。
そう、本作では「あえてサボる」という選択肢もあるのです。また、手に入れた情報・それを基にした次の目標は、日に3回の移動時(「ここはあの人に情報を聞けるな」「ここには特に情報になりそうなものはないが、それでも行くか?」というアドバイス)と深夜の情報整理(手に入れた情報数をGood, Excellentなどで評価してくれる)でそれとなく教えてくれるものの、本当に「それとなく」程度です。人によっては「ヒントに気づかず無駄足を踏んでタイムアップ」という事態にもなりかねません。それほどに、本作で手に入る「情報」は多彩で、中には特定のタイミングでしか手に入らないものまで存在します。

本作のジャンルを「探偵サスペンス」と名付けた理由はもう一つあります。それは、現代を舞台にした本作には似つかわしくないレベルで、スリル&サスペンスが襲い来る展開にあります。
重要なタイミングで挟まるマウスクリックのQTA、情報探索で明かされる凄惨な事件、そして、古城や片眼鏡からほの見えるオカルト…。情報を蒐集し、ローレルの知識を深める中で、主人公と貴方がたの元に徐々に「サスペンス」が這い寄ってくるストーリー展開もまた、本作の魅力の一つとなっています。

そして、そんな丁々発矢のサスペンスをテンポを損ねず楽しめるよう、充実したヒント要素もまた本作の魅力となっています。
手に入れた情報は画面右にある「調査手帳」ボタンから、それを基にした「行動指針」も同じく画面右のボタンから表示できます。それに従って行動を進めていけば、徐々に真実に辿り着く仕掛けになっています。
「ゲームマスターの命令にハイハイと従うだけなんて、ゲームじゃない!!」派の皆様もご安心ください。その行動指針の数、ゲーム開始直後で(渡された資料をしっかり確認していれば)実に8つ。下2つの「マダムへの質問・報告」は10/22夜まで進められませんが、その2つを除いても選択肢は6つも存在します。
どの行動指針から進めるかは、完全に貴方がたプレイヤーの自由。ここまで選択肢のあるゲームを「自由度が無い」と言えますか?
行動を進めていけば「証言者のスケジュールの都合上、特定の時間帯にしか集められない情報」も出てきます。取りこぼしの許されない・時間制限の厳しい情報をどの手順で集めていくか…「効率的な足運び」が、貴方がたプレイヤーに求められる「本作のゲーム性」なのです。

本作の「効率的な足運び」がどれだけ重要か…「1回のBEST ENDを見ても、情報開放数が100%になっていない」と言うだけで、本作に隠された「情報」の途轍もなさが分かるでしょう。
私がBEST ENDを見た後に「調査手帳」を確認したら、まだまだ情報に歯抜けがあった時の衝撃は、それは計り知れないものでした。思わず、さっき見たENDが本当にBEST ENDだったか確認したほどです。
BEST ENDを見るための道筋は、本当にギリギリです。特に「一度向かうと丸一日潰れる」古城の探索をいつ実行するかが重要になります。
事前情報を手に入れないまま古城に向かっても、手に入る情報は極わずか。二度手間になってしまいます。
逆に、「古城に行かないと出会えないルネ」「古城に行って初めて分かる抜け道」など、古城で手に入る重要情報も数多くあります。「時間のかかる行動をいつ実行すれば最高効率となるか」は、本作の重要な攻略法となります。

そうして集めた情報が、どのような「サスペンス」に向かっていくのか…。それは、本稿で触れるのは差し控えておきましょう。心配せずとも、「行動指針」に従っていけば、徐々に真実が見えてきます。断片的な情報をまとめるのが苦手なプレイヤーでも、「メモ魔の主人公」という心強い味方がいます。
さて、「あなた」はローレルに宿る闇を解き明かし、「真の探偵」となれるでしょうか!? 自分の頭と自分の足で、ぜひ解き明かしてください!

