【RPG】INDEXへ / トップページへ

■ ブレイカーハーツ

ブレイカーハーツ
作者 [ Huyumi さま ]
ジャンル [ 死に寄り添うメタフィクションRPG ]
容量・圧縮形式 [ 95MB・ZIP ]
製作ツール [ WOLF RPGエディター ]
言語 [ 日本語 ]
配布元 ダウンロード先

(補足)
2021.06.11:現在の最新バージョンは1.11です。

ブレイカーハーツ ブレイカーハーツ ブレイカーハーツ ブレイカーハーツ ブレイカーハーツ ブレイカーハーツ

レビュワーハマリ度グラフィック サウンド合計総合判定
ES 8 /10 10/10 9 /10 53/60 B
赤松弥太郎 8 /10 9 /10 9 /10

 《 ES 》  ハマリ度:8 グラフィック:10 サウンド:9

不定形で、脆く、それでいて永遠。そんな「ココロ」の物語。

今作「ブレイカーハーツ」は、前作「最果てを目指す」と同じく、ステータスの管理と状況に合わせた作戦が重要視されるRPGです。
しかも、「状況に合わせた作戦」の重要さと難しさは「最果てを目指す」をはるかに超えます。何しろ、「ブレイカーハーツ」の探索中に出せる操作は「覚醒」のタイミングのみ。「状況に合わせた作戦」の決め手となる行動条件および行動そのものは、探索実行前に吟味する必要があるのです。
その上で襲い掛かるのは厳しい行動回数制限。「覚醒」を使わない状態でのスキル使用回数は(序盤で)各3回のみ。しかも、「覚醒」を使い切って「暴走」しないと、主人公たちは通常攻撃すら使ってくれません。
すなわち、通常のゲームで考える「覚醒は強敵まで温存し、ザコは通常行動で押し切る」という作戦は、最悪レベルの悪手となります。むしろ、ただでさえ少ない行動回数を稼ぐために「覚醒」は最初からぶっぱなすのが定石なのです。
そのために、序盤は「耐性が弱い敵に属性攻撃」が強力で、強化スキルは二の次となります。速攻クリアが求められるのです。しかし、そんな脳筋作戦は流石に話が進むほど通じなくなります。また、話を進めるたびに「記憶の欠片」により、強力な強化スキルやパッシブスキルを習得できます。
「話を進めるたびに世界が広がっていく」RPGの醍醐味を、「記憶の欠片」という形により、ストーリーだけでなく戦闘面でも魅せてくれるのです。

そして、本作が難しいと感じる点も、この「広がっていく世界」にあります。…と言うより、「その世界の広がりに追いつかないプレイヤーの脳みそ」にあるのです。
「行動回数は各3回のみ。使い切ると(暴走しない限り)何も行動しない」という最大の弱点も、「覚えたスキル・パッシブは作戦画面左下の『心装』に装備しないと、作戦に組み込むことすらできない」という最重要な仕様も、ゲーム中では逐一説明してくれません。「心装」については、冒頭のチュートリアルで教えてくれたのかもしれませんが、残念ながら序盤のチュートリアルからスキルが充実してくる中盤まで一切使用しない操作は、役立つ頃には忘れかねません。ただでさえ情報量の多い「ブレイカーハーツ」ならば尚更です。

「情報が多くて複雑」という特徴は、戦闘面だけでなくストーリー面でも当てはまります。そして、「情報が多くて複雑」という点は本作の短所とはなりえません。
めまぐるしく変わる情報の奔流に飲み込まれ、そこから何とか生き残れる道を探り、「シンズイ」の一端をつかむこと、それが本作「ブレイカーハーツ」の面白さなのです。
ジャンル名に「メタフィクション」と強調されている通り、プレイヤーたる「ブレイン」の目に見える物は、「ブレイカーハーツ」の舞台の一角にしか過ぎません。
その一角ですら、「ブレインと少女たちの間で『見えている物』が異なる」「記憶の欠片などのエピソードごとに、少女たちが演じる役割すら異なる」など、ただの一読者にしかすぎないプレイヤーたちの脳みそを混乱させてきます。

