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■ Fix My Junk.

Fix My Junk.
作者 [ 安納ウニオ さま ]
ジャンル [ ADVパズルゲーム ]
容量・圧縮形式 [ 109MB・ZIP, ブラウザゲーム ]
製作ツール [ ティラノビルダー ]
言語 [ 日本語 ]
配布元 ダウンロード先

Fix My Junk. Fix My Junk. Fix My Junk. Fix My Junk.

レビュワーハマリ度グラフィック サウンド合計総合判定
ES 9 /10 10/10 9 /10 54/60 A
赤松弥太郎 8 /10 9 /10 9 /10

 《 ES 》  ハマリ度:9 グラフィック:10 サウンド:9

モノクロームに映える…それは冷たい金属線であり、熱き血潮でもある

今回のイチオシ「Fix My Junk」のジャンルは「サイバーパンク」。サイバネティックス・コンピュータネットワーク・ネオンサイン・怪しい日本語などがギラギラと景色を彩る未来小説です。その一方で、サイバーパンクは「パンク」だけに「現代の風刺」「人間賛歌」を秘めたジャンルでもあります。
「Fix My Junk」の「パンク」要素は、主役3名…ハリマ、ミオマル、そして名前を付ける機能すらない「修理士」…の関係性にあります。
ボロボロの体を放置し、むしろ「死」を望んですらいるような…それでいて本や映画をたしなむ「人間臭さ」まで備え付けたアンドロイド・ハリマ
そんなハリマの所有者であり、ハリマの修復を望むミオマル。ミオマルがハリマに向ける「情」は、心優しいミオマルならではと初見では思いますが…。
そして、そんな2人の運命をあらゆる意味で操るのが、主人公たる「修理士」。主人公…すなわち「あなた」の行動によって、2人の関係性、そして2人の抱える「秘密」が徐々に明かされていく仕組みになっています。
その「秘密」について、本稿で語るのは避けましょう。本作はマルチエンドですが、そのどれもが「初見の衝撃」が重要な「秘密」だらけ。本作を読破し愛している私としても、「初見の衝撃」を十二分に味わってほしいと思っています。

本稿で触れる第一要素は、ストーリーの「関門」である「修理シーン」。「修理シーン」は、本作の魅力である「サイバーパンク的映像美」を最前面に出したビジュアルシーンであるとともに、かなり手ごたえのある「パズル」にもなっています。
間違い探し・組み合わせパズルと言った、美術以上に解法に「絵画」が必要となるパズルが、多数実装されています。
「解けないと次のストーリーが見れない」という意味では壁ですが、間違えてもペナルティはありません。難易度の高い後半には、間違えた際にヒントが表示されるため、作者側でも「間違えて当然」という想定なのでしょう。
もちろん、パズルシーンは「美術」としても優れています。「メカバレ」という一種(作者自身が起動直後に警告するレベルの)グロテスクなシーンではありますが、私が本作をイチオシに推薦した最大の要素でもあります。
美術を楽しむ意味で、パズルの正解を探る意味で、隅々までご覧ください。

そして、第二要素としては「主人公の選択肢」。本作は「そんな所で!?」と思うような選択肢がストーリーに影響します。
修理のために裸に剥いたハリマの身体を布で隠すか…
ついでにハリマのロングヘアを整えておくか…
CMで見た最新の「ゴミを食べる」機能を仕込んでおくか…
主人公…そしてモニター前の我々がハリマたちをどのように見ているか、それがストーリー中の細かい選択肢によって決まっていく、まさに「分岐の多いノベルゲーム」らしい仕掛けです。
主人公の選択肢によるハリマとミオマルの反応もまた細やかに実装されています。ハリマをあくまで「機械」として扱うか、それとも「人格」として尊重するか、主人公の態度に応じて、ハリマとミオマルの反応も細かく変わっていきます。

本作のストーリー読破に必要な時間は小1時間。END分岐やパズルの解法は公式ホームページに記載されているため、攻略難易度も高くはありません。
ただし、公式ホームページには攻略以上に「本作のクリア後を前提とした」コンテンツが多数存在します。公式ホームページに頼るのは、一度だけでもENDを見てからにしておくことを推奨します。
本作の「初見の衝撃」を十二分に味わうという意味でも、クリア後だからこそ分かるコンテンツの価値を十二分に味わうという意味でも。

 《 赤松弥太郎 》  ハマリ度:8 グラフィック:9 サウンド:9

Find a new life Everybody wants That's what you do

 ゲーム制作では、すでに多くの場面でAIによる作業の自動化が進んでいます。
 ゲームをプレイして感想を書くAIが登場するのも、おそらく時間の問題でしょう。
 近々、あらゆる領域にAIやロボットは導入され、場合によっては仕事を奪うことも起きる……いや、既に起こっているかもしれません。

 そんなものを持ち出すまでもなく、ボクが駄文を書き散らすことに「意義」などあるわけもないですが。
 意義を求めてやっていることでもありませんからね。
 仮にAIがどれだけ素晴らしい仕事をしようと、やりたいことをやることに、人間の本質があるとボクは信じるのです。
 自分のやりたいことを見つけるのは、きっと人間にしかできないことです。
 敢えてカネにならないゲームを作りたい、誰が読むかもわからない駄文を書きたい、そう思えることこそが、人間である証なんですよ、きっと。