 《 赤松弥太郎 》  ハマリ度:8 グラフィック:9 サウンド:9

探せ 追え 謎を解け

 ミステリーに期待するものは、人によって様々、幅があるものです。
 自分が主人公になったつもりで、知的パズルとして推理を楽しみたいという、そんな方のためだけに書かれているわけではありません。
 もちろん、その意見は尊重します。理屈を超えた、超常的な真相は、そうした方々にとっては受け容れがたいものだというのも、理解できます。
 でも、ミステリーって、それだけが楽しみ方じゃないんですよね。

 本作について言うと、プレイヤーが謎解きする要素は、ほぼ皆無です。
 本作でプレイヤーが選択できるのは、行き先と調査内容だけです。
 プレイヤーの推理を問う選択肢も一応はありますが、不正解の選択肢を選んでも、進行は何も変わりません。
 ついでに言えば、いくつか挟まるQTEも、何回でもやり直しできる上、成功しても失敗しても、進行に影響はありません。
 調査内容にしても、「行動指針」としてミッションリストが提示されているので、これをクリアしていくことさえ意識していれば、問題なくグッドエンドに辿り着きます。
 行き詰まることはありえません。

 では、本作の力点、ゲームとしての楽しみはどこにあるのか。
 1つは、ミッションリストをチェックで埋めていく楽しさや、調査につれて明かされる情報などの、実績コレクションとしての楽しみです。
 真相が明らかになるにつれて、登場人物の意外な一面が見えてくる、というミステリー共通の面白さを、本作は見事にゲームとしての実績コレクションに落とし込んでいます。
 「行動指針」の粒度は細かく、ほとんどが1行動で1つチェックがつけられるボリュームに抑えられています。
 「調査手帳」も、項目毎の追加情報の数が最初から明示されており、すべての追加情報が埋まった項目にはチェックがつくこともあって、期待を煽ります。
 こうなると、「行動指針」「調査手帳」がアイコン1クリックで常時確認できるのも、情報整理以上の意味を持ってきます。
 残念ながら、1プレイの期間内に、調査手帳の項目すべてにチェックを入れることは不可能ですが、タイトル画面で、今までのプレイで入手できた追加情報はすべて確認できます。

 こうして、実績コレクションを目指すプレイヤーは、主人公を馬車馬のように働かせます。
 無駄行動がないようスケジュールをギチギチに組み、グッドエンドには必須ではない情報も取りこぼさないよう、効率よく調査項目を巡回し……
 ただ、そういう働き方をする主人公って、違和感しかないような。
 そんなに有能な働き者だったら、もっと探偵として成功してたんじゃないでしょうか。

見るからに無能そうな顔  ここで主人公、ミシェル・ヴィドック(デフォルト名)の人となりについて振り返りましょう。
 普段は迷い猫探しや近所の仕事の手伝いをしている、とのこと。それだって立派な探偵の仕事だと、ボクは思うんですけど。
 でもミシェル本人はそう思っていないようで、「探偵とは名ばかり」「探偵もどきと言われても否定できない」と自嘲しています。
 そんな彼になんでか、縁もゆかりもないローレルの町で、名士にして大資産家のホプキンス家を調査する依頼が舞い込んだのです。
 その理由も、仮に不都合な事実が出てきてもスキャンダルにならないよう、なんの利害関係もなく、実績も無く発言力が低い人間を選んだから、とオープニングで明かされてしまい、まあ踏んだり蹴ったりです。

 能力に劣った点があるとは、思えないんですよね。
 特に、資料や発言から要点を絞る能力、タスクを分解する能力には、目を見張るものがあります。
 観察力も推理力も、人並み程度にあります。身体能力も決して低くありません。
 にも関わらず、オープニングで辛辣にこき下ろされたのを皮切りに、初対面の相手に「冴えない顔」だの「無能顔」だのと言われることが、何回もあるのはどうしたことか。
 きっと、一目見ただけで無能とわかるような、人を油断させる風貌に違いありません。それはもはや才能と言うべき領域です。

 そんな彼が、この依頼をきっかけに一念発起、潜在能力を発揮して調査を見事成功させる、というサクセスストーリーも、実に主人公らしくて結構です。
 一方で、やるべきことはわかってるけどやる気が出ず、町をぶらついては次のご飯を考えてる、ただのぼんくら、という振る舞いも、それはそれで彼らしいんですよ。
 推理自体がオート進行することもあって、グッドルートだと名探偵なのに、バッドルートだととんだ迷探偵になってしまう、という落差が、比較的少ない設計になってます。