それが最も現れているのが、本作の最重要パラメータ「ココロ」です。エピソードをこなすごとに、正解の見えない「選択肢」を選ぶごとに高まる「ココロ」は、消費すれば少女たちを強化でき、獲得量によってENDが分岐する、戦闘面・ストーリー面共に最重要となるパラメータなのです。
「ココロ」の消費に対し、「商人」役であるナルから、半ば警告めいたアドバイスを受けますが、ぶっちゃけ、最大限に使っていただいて問題ありません。
特に「速攻撃破」が重要な序盤は、「攻撃」を強化しないとジリ貧で敗北しかねません。序盤のチュートリアルやキャラ会話で獲得した「ココロ」は、その場で惜しみなく少女たちに注ぎ込みましょう。
ただし、「どの選択肢で、4種類のうちどの『ココロ』をもらえるか」は、ストーリーのスジだけでは分かりません。そもそも「4種類の『ココロ』」がどんな感情を表したものなのか、そもそも「感情を表したもの」なのかすら分からないのです。
ゲーム内での「ココロ」の説明は、「『ココロ』の多い子と個別ENDを過ごせる」「『ココロ』を調整することでBエンド・Cエンドという『パラレルストーリー』が見られる」という、これまたメタフィクションな説明のみです。
エピソード自体も、エピソードごとに求められる選択肢も、正解のない物語ばかり。どの選択肢でどの「ココロ」がもらえるかは、それこそ「メタフィクション的に」選択肢ごとにもらえる「ココロ」をメモする他ありません。

膨大なストーリーを探るために、本作では周回プレイが求められます。長くて複雑、その上エピソードごとにぶつ切れた部分さえある物語は、時には目の前を滑り、何も把握できないまま過ぎ去ってしまいます。少女たちのキャラをつかむことすら難しいストーリーの奔流の中で、少しでも心に残るものがあれば、本作をイチオシレビューした我々も幸いです。

 《 赤松弥太郎 》  ハマリ度:8 グラフィック:9 サウンド:9

旅立ちはいつも必然 どうせなら飛び回れ

 手塚治虫の「スターシステム」について。
 格好付けて呼んじゃあいますが、キャラクターの使い回しじゃないですか、平たく言って。
 他の漫画家だって、オールスターみたいな漫画を描くことはあります。世界が繋がっていることを示しながら、他の作品のキャラが登場する、ファンサービスのようなことはします。
 しかし、あれだけの超売れっ子が、生涯にわたって、ほぼ全ての作品で何十作何百作も、モブキャラサブキャラばかりか主役級まで使い回しているというのは、空前絶後の異常事態でしょう。

 ふつう、他作品のキャラクターが出張してくる時は、かなり気を遣うものです。
 キャラクターに引っ張られてストーリーが変質してしまったり、ひどい時には主役を乗っ取ってしまったりする危険性があるからです。
 ところが手塚漫画の場合、考えると、キャラクター1人がストーリーを変えてしまう、という話はパッと思いつきません。
 アトムがヒーローなのは、最強のロボットだから。レオがジャングル大帝なのは、伝説の白ライオンの息子で、人間社会で育ったから。
 いずれも取り外し可能な設定でした。
 アトムから十万馬力を取り上げたら、善良な一少年でしかありませんし、ブラックジャックにレオが客演した時も、ただのアルビノとして扱われています。
 設定やシチュエーション、物語の切り口が変わるだけで、まったく同じキャラクターが主役にも敵役にもモブキャラにもなり得る、それが手塚のスターシステムの面白さです。
 しかしそれは、面白いシナリオがあってこそのもの。
 たとえば「じゃりン子チエ」のような、日常をキャラクターの魅力だけで描く話を、手塚は描いてましたっけ?

