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■ 回顧、来ぬ

回顧、来ぬ
作者 [ らいてうファミリー さま ]
ジャンル [ 民俗ミステリー風ビジュアルノベル ]
容量・圧縮形式 [ 165MB・ZIP, ブラウザゲーム ]
製作ツール [ ティラノビルダー ]
言語 [ 日本語 ]
配布元 ダウンロード先

回顧、来ぬ 回顧、来ぬ 回顧、来ぬ 回顧、来ぬ 回顧、来ぬ 回顧、来ぬ

レビュワーハマリ度グラフィック サウンド合計総合判定
ES 10/10 10/10 9 /10 54/60 A
赤松弥太郎 8 /10 9 /10 8 /10

 《 ES 》  ハマリ度:10 グラフィック:10 サウンド:9

乱麻を断て、勇気ある少女よ。

本日のイチオシ作品「回顧、来ぬ」は、物語を楽しむノベルゲームです。…そう聞くと、ありふれたサウンドノベルに聞こえますが、本作が繰り広げる物語はまさに疾風怒濤。
気味の悪い怪物の描写、魅力的な登場人物たちの裏の顔、主軸となる「白絹祭」「オシラヒメ」「おくろもっけ」の真相…物語の全てが二転三転していく「物語の逆転」こそが本作の面白さなのです。
「相手の記憶・トラウマを再生し、それを選択肢で指摘することで関門をクリアする」本作の「ゲーム部分」も、本作の「真相」をある意味物語り、別の意味では覆い隠すものです。
序盤~中盤の「友人が次々とトラウマを肥大化させて怪物化していく」展開を見た私の第一印象は、正直言えば「ペルソナシリーズ」でした。抱える悩みや表に出したくない一面が捻じ曲げられて怪物化した、ペルソナシリーズ通しての敵役「シャドウ」…。私は、そんな「シャドウ」と、「おくろもっけ」の呪いによってトラウマを刺激され変質した友人たちと重ねて見ていました。
そんな怪物たちに対し、紗羅紗の戦い方はある意味残酷です。「トラウマの原因を、選択肢によって指摘し暴き出す」というのですから。そうしないと紗羅紗が殺されるからとはいえ、よくもまあ、解放された後も屈託なく付き合えるものです。自分のトラウマに対して「開き直った」からでしょうか。

本作の「真相」を覆い隠す要素は、描写の細に入り微に穿った至る所に入り込んでいます。序盤の序盤から。
本作の序盤を見て、あまりにも化け物なモブ描写にびっくりしたことでしょう。果たしてこれが「メインキャラと差別化するための、ある意味での手抜き」なのか、「主人公の視点がおかしい」のか、「すでに変質してしまっている」のか、むしろ「化け物の姿でいることが普通の世界」なのか…疑念で頭をぐるぐるさせながら物語を読み進めることになるでしょう。
真相がどれなのか、もしくは思いもしない原因があるのか…それは当然ネタバレ要素となるため、本稿では言及しません。
心配せずとも、物語を進めて行けば、真相は余さず明かされることになります。

本作の「真相」は、ある意味ではアンフェアです。「序盤には全く描写されていないキーワード」が、後半の真相パートではポンポンと出てくるため。
それがアンフェアでない「驚きの真相」としてちゃんと受け入れられる理由は、「序盤も序盤から不穏要素が多すぎて、誰一人『信頼できる語り手』がいない」というストーリー展開が作用しています。登場人物全員が…主人公である紗羅紗が最も…「信頼できない語り手」であることが序盤からあからさまに描写されているが故に、「語り手が見えていない、目を反らしている真相が絶対にある」と読者に『覚悟』させることに成功しているのです。

