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■ シイの墓守―The Good People―

作者 [ 早見さらり さま ]
ジャンル [ 火あぶりを回避するために頑張ったり頑張らなかったりする(ADV要素も多めの)短編RPG ]
容量・圧縮形式 [ 105MB・ZIP ]
製作ツール [ RPGツクールMV ]
言語 [ 日本語 ]
備考 [ R-15指定(非倫理的な表現・暴力的描写を含む) ]
配布元 ダウンロード先

レビュワーハマリ度グラフィック サウンド合計総合判定
ES 9 /10 9 /10 8 /10 51/60 B
赤松弥太郎 8 /10 9 /10 8 /10

 《 ES 》  ハマリ度:9 グラフィック:9 サウンド:8

ごきげんよう、『良き民』よ。

本作「シイの墓守」を、当サイトでは【RPG】に分類しました。実を言うと、私自身も【ADV】と【RPG】のどちらにしようかかなり迷った作品でもあります。
本作を【RPG】に振り分けた切っ掛けは、意外とガチな戦闘難易度でした。特に、マップ中央にいる酔っ払い二人は、「エリン<墓守>のソロで戦う」ことがやり込みに分類されるレベルで強い敵です。スキルの攻撃力がかなり高く、2人分の攻撃がエリン<墓守>に集中すると、1ターンで落ちかねません。それでなくても、「毎ターンの回復が必要で、なかなか攻撃に回れない」展開は非常にストレスフルとなります。
本作は、エリン<妖精>を仲間にするのが本来の戦闘バランスとなります。もし、「住民を皆殺しにする」ENDを目指す場合は、(縛りプレイを求めない限りは)エリン<妖精>を仲間にしてから挑みましょう。

そして、本作を【ADV】に分類しようか迷った理由は、枝分かれの深いストーリー展開にあります。そのEND数、何と14種類。
分岐条件は、探索を少し進めれば「命の覚書」に完成率付きでメモされます。「命の覚書」は9個しか無く、それだけでは14個のENDは埋められないと思う方もいるでしょう。ご安心を。もしもの場合は作者様のホームページにより詳細なヒントがあります。少なくとも「分岐条件が分からずに埋められない」ということはありません。
ノーヒントでクリアする場合でも「ひょっとしたら、わざとアレしてみたら…」など、工夫しながら楽しむことができます。むしろ、「色々な行動を試す」ことが、探索ADVとしての本作では醍醐味となります。ヒントに頼るのは、「自力では見れないENDが出てきた」場合のみにしておきましょう。

RPG的な攻略の意味でも「色々と試す」ことは重要です。本作のマップには、至る所に攻略に役に立つアイテムが隠れています。
村の壺から回復アイテムが、各所に眠る敵妖精を倒せば装備品が、動物を世話すればアイテムを売るお店になってくれます。
戦う道を選ぶ場合は、その前の事前準備はしっかりしておきましょう。先述の通り、シイの住民はどいつもこいつも「なんでこいつら運命を神任せにしているんだ」と思う程の強敵ばかり。何も強化していない状況だとなかなか勝てません。
ちなみに、本作は「探索を効率よく行える仕様」も多数実装されています。先述の「命の覚書」によるENDのヒントに加え、マップ上でも「探索済みのオブジェクトは色が変わる」仕様、住民の撃ちもらしを防ぐためのアイテム「集落の人口について」…閲覧済みの箇所を分かりやすく表示することで、探索やEND埋めを効率的に進める仕掛けがあらゆる箇所に入っています。

ストーリー的にも「色々探る」のが醍醐味となる要素がてんこ盛りです。なぜ祭司はエリンを生贄に選んだのか、なぜシャノンは積極的にエリンを死なせたがっているのか…主要人物たちの裏に渦巻く情念と過去が、ENDを紐解くごとに理解できるストーリーテリングになっています。
それ以外の「ある種消極的に、エリンを生贄に選んだ」大多数の住民も、その人間関係、エリンを生贄にすることを本当はどう思っているのか、そして、エリンの手に掛かることをどのように受け取りながら死んでいくのか…千差万別の人間模様があります。
本作のサブタイトルである「The Good People」が、まさに本作の主題であり、そして最大の皮肉を込めていることが、嫌でも分かります。本作をイチオシレビューにした理由は、この詳細に練り込んだ人物設定にあります。
それを探りながらストーリーを進めていくのも一興です。最も、彼らの人間模様が一番分かるのは「彼らを殺した瞬間」なのですが。

誰も彼もが「生きること」に執着している…美しく醜い「生命の基本」が起こした惨劇。ええ、ネタバレですが、本作はどのルートをたどるにしろ「惨劇」からは逃れられません。主役たるエリンが「皆が生きるための犠牲」となるか、他の全てを「エリンが生きるための犠牲」とするか、貴方はどちらのストーリーを選びますか?
もちろん、「全て」を選びましょう。これは運命を繰り返して楽しむ「物語」にして「ゲーム」なのですから。

 《 赤松弥太郎 》  ハマリ度:8 グラフィック:9 サウンド:8

Dead or alive 嵐のような 時間を駆け抜けろ

 日照りが続き、井戸は涸れ、村人たちは水を求めていた。
 雨乞いの儀式のため、突如生贄に指名されたのは、年若き1人の少女。
 エリンは、生き延びることができるか。
 「つまり村人を全員ぶち殺せばハッピーエンドですね!」

 いやいやそんな殺生な、だいたい君そんなことできるの?
 え、自己回復と火炎系魔法が使える?
 この村だと、それでやっと中堅くらいの強さだって?
 どうなってんのこの村は……