 さて、人間の気質を4つに類型化して、四元素を当てはめる、という考えは、古代ギリシアの医学に遡る、たいへん古い考え方でして。
 にもかかわらず今もなお、その影響を受けた作品が数多くあるのは、ある程度人間の性質を網羅できている、ということなのでしょう。
 例として、「仮面ライダー電王」を上げておきましょうか。
 モモウラキンリュウの4タロスは、非常に類型的なキャラクターです。ひねりは多少加えていますが、かなり基本に忠実な四気質です。
 ここで指摘したいのは、彼らは非常に騒々しい面々で、物語を引っかき回しはするものの、メインストーリーの進行にはほぼ関わっていない、という点です。
 あまりにも類型化されているせいで、意外性のある行動ができない。引き起こす反応がどれほど突飛でも、予想の範疇に留まってしまうのです。
 これは彼らが、過去を奪われた、物語を無くした存在だというところに関連しているのでしょう。
 この作品の主役、物語を駆動するのは、あくまで野上良太郎です。電王は、彼が巻き込まれた悲劇と決断の物語です。
 どれほど4タロスが魅力的だろうと、ストーリーが無ければ、彼らだけではドタバタ喜劇にしかならないのです。

オープニングより

 では翻って、本作の4少女はどうか。
 彼女たちは過去に何百回、何千回となく一層最初の敵と戦っていた、とのこと。かなり長い過去があるようなのです。
 しかし本作は、そうしたバックグラウンドを、極めて限定的にしか伝えません。
 加えて彼女たちの目的、シンズイへ辿り着くという、その動機も、およそ共感しがたいものです。
 彼女たちは、それは使命だ、と言いますが、そこに仇敵がいるわけでも、なにかの報酬が待っているわけでもなく、辿り着いたら死ぬらしいという曰くしかありません。
 これは寿命のようなものだから抗わない、それなら君は不老不死の研究でもしているのか? と彼女らは言うんですが。いやいやおかしいでしょ。
 これはもう、そういう設定だからとしか言いようがありません。
 彼女たちは、意図的に、物語を消された存在なんですよ。

 彼女たちに物語を与えられるのは、プレイヤーしかいません。
 プレイヤーが介入したことで、彼女たちは一層最初の敵を突破します。
 新しい力を得たわけでも、なにかの発見が会ったわけでも無く、ただ、少しだけ戦法を変えただけで。
 彼女たちは決してバカではありません。後から振り返ると、何千回も戦って、なぜ気付かなかったのかわからない、と言います。
 その理由が作中で明かされることはありません、が。
 プレイヤー……「ブレイン」と名付けられたぬいぐるみの介在が無ければ、何も進まないように作り上げられた世界だからだ、としか、言いようがありません。
 彼女たちがこの世界で生きている、その意味は、プレイヤーが決めるしかないんです。

 ご都合主義と言われれば、そのとおり。
 プレイヤーに投げっぱなしじゃないかと言われれば……否定しづらい面もあります。
 ただ、それでもですね。
 この作品は、彼女たちをひとりの人間として描こうとしているんですよ。
 自身の「作られた」特性を自覚し、苦悩しながらも、それでも等身大の人間として生きようとしているその姿に、何を見るかが問われます。
 この作品はプレイヤーに、この形式でなければ伝えられない「何か」を伝えようとしているのは、間違いないのですから。

 このゲームはフィクションかも知れませんが、
 彼女達や彼女達と行ったコミュニケーションはフィクションじゃないかも知れません。
 作品に登場するあらゆる要素は実在の人物、団体と関係ありませんが、
 世界に触れあったあなたには様々な関係が生まれるでしょう。
 ―Readmeより

 それぞれのキャラクターについて、ボクの雑感を述べることはできますが、この場では控えておきます。
 未プレイの人に、彼女たちの人となりについて予断を与えるのは、本作については不適切でしょう。一期一会を楽しんでもらいたいのです。
 ただ、ナルが背負っている役割については、少し指摘しておいた方がいいと思います。
 ちょっとフェアじゃない扱いを受けてますからね、彼女。