 調査を進められるかはあなた次第。
 ホテルで毎日寝るのもOK、バーで飲んだくれるのもOK。
 調査の進行度でEDが変化します。
―ダウンロードページ 説明文より

 ということで、本作はロールプレイの楽しみも目指しています。
 実績コレクションだけを目指している方も、エンディングをすべて見るためには、結果的にぼんくらなロールプレイをすることになります。
 特にEND3なんて、よっぽどのダメ人間ムーブをしないと見られません。
 調査手帳の「雑記」も、最適解だけを目指していては絶対に回収できないものがあります。

 先程、行き先と調査内容以外の選択肢は、進行に影響を与えないと述べました。
 それはしかし、無意味では決してないのです。
 例えば、主人公が尾行されている、相手を撒こう、というQTEが発生したとします。
 ここで完璧にQTEをこなして大成功、主人公は「ふだん迷い猫相手に鍛えられてる成果だな」とドヤ顔を決める、それはそれでスムーズな進行ですよ。
 でも、プレイヤーが、「君はそんなできるヤツじゃないよねー」と思ったなら、QTEを失敗させちゃっていいんですよ。それでも問題なく調査は進行します。
 進行に影響を与えない選択肢だからこそ、QTEで失敗したり、迷推理をしたりする、ロールプレイの幅が生まれています。

 ただ、調査しないのもプレイの内とはいえ、それがメインの遊びではないことは、はっきり言っておきます。
 本作の調査は、完了させた方がみんなが幸せになれるものだからです。不幸になる人は、誰もいません。
 一方、グッドエンド以外のエンディングは、どれも調査が中途半端に終わってしまい、後味の悪さを残します。
 仮に誰でも解決できるような依頼であったとして、この依頼を受けたのはミシェルであって、他の誰でもありません。
 ミシェルが有能だろうと無能だろうと、そんなことはなんの言い訳にもならないんですよ。まずは主体的に取り組みましょ?

 ジャンルを「ミステリーホラー・アドベンチャー」と公称しているとおり、オカルト要素はありますが、おどかしや怖がらせる要素はほぼありません。
 「超常現象が出てくるミステリーは許せん!」という方以外には、オススメできる作品です。
 ちょっと早めのハロウィン・ストーリーとして、いかがでしょうか。

ハマリ度 : 8 / 10
 セーブ枠が4つしかないのは、明らかに少なすぎる。またセーブ直後にゲーム内日時が更新されないのもわかりにくい。
 1プレイで調査手帳の全項目にチェックを入れられない調整はポリシーとして理解はできるが、プレイヤーとすれば、突き詰めれば2回分行動が余るのに、あと1回午前中に調査できないせいでコンプリートできない、という残尿感がある。グッドエンドでフォローがあるとはいえ、プレイヤーとして全員に挨拶したい、という気持ちが叶えられないのは残念。
 特に力を入れたというUIは、とてもわかりやすく使いやすい。動作も軽快でストレスがないところは好感が持てる。
グラフィック : 9 / 10
 キャラの立ち絵はとてもわかりやすく、表情も豊か。実写加工の背景の前に並べると、一部、色彩の淡さからややくすんで見えてしまうのが気になった。
 ここもUIのデザインには統一感がある。ただ、調査手帳の文章量に対してフォントが大きすぎ、相当スクロールしないと内容が見通せないのはマイナス。
サウンド : 9 / 10
 最も長く聞くことになる、通常探索の曲を軸に、ピアノを中心として固めた選曲には安定感がある。特定のイベント以外では通常探索の曲が流れ続けるが、落ち着いた曲なので聞き飽きがない。
 書き下ろしのエンディング曲もピアノ曲。他の曲とあまりに調和していて、書き下ろしだと意識しないレベル。

 本作の舞台ローレルは、実在しない架空の町ですが、参考文献を見てわかるとおり、ロレーヌ地方を下敷きにしています。
 第三者として見るとき、何事も、境目というのは面白いものです。せめぎ合いの作った様々な痕跡が、その歴史に興味を持たせてくれます。
 ミステリーとホラーも、歴史的に隣接し、せめぎ合ってきたジャンルです。その境目には色々な可能性がある、とボクは思うんですよね。

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