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■ 絶界アビスシンカー 第1章

絶界アビスシンカー 第1章
作者 [ スシ さま ]
ジャンル [ 長編RPG ]
容量・圧縮形式 [ 449MB・ZIP ]
製作ツール [ RPGツクールMV ]
言語 [ 日本語 ]
配布元 ダウンロード先

(補足)
2021.08.08:本記事は、ver.1.09時点でのレビューです。
2023.08.23:現在の最新バージョンは、ver.3.04です。(最終章まで実装済)(ver.3.00, 3.01をダウンロードしている方は、必ずアップデートしてください。)

絶界アビスシンカー 第1章 絶界アビスシンカー 第1章 絶界アビスシンカー 第1章 絶界アビスシンカー 第1章 絶界アビスシンカー 第1章 絶界アビスシンカー 第1章

レビュワーハマリ度グラフィック サウンド合計総合判定
ES 8 /10 9 /10 9 /10 51/60 B
赤松弥太郎 8 /10 8 /10 9 /10

 《 ES 》  ハマリ度:8 グラフィック:9 サウンド:9

「美少女」が通用しない深淵(アビス)

本作「絶界アビスシンカー」は様々な意味で精神的負担の大きいRPGです。
精神的負担の第1要因はストーリー。本作の登場人物は全員が10代女性であるにもかかわらず…いや、「だからこそ」、疑心暗鬼が渦巻くストーリーになっています。
転校前にいじめを受けていたこと、この異世界に対する知識が異常なほど深いこと、様々な怪しい点が示唆されるメインヒロイン・麻場木なるみ
物語序盤で突如現れ、「どこ」から召喚されたのかすら分からない、それでいてパーティのメイン火力であるリィト・ラス
そして、物語が始まる前から閉じる直前まで増え続ける召喚者たちの屍…
ストーリーが巻き起こす「疑心暗鬼」は、登場人物のみならず、我々プレイヤーまでも翻弄していきます。その「真相」は、この第1章単体ではほとんど明かされません。プレイヤーでしかない我々は、第2章・第3章の公開をおとなしく待つしかないのが現状なのです。

そして、ストーリーを抜きにした戦闘・探索面でも、プレイヤーに掛かる精神的負担は大きくなっています。
初めに目につくのは、複雑な道筋にびっしりと闊歩しているモンスターたち。只でさえ避けて進むのは難しい密度の上に、難易度「ノーマル」ではうかつに戦闘に挑むとパーティが半壊しかねないほどに強力です。
「戦闘画面でモンスターの弱点・耐性属性が丸わかり」「攻撃順が常に開示されているターン制」と、画面から受け取れる情報は分かりやすくなっています。また、大きな戦闘の際にはパーティ会話として「効率的な戦い方」をチュートリアルしてくれます。
それでも、本作の難易度は「難しい」に属します。本作の難易度の方向性は「じわじわとリソースが消耗していく」という焦りを生み出す仕様。ザコの攻撃でも集中して受けるとHP満タンから戦闘不能になりかねないほどの高ダメージなのです。モンスターの弱点を突くため、スキルを使いつくす必要があるのです。
それでいて、ヒーラーは朽木風美の1人だけ、回復アイテムの所持数には限りがあり、ボス戦を考えるとアイテムでのゴリ押しは控えたいところ。
一応、「フィールド画面ならば『時空石』を使って拠点に戻れる」という緊急回避策こそありますが、中間地点の時空石が見つからない状態で退出すると、退出前の場所に戻るために再びモンスターまみれの道中を潜り抜ける必要があります。
そして、本作では拠点に戻っても強化できる要素が限られています。店売りの武具は強化可能数が少なめ。戦闘でもらえる光石(お金)も少なめ。武器やスキルの性能を強化するアイテムはダンジョンで集める他ありません。拠点の役割はほぼアイテム補充、もしくは「欠片」から強化アイテムへの引換です。
本作での装備強化は、ほぼ敵からのレアドロップで賄うことになります。店売りの武具は「装備がドロップできなかった時の補助用」というバランスになっています。
以上の理由から、本作ではストーリーと同程度の時間をかけたモンスター狩りが必須になります。経験値稼ぎのため、装備ドロップを狙うため、割と命がけのハック&スラッシュを繰り返す必要があるのです。