本作は隅から隅まで「異質」で「異常」な物語です。しかし、これから読み進める皆様は、この「異質」「異常」が「誰から見て」の物なのか、常に念頭に置きながら読み進めてください。
先ほどの「あまりにも化け物なモブ描写」から始まり、序章のサスペンスシーンで、紗羅紗視点では「怪物に変質してしまったきりえ」が、賢治郎視点では「昼間に出会った時と同じ人の姿」であった点。そして、後半で描写されていく「紗羅紗以外の視点」…。
どこまでが「現代」で、どこからが「ファンタジー」で、どこが「幻覚」なのか…。
本作は、その「異質」で「異常」な一面もありながら、少年少女たちの「さわやか青春成長物語」でもあります。引っ込み思案で無口だった紗羅紗が、怪物化した友人たちと戦う中での成長、紗羅紗と戦う中でトラウマと向き合っていく友人たちの成長、紗羅紗視点では「大人のお兄さん」である賢治郎が乗り越えるべき「未熟」、それとは関係なく変人な大人連中…。
本作は多感な少女の奇妙な視点を通し、多数の人間たちの成長を、独特のタッチで描いた唯一無二の物語なのです。

 《 赤松弥太郎 》  ハマリ度:8 グラフィック:9 サウンド:8

見える景色がちょっとずつ違う みなさまのお手を拝借

 以下、ボクが本作第1章までをプレイした段階で書いた文章を、そのままお届けします。


 正直に言って、一刻も早く続きをプレイしたいんですけど。
 それでも今回、敢えてクリア前にレビューを書いたのは、後の展開への期待が大きすぎて、クリアしてからだとネタバレを恐れて何も書けなくなると危惧したからです。
 後から振り返ると、やっぱり伏線でも何でも無かったってことはあると思いますよ?
 でも、既に第1章の時点で、絶対に何かが起こると期待させる、あまりにも不穏な要素が多すぎるんです。

 第一に、まずタイトルですよ。

オープニング

 古文では「ぬ」と読む助動詞が2種類あって、意味がまったく違うっていうのは、授業で散々やったところですよね。
 接続する動詞の活用が変わるから、読み方も変わってくる、という話。唱歌「夏は来ぬ」の「ぬ」はどっちの意味だったか、習った記憶があるんじゃないでしょうか。

 本作のタイトルも、字面で見ると2種類の読み方ができるわけですが。
 オープニングで蚕の話を始めたところで、どちらの読み方なのかは自然と察せられます。
 「蚕」と「回顧」を掛けてるんだから、「絹」と「来ぬ」を掛けてるんだろう、と。
 タイトルにも「-kaiko kinu-」と読みがありますし、公式サイトのURLもkinu、ノベコレ版のアーカイブ名だけkonuですが、まあなにかの間違いでしょう。公式は「きぬ」で統一されてます。

 では、「回顧が来た」とは、どういうことでしょうか。
 そもそも回顧って、過ぎ去ったことを振り返ることではないでしょうか。

 紗羅紗が持ってる、他人の記憶が見える能力のことを指してるんでしょうか。
 でも、彼女が見る記憶は、過去のことではあっても、当人にとっては決して過ぎ去ったことなんかじゃないのです。
 遠い昔の出来事であっても、その記憶が、今なおその人を縛り付けているのですから。
 「回顧」するには距離が近すぎます。
 そして紗羅紗にとっても、強制的に見せられる他人の記憶は、決して彼女自身の「回顧」ではありません。

 紗羅紗自身にとっての回顧、振り返るべき過去があったはずです。
 第1章の時点で、紗羅紗が相当特殊な存在だということが、読者にはハッキリとわかってしまいます。
 町に怪異が現れる前から、この子はどこかおかしいのです。

下駄箱の前で

 下駄箱の前、雨振りしきる中、親に電話をかける、というシチュエーションだけ切り取れば、ごくありふれたシーンです。
 雨傘を届けてもらうんだろう、と理解して、うっかり読み飛ばしそうになります。
 でも、よく読んでください。「朝からどしゃぶり」だったと書いてあるじゃありませんか。
 この後しばらく読み進めると、紗羅紗は普通に傘を持ってることもわかります。で、しばらく雨宿りをした後、観念して歩いて帰っちゃう。
 だったらなんで親を自動車で呼ぼうとしたのか。行動がちぐはぐ過ぎます。