 でも、じゃあ、それ以外に生き延びる目はあるのか、というと。
 祭りが始まるまでの間、村の中であれば自由に動けますが、生存に繋がる選択肢は、そうそうありません。
 壺あさりをやろうが、盗みをしようが放置されてるのは、そんなことをした程度で運命は変わらないからです。
 泳がされてる、とはまさにこのこと。

 「こんな村、逃げちゃえばいいじゃん」と考えるのは、まあ普通の感性ですよボクらとしては。
 ほとんどの人が真っ先に考えることだし、最初に見たエンディングがこれ、という人も多いでしょう。
 なのでネタバレにはなるんですが、言ってしまおう。甘い。
 つい100年くらい前まで、生まれた村を1回も離れたことのない人が圧倒的多数だったんですよ?
 なんの造作も無く生まれ育った村から旅立って、ザコモンスターを倒して経験値や金を稼いで、というRPG脳は、本作ではまったく通用しません。
 多少火炎魔法が使える程度では、盗賊が跋扈し野生生物がうごめく村の外で、生きていけるわけもないのです。

 じゃあ、「村人を説得してなんとか儀式をやめさせよう」って?
 できるとお思いですか?
 説得して止められるくらいなら、最初から儀式なんてしません。
 村人たちだって、別にエリンに前々から死んでほしいと思ってたわけじゃないんです。
 ただ単純に、価値が、 >>> エリンの命だ、というだけです。
 金品なんていくら持ってたところで、日照りで飢え死にする未来が変わらない以上、何の意味もありません。
 雨乞いの儀式なんて非科学的、と断じられるのは現代の視点であって、ドルイドの予言は絶対なので、なんとしてもエリンには死んでもらって雨乞いを成功させよう、というのは、村人としては極めて合理的な考えです。

 エリンの強さではタイマンでは勝てない村人もいるので、味方がいない限り、簡単に皆殺しもできません。
 しかし、エリンの境遇には同情していて、それでも覚悟をもって犠牲にしようとしている村人たちは、決してエリンの手助けはしません。
 たとえ小さな子どもであろうと、です。
 だいたいエリン自身、常日頃から「死は誰に対しても平等、順番の後先でしかない」とか言ってたらしいので、ねえ……。
 因果応報と言うしかありませんが、さて、困っちゃいましたね?

 本作は8bit調のグラフィックで描かれますが、「死」についての前近代の考え方については妙に解像度が高いです。
 「ドルイド」が登場していることからもわかるとおり、本作の舞台はケルト、具体的には古代ゲールを下敷きにしています。
 村人が魔法を使えたり、人ならざるものが登場するファンタジーであっても、古代社会のリアルを根本に置くことで、まるで古くからの民話のような質感を出そうとしているように感じました。

 別に、遊ぶのは現代のボクらですからね、リアルを追求しなきゃならないわけじゃないです。
 時代劇だって、女の人がみんなお歯黒塗ってたりはしません。
 でもボクは、昔話くらい、近代的な「生存権」とは相容れない世界観を残してくれたっていいじゃないか、と思うのです。
 誰も死なないかちかち山だって否定はしないけど、ばばあ汁が出てくるかちかち山からしか摂取できない栄養素だってあるでしょ?

 別に、前近代の人々だって、命を軽く扱ってたわけじゃないと思います。
 それ以上に、どうにもならない不条理や理不尽が多かったから、ひとりの命以上になにかを優先しなきゃならない場面があった、というだけで。
 生贄に指名されてしまった時点で、あなたには、誰も犠牲にせずに生き延びる道はありません。
 抗わずに拾える命は無い、という状況で、あなたがどう動くか、そして何を見るか。
 大丈夫、これは物語です。今現実にそんな状況に置かれていないことを、感謝しようじゃありませんか。

 トゥルールートのネタバレ一切無しで語れる範囲は、このくらいですかね。
 トゥルーエンドを見ると、この話の印象もだいぶ変わってくるのですが、根本的なメッセージは変わりません。
 生きろ。

ハマリ度 : 8 / 10
 バトルは、レベル上げの概念が無いオーソドックスなもの。あくまでストーリーの駆動装置としての割り切りがしっかりしていて、勝てない相手には(よほどの運が無ければ)勝てない。
 本作の主眼はやはり、メインのストーリーの力、そして村人たちの台詞の質感にある。短編ではあるが各人にきちんと存在感がある。
 トゥルーエンドがあると信じて進めれば、初見でもトゥルーエンドにたどり着ける程度の難易度。エンディングコンプも難しくはないが、できればトゥルーエンド後、エンディング集に未解放のエンドのヒントが欲しかった。
グラフィック : 9 / 10
 8bit調にした方が残虐性が薄れる(のでより残虐な描写ができる)という理由の選択だろう。8bitならではの演出などは無いが、異物なく構成されているので没入感がある。
 バトルにはさほど重きを置いていない本作ではあるが、戦闘グラフィックは手を抜かず、UI含めしっかり設計されている点も良い。
 トゥルーエンドについて、ある演出を見落とす人が多いらしくサイトで補足しているが、初見では台詞に集中しがちだから、見落として当然。台詞を出さない間を作り、もっと演出にタメを作っていれば、台詞の形で言及がなくても問題なく伝わったはず。
サウンド : 8 / 10
 効果音・音楽もしっかりと8bit調。統一感があって心地よい。
 トゥルーエンドの例の演出については、やはりもっと音の助けが欲しかった。段階を踏んで、きちんと間を取って音を鳴らすだけでも違ったはず。

 初見でトゥルーエンドまで1時間強、エンディングコンプしても3時間かからない程度の短編です。
 あっという間に終わってしまうような時間ですが、しかしそれでもきちんと残るものがある、愛着を持てる作品でした。
 ボク個人としてはこの村には絶対住みたくないですけど、プレイヤーとしては、またこの村に訪れてみたく……なりませんか? ならない?

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