本作では、ストーリー・戦闘・探索の全てにおいて「気楽さ」は欠片もありません。そして、本作が精神的負荷の高いRPGであることは、OPとチュートリアル戦できちんと示唆されています。
まずは試しのつもりで第1ステージ「第2下層」のクリアを目指してみましょう。そこまでクリアすれば、この世界のシビアさ、この世界に取り残された少女たちの「絶望」「疑惑」そして「勇気」と「友情」が理解できるでしょう。
ストーリーの総量は第1章単体でも10時間程度と長めですが、各階層のクリアならそれぞれ1時間も掛かりません。精神的余裕を確保しながら、少しずつ進めるつもりで、この夏の休暇期間を利用してプレイを進めてみてください。

 《 赤松弥太郎 》  ハマリ度:8 グラフィック:8 サウンド:9

一瞬また迷いが邪魔して 何だっけ僕ら、夢見たこと

 ショックを受けるかも知れませんが、聞いてください。
 第1章が終わった段階で、本作の謎は、まったく解明されていません。
 プレイ時間は10時間を越え、全体の1/3が終わるんだし、そろそろ大量に生じた疑問になんらかの答えが出るんじゃないかと期待して進めると、見事に裏切られます。
 何一つ決着はつかず、むしろ今までを上回るペースで謎を提示し続け、何もかもわからなくなった状態でつづく!! で終わってしまいます。
 未完結だと承知でプレイしていますが、ここまで何もかも次章以降に投げっぱなしとは想定外。
 その、なんだ、書くことに困る。

 ストーリーについても、キャラクターについても、うかつに何も書けない……というか、
 設定に思わせぶりな謎が大量にあるせいで、第1章が終わってなおジャンルさえ確定できないという異常事態なのですが。
 今確定して言えることは、本作はあくまで異世界転生ファンタジーのガワをかぶったなにかであって、決してそのものではないということくらいです。
 いやあ、改めてチュートリアルをプレイしたら、丁寧にふつうのファンタジーRPGの体裁を取ろうとしてて、笑っちゃうんですよね。

 ボクがプレイをした限り、本作第1章はパニックホラーです。
 わかります?
 ゾンビの代わりに、スライムやゴブリンが出てきたら。
 ジェイソンの代わりに、有翼人種が出てきたら。
 鉈やガソリンや銃の代わりに、魔法や驚異的な身体能力が使えたら。
 これはもう、紛う方無きファンタジーRPGじゃありませんか。
 水場の確保を気にする必要があったり、人が死んだり、裏切って人を殺したりする、という、大きすぎる違いに目を背けてしまえば、ね。

 本作は人の命が基本的に軽いです。
 物語開始時点で、すでに多くの人間が死んだと明示されてます。
 しかし、プレイヤーが命の軽さを実感するのは、知っているキャラクターが退場する時でしょう。
 たとえ愛着の湧いたキャラだろうと、あっさり死にます。死亡フラグが無くても人は死ぬという、当たり前のことを思い知らされます。
 死んだものは当然、取り返しが付きません。
 いや、「魔法」なんてものが絡んでるので、生き返る可能性も否定はできないんですけどね。「残念だったな、トリックだよ」の可能性も、ないではない。
 しかし、仮に戻ってきたとしても元通りなんてわけがないだろう、という信頼を、第1章の時点で本作は築き上げています。

 今まで戦闘とは無縁で生きてきた人間を、そんな極限状況に置いて、「魔法」なんて過ぎた力を持たせたら……ねえ?
 そう考えれば、ここの高校生達はむしろ仲良くうまくやっている方なんじゃないかと、思えてきませんか?
 徐々に減っていく飲み水、出口の見えないダンジョンの中、同級生なんて知ってるようで知らない関係の人間とうまくやってくなんて、少なくともボクには無理だね。
 違う高校の生徒が混ざっているというのも、大局的には良かったのかも知れません。
 身内に敵がいた方が結束できる、ということもあるわけで。直ちに凄惨な同士討ちが始まらないだけ、緊張関係が維持できた方が安定してる、とも言えます。
 ええ、「直ちには」始まりませんよ。ごあんしんください。