 第1章までの断片的な情報でも、彼女の特殊な立場……父親が繊維企業の社長で、町ぐるみの産業を担っている、ということは窺い知れます。
 社長令嬢であればまあ、雨が降ってる程度でも自動車を呼ぶかもしれない。1時間帰りが遅くなった程度でも、母親は連絡が付かないと大層心配するかもしれない。
 しかし、だとしたら、その特殊な立場に紗羅紗本人が無自覚だし、周囲のサポートが雑に過ぎると指摘せざるを得ません。

 紗羅紗は「お喋りができなくなった」とお手伝いのアキラさんは言いますが、この表現は正確性に欠けます。
 作中描写を見る限り、まったく喋れないわけではありません。クラスの前で発表の発表も、ちゃんとこなしてます。
 ただ、なにかの決断を迫られると、途端に緘黙してしまいます。なので自分の意志を示すよりも、流れに身を任せるような行動を取りがちです。
 上の件も、友達に電話を借りれば連絡できたはずなのに、それができませんでした。
 言ってしまえば非常に無防備な状態なのですから、結果論ですが、下校時刻に前もって車で迎えに行く、くらいの態勢は取るべきでした。

宗方きりえ

 そのせいで紗羅紗は、この怪異と、正面切って戦うハメになってしまいました。
 最初は、それこそ流されるまま、否応なく。
 しかし序章の時点で、珍しく自らの意志で、覚悟を決めて対峙します。
 家族はその変化に戸惑うのですが、プレイヤーには紗羅紗の心情がよくわかります。
 ついさっきまで人だったものが、異形に変わってしまう様を見ればショックですし、異形に見えるのは自分だけとわかれば、自分が動かなきゃいけないという気持ちにもなりますよ。

 でもね。
 プレイヤーはそう思いつつも、心のどこかでツッコミを入れたはずです。

黒田

 お前のクラスメイトは、異形じゃないのか、と。

黒田

 紗羅紗は他人に対する興味が薄いから、眼中に無かったか、とも思ったのですが。
 しかし、住み込みのアキラさんすら人間離れしたグラフィックですから、その理屈は成り立ちません。
 しかも、1人1人全員グラフィックが違う。

司書 アキラさん

 登場人物が誰もツッコミを入れないから、それこそ「そういうものか」でスルーするプレイヤーも多そうですが。
 人間が異形に見える怪異を取り扱ってる中、明らかに異形として描かれてることに意味が無いわけがありません。
 じゃあなんで全員スルーしてるんだ、という巨大な疑問が生まれてしまうわけですが……
 実際は異形だけど、紗羅紗含め登場人物全員に人間として見えてるのか。はたまたこの世界の「人間」とはこういうものなのか。
 いずれにせよ、町の呪いとは別次元の問題が発生していると考えるしかありません。

 それを念頭に、紗羅紗が下校途中に襲われるシーンを見返すと、やはりおかしいことに気付きます。

襲撃犯

 蚕を連想させる、異形の姿として描かれる襲撃犯。
 紗羅紗を狙ったことから、呪いと関連すると考えられ、にもかかわらず第1章の段階では特に追求されることもなく放置されてる、明らかに後々の展開に関わるはずの人物です。
 日本語じゃ無さそうな言語喋ってるせいもあって、この時点の紗羅紗にも異形に見えてた、とうっかり記憶違いするところですが、よく読み返してください。
 「見知らぬ人」「彼」と書いてあり、彼女は異形とは認識していません。
 そもそも、町の人は見知っている彼女が知らない、町の人ではない、という時点で、呪われた人だという仮定はまず疑われるべきなんです。