ナル

 胡散臭さを前面に出してますが、この人、黒幕でも何でもありません。
 彼女の役割は、会話の選択肢「何もかもの真実を教えて」にあるわけですが、大して真実を知ってるわけでもありません。
 所詮彼女の解釈(として作者が書いたもの)でしかないんです。間違っても真実なんかじゃない。
 ナルルートであるCエンドについて、彼女が「外道」と表現していることは、当事者の意見としては傾聴するべきでしょう。
 ただし、この警告の半分くらいは、牽制目的でして。
 プレイヤーから見ればこのCルートも、エンディングとしての1つの選択肢でしかありません。
 その重みは、なんら他のエンドと変わるものでは無く、「最終解決」なんかではありません。
 つまりトゥルールートではないということです。
 トゥルールートは、それぞれのプレイヤーがプレイした経験、そのものなんですよ。

 ボクは誤解したんですが、「何もかもの真実を教えて」なんのフラグでもありません。
 聞かなくても、プレイヤーにはなんの不利益も発生しません。
 むしろ、うっかり聞いてしまった時の対処法が問題なんですが……
 まあ、鼻でもほじって聞き流せばいいと思いますよ、基本的には。
 存在することに意味がある選択肢であって、そこで明かされる内容は、大して重要なことじゃないと思うんです、ボクはね。

 ボク個人の希望としては、そういう役割を取り除いた部分の、ナルという個と向き合ってほしいと思ってます。
 他の4人だって、ただの戦闘の駒として扱ってるわけじゃないでしょ?
 同じことですよ。

 もうこれ以上のフォローはしないぞ。というか、やりようが無いぞ。
 解釈を個々人に委ねる部分が大きい本作でも、評点はちゃんとするんですよ。

ハマリ度 : 8 / 10
 戦闘については、ナルとの取引で難易度調整ができる点も含めて、知的に楽しめる。ストーリーも試みとしては評価できるし、ただの投げっぱなしで終わらないよう配慮していることもわかる。はいはいナルかわナルかわ。
 問題は、この両者のかみ合わせにまとまりがない点。
 全エンドを回収するのに9周が必要になる本作で、周回プレイに対応しているのは妥当な判断。周回プレイ時、プレイヤーのエネルギー消費が激しい戦闘をスキップできるようになっているのも、妥当な判断。しかしこの両者が組み合わされば、周回前提のゲームになぜこの戦闘システムを組み合わせたのか、疑問が湧く。2周目だからと言って敵やシナリオにも変化は無く、わざわざ戦闘する意義はほぼ皆無。
 ハートは好感度ではないと言うものの、ハートを使って各キャラの強化を行うから、ゲーマーとしては会話の選択はそれを見越した打算的なものになってしまう。累計ハート突破イベントの都合上、1キャラにハートを集中させるメリットがほとんど存在せず、全キャラ均等に上がるよう配慮しながら選択肢を選んだところで、たとえばトウカのAエンドのセリフを言われても納得感がない。誰のハートかに関わらず、すべてのキャラを強化できるシステムだったら多少は変わったかもしれない。
 作戦画面のインターフェイスは地味に使いづらく、例えば行動優先度の入れ替えができない。回想画面のホイールはページ切り替えで、1行ずつのスクロールはできないことにも違和感がある。
グラフィック : 9 / 10
 グラフィックの地味さ、わかりにくさという前作の弱点は、十二分に克服できている。
 糖度70%製立ち絵素材をフル活用、表情付けも細やかで、(「実際の彼女たち」とリンクしている保証はないけれど)感情移入の大きな助けになっている。
サウンド : 9 / 10
 ピアノをメインに複数の作曲者を交えた構成には安定感がある。落ち着いて考えたい場面が多い本作にはちょうど良い。
 細かいことを言うと、再開時、「connecting」の演出前に一瞬音が大きいところは気になった。

 まあ、打算的な選択肢が選べる時点で、彼女たちのことを十分理解してるとも言えるんですが、理解と共感は別ものじゃありませんか。
 スクショは一旦セーブを消して撮り直したんですが、打算無しで初期選択肢を選んだら、ボクは見事に土属性ですね。黒胆汁質と言われると否定しづらいところはあるなあ。
 でも、だからといって、本作のメグミに共感できるか、というと、それはまた違ってくるわけです。
 結局四気質なんて、レッテルでしか無いんですわ。ありのままの彼女たちと向き合ってください。

【RPG】INDEXへ / トップページへ