 困るのは、何らかの事情を知っていそうな奴に限って早々に退場するという、パニックホラーあるあるでして。
 しかも今回、みんなで一斉に異世界に飛ばされたハズなのに、個人によって情報に差があるという、その原因からしてです。
 さすがに後々解明されるとは思ってますよ! これだけ思わせぶりなんですから。
 しかし、そのカラクリがわかっていない以上、プレイヤーキャラであっても信用できないんですよね……。
 麻場木さんとかは、まだいい。あの子はプレイヤーに何か隠し事があるのが明白だし。
 しかし、夕月ちゃんや風美ちゃんは、もう信じてもいいんじゃないかと思ってるのに、信用できないのが、なかなかつらいのですよ。

 実のところ、主人公がプレイヤーに隠し事をしているストーリーって、ボクは嫌いじゃありませんが。むしろ大好物ですが。
 「仮面ライダーOOO」とか「侍戦隊シンケンジャー」とか、どこかに影のある主人公って、いいじゃありませんか。
 しかしこの2作品でも、第1クールで主人公の素性は明かされて、安心して視聴できる環境は作られていたのです。
 だって、愉悦には鮮度があるものですからね。評点。

ハマリ度 : 8 / 10
 メッセージ送りの仕様に癖があり、前の台詞を送ったタイミングで、次の短い台詞を飛ばしてしまうことが頻繁にある。どうやら長押しスキップが暴発しているらしい。ストーリーに重きを置く本作でこの仕様、かつバックログが無い点は大きな問題。バックログ機能は実装されているものの、同梱テキストで触れられるのみ、画面上に動線がまったくなく、PageUpキーを押しても1回目は反応がない、顔グラがログに残る、ログから戻った時に台詞が残ってたり残っていなかったりする等、触って不安になる作り。(2021.08.10追記・修正)
 戦闘について。シンボルエンカウントで比較的回避も容易だが、宝箱からは店売り品や強化アイテムしか出てこないため、ザコ敵と戦い、稼がないとボスには太刀打ちできない、というバランスになっている。
 ザコ戦闘のモチベーションになるのが、会敵すぐに図鑑で確認できるレアドロップだが、このドロップ率が低い。ドロップ待ちをしていると適正レベルを大幅に超過し、ヌルゲーになってしまう。どうすればボス戦が楽しめるのか、制作側の想定が読みにくい。制作イチオシのパッシブスキルもコストが高い割に効果が微妙。所持数上限があるからどんどん使えという武器強化アイテムも、装備を変える度に剥がすのにコストが掛かるのが面倒、1章クリアまで所持数上限には到達しない、等、制作側とプレイヤーの意識の違いを感じることが度々あった。
 ストーリー自体に文句は何もないが、連載ものとしてこの終わらせ方には納得しづらい。続編までに年単位で待たされるプレイヤーとしては、期待感を保たせるためにも、章のけりとしてある程度納得感のあるカタルシスを用意してほしかった。
グラフィック : 8 / 10
 スクロールにディレイがかかる仕様は、シンボルエンカウントとの相性が悪く、視野の狭い縦方向が見づらい。マップの広さが縦横大差なく、縦方向の見通しの悪さが強調されているようにも感じる。意図した調整だとしても、それによって面白くなっているとは思えない。
 描き下ろしのキャラグラは質、量とも確か。塗りのおかげかあまり媚びた印象が無く、本作の殺伐たる雰囲気にも違和感なく溶け込んでいる。
サウンド : 9 / 10
 戦闘や探索ではキャッチーでわかりやすいBGMが揃っていて、本作のなんちゃってファンタジーRPG観を形作る。そこへイベントBGMで違和感を流し込む、という演出がいい。今後の音楽演出にも期待。

 連載ものとしては疑問、と言いましたが、体験版としては文句なく合格です。
 本作がどういう方向に向かおうとしているのか、この第1章で余すところなく伝えています。
 ですので、どうぞ完結に向かって進んでください。
 作者が一番わかっているとは思いますが、ここまで風呂敷を広げた状況で放置され、未完に終わることこそがプレイヤーへの最大の裏切りですからね。
 作った結果が受け容れられるかどうかなんて、完結できさえすればどうでもいいんですよ。まずは息災を祈っています。

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