 本作は、そんな「敢えて」を選ぶ人間のお話です。

2人との初対面

 ミオマルは、なんで30年も前の型落ちモデルの修理依頼を出したのか。
 配線も剥き出し、ちょっとぶつかっただけで手首が落ちるような惨状になるまで、なぜ修理に出さなかったのか。
 「アンドロイドはただの家電ではない」と言う主張は、わかる。ハリマの電子頭脳を移植できるボディがもうない、「死なせたく」ないという気持ちも、わかる。
 そしてそれは、非常に人間的な理由付けです。
 ハリマに言わせれば非論理的で不合理、テクノアニミズムということになってしまいます。

 かといって、ハリマが合理的な存在かというと、まったく、全然そんなことはなかったり。
 ダウンロードして直接インストールすればいい本を、わざわざ物理媒体で読んだり。
 ミオマルに黙って酒を買い込み、泥酔した拍子に転んで首を落としたり
 およそ合理性が感じられないことばかりやってます。

 ハリマが今まで、「修理してほしくない」という要求していたことも不合理です。
 自前で応急処置をするより、もっと早い段階で修理していれば、ずっと安く、より長く稼働できたことが、ハリマにわからないはずがない。
 ハリマはどうも、稼働し続けること……生への執着が希薄で、それはロボット三原則にも反しています。
 ミオマルは「ハリマの意志を酌んだ」と言いますが、そもそもアンドロイドに意志がある、意志があるように振る舞うこと自体、奇妙なことなのです。

 そんな「敢えて」を選ぶ2人の関係を見ていると、どうにもアンドロイドと持ち主という関係性には見えません。
 友人? 恋人? それとも家族?
 そのように振る舞う関係であれば、人間はAI相手にも結ぶことができます。
 しかし客観的に見ても、互いに望んではいないが納得している関係ってのは、人間同士じゃなきゃ無理じゃないかなあ。

puzzle1

 プレイヤーは、そんな2人のもとに派遣された修理工として、2人の関係に巻き込まれていきます。
 その立場上、また彼の目立ちたくない性格もあって、能動的に何か働きかけることは少なく、基本的には傍観者です。
 熟年夫婦のように危うくもつれた2人を眺めてニヨニヨしようというのが、本作の主な楽しみ方になります。
 パズルパートはあくまで、プレイヤーに対する駆動装置に過ぎません。

 選択肢は細かく設定されていますが、本作のストーリーの分岐は、たった一箇所。
 終盤、肝腎の場面でどう行動するかだけです。
 基本的には一本道のノベルゲームに近く、プレイヤーの行動で影響を与えられる箇所は限定的です。
 まあ、選択次第では「アンドロイドと人間の区別も付かないお人好し」とハリマに罵倒してもらえるかもしれませんけど。
 前述の泥酔エピソードも、選択肢次第では見られたり、見られなかったりするかもしれませんけど。

 そういう細やかな作りを堪能するためにも、せめてセーブスロットはもう少し欲しかったなあ、と思いながらの評点です。

ハマリ度 : 8 / 10
 まずセーブスロット、いくら短編と言っても5つは少なすぎる。ギャラリーも存在しないし、台詞をすべてスキップしてもまだ30分以上の時間が掛かる。Ctrlキー押しっぱなしだと、たまにクリックポイントが反応しなくなる不具合もある。
 他の選択肢表示やパズルではセーブできるのに、ラジオのチャンネル選択はセーブできない。もちろん直前でセーブするかの確認はない。技術的制約かもしれないが、できれば解消してもらいたい。
 パズルの内容は本編にほぼ関係せず、修理の中で新しい事実を発見する展開もない。ストーリーと関係のないパズルで詰まってしまうのはストレスに感じた。ストーリーとのリンクが欲しかったところだ。
グラフィック : 9 / 10
 一語で言えば「余白の美」。抑えた色数と複雑さを抑えた線が、豊かな情緒を、感情の機微を描き出す。ドットフォントも、ただ単にテクノパンクだからという以上に、絵との親和性がある。
 終盤の間違い探し、正解が180°回転しているのは立体視対策だろうが、演出的にも不自然でストレスフル。UIもシンプルなので、他に誤解を招く絵は見当たらなかった。
サウンド : 9 / 10
 最小限の音楽で最大限の効果。序盤の落ち着いた進行で数曲をローテーションさせてイメージを固定化、終盤に向けて曲数を増やしていく。出しゃばらずいい仕事をしている。
 BGMがない時間が長い分、SEの比重も大きい。安定の効果音ラボと小森平で手堅くまとめている。

 「誰かのために生きる」というのは美しいかもしれませんが、とても脆いものです。
 自ら望むものがある人生は、楽ではありませんが、そうでない人生より、きっと素晴らしい。
 AIならもっと楽に、上手にできることでも、自ら「敢えて」やる自由が侵されないことを、ボクは願うばかりです。

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