 そうです。そもそもここは、町全体がおかしい。
 この町の呪いは、呪いをなす悪霊の名前、「おくろもっけ」を知っている者だけを呪う、と言われてます。
 だったらそんな伝承はみだりに口にすべきじゃ無いし、自然消滅を待つのが正しい態度でしょう。
 にも関わらず、幼稚園から繰り返しこの伝承を教育してるのは、町ぐるみの明らかな作為があります。
 班ごとの個性も何も無い、伝承に触れることを実質強制されてる「地域学習」を、毎年、中学2年の夏休みという貴重な時間を割いてまでやるべきだ、と何者かが判断してるのです。

 そして、呪われた人間は、祭でオシラヒメを演じる娘、つまり紗羅紗を狙うのだそうです。
 伝承を広め、呪いにかかる対象を増やそうとする動きはつまり、紗羅紗を殺しにきてると言っていい。
 では誰が、町ぐるみで紗羅紗を亡き者にしようと扇動しているのでしょうか。

 実は、第1章で既に明らかになってるんです。
 志戸田繊維が、子ども向けのオシラヒメ伝承の本を配布してる、と。

絹世

 この不穏極まる、深い深い闇の中で、紗羅紗には頼れる人が誰もいません。
 母さんは何も教えてくれないし。アキラさんは話を聞いてくれないし。
 賢治郎さんは弱いし、何も知らないし。
 友達は1人しかいないし、そのいつきが一番不穏だし。

 結局、自分一人で、真正面から相手と向き合う以外にないのです。
 たとえ呪われていようと、相手だって一人の人間だと信じて、相手の過去に共感できる部分は共感し、それでも許せない部分には異を唱え、真摯に向き合うしかないのです。
 人と向き合うことを今までしてこなかった紗羅紗にも落ち度はありますが、遅すぎる、なんてことはありません。
 きっといつか、自分自身の過去とも向き合える日が来るんじゃないでしょうかね!

 では、そろそろ失礼して続きをプレイしてきますよ!
 不適切な表現等あったら、頼んだ未来のボク!


 お疲れ過去のボク、グッジョブだ! いい判断だった!
 だってクリアした今、実際虚脱状態になっていて、ボクは何を書けばいいのかわからないんだから。

 過去のボクは、未来のボクが直してくれるだろうと思っていたようですが、そのままお出しすることにしました。
 書き直したいところは、そりゃあありますよ?
 でも今回は、これでいいと思います。
 ネタバレ防止って観点も当然あるけど……その時のボクがそう期待してたのは、間違いないからです。

 評点は、たぶんネタバレなしでいけると思います。

ハマリ度 : 8 / 10
 美濃の山間部(not飛騨)に対する深い理解が無ければ、この作品は成立しなかっただろう。「机をつる」といった特定地方以外には通じづらい表現もあるが、それも全部含めて本作の構成要素であり、不可分のものだ。綿密に計算された構成でありつつ、実のところキャラがかなり好き放題に暴れている作品で、そのバランス感覚は見事。
 「国語の問題ふう」と公式に言われてる正解選択肢選びだが、逆転裁判のつきつけると根本は変わらない。サスペンスの要素もある本作はそれだけの読解力も試されるので、読者の集中を持続させ、主体的に関わらせる仕掛けとして成功している。終盤、話の盛り上がりにつれて減ってしまったのは、ボクは残念に思う。
 文字送りのスピードはかなり遅めで、設定変更不能。本作の情報量から言うと遅すぎない程度ではあるが、惰性でクリックしていると、幕間のセーブ画面で思わぬところにセーブしてしまうので注意。セーブ画面の前にワンクッションあると良かったか。
グラフィック : 9 / 10
 本作はこのグラフィック以外ない、と思える程度に味と奥行きがある。背景は素材写真の加工が主のようだが、空気は間違いなくできている。
サウンド : 8 / 10
 良く聞く音人他のSEとDOVAのピアノ曲で落ち着いた構成。良くも悪くも盛り上がりなくフラットに進行する。印象に残るのはむしろ無音の演出。

 ただひとつ、敢えて一つだけ言い添えるとすれば。
 紗羅紗といつきの関係はマジてぇてぇ。
 きっと何度生まれ変わったとしても、あの2人はきっと、同じような関係を結ぶに違いないと思うのです。

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