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■ ヨリガミマーケット

ヨリガミマーケット
作者 [ 羽々斬 さま ]
ジャンル [ 経営シミュレーション・東方二次創作 ]
容量・圧縮形式 [ 275MB・ZIP ]
製作ツール [ RPGツクールMV ]
言語 [ 日本語 ]
配布元 ダウンロード先

(補足)
2023.12.10:現在の最新バージョンは1.02です。(2023.10.06更新)

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レビュワーハマリ度グラフィック サウンド合計総合判定
ES 9 /10 10/10 9 /10 52/60 B
赤松弥太郎 7 /10 10/10 7 /10

 《 ES 》  ハマリ度:9 グラフィック:10 サウンド:9

この貧乏神、あまりにも商売に向いてない。

経営SLG…絶対数が多く、その中の傑作も数多く、それ故にアプローチも千差万別。当サイトの【SLG】ジャンルを見るだけでも、「経営SLG」というものの裾野の深さが分かります。
その中で、本作「ヨリガミマーケット」の特徴は、経営の生命力となる金銭を、文字通りの「HP」に見立て、RPGツクールMVデフォルトの戦闘システムでやり取りするシステムにあります。
その上で、本作に求められる知識は数多くあります。

本作は、小粒でフレンドリーなゲームですが、それでも、後半になるにつれて「一筋縄でいかなさ」は増していきます。
「安く仕入れて高く売る」は、本作でも通用する経営のセオリーですが、本作は「RPGツクールMVのデフォルト戦闘」で「HP吸収攻撃で戦う」ゆえに、かなり独特な手ごたえになっています。
「RPGツクールのHP吸収攻撃」ということは、まずオーバーキルができません(最大HP以上の金銭はもらえない)。「HPは財布の中身=無い袖は振れない」ことも表現したシステムですが、問題は「敵のHPが残り少なくなった際に、丁度いい安物をどうするか」という点です。
加えて、本作の主人公・紫苑は「貧乏神」であるが故に、「常に毒状態」というデバフが付いています。ターン数を重ねるほど、戦闘面でも経営面=ストーリー進行度にもペナルティになるのです。重ねたターンで受けた攻撃も考えると、赤字になってしまう場面も数多くあります。
場合によっては、オーバーキル分の儲けが減る点を飲み込んで、最大威力を叩き出せる商品を売りつける他ない場面も存在します。

加えて厄介なのが、客(エネミー)として登場してくる東方キャラ。序盤の文・早苗ですら、売り付け攻撃は非常に厄介です。手に入る新聞・お札が使いづらい(基本価格が安い・弱点の客が少ない)点も含め。
そして、後半になると出現する咲夜・妖夢・優曇華は、初見では本当に厄介なエネミーです。売りつけで奪われる金も高額(定価1千円の包帯で、8千円近く払わされる)。バフ・デバフ・全体回復など、持っているスキルも厄介極まりありません。
今までの経験から「所持金を1万程度残して仕入れに使おう」と判断すると、速攻で破産する戦闘難易度です。
しかし、彼女たちはいずれも「意外なお手頃商品を高額で買ってくれる」弱点が存在します。そこを見抜くには、バイトの話、バトルの状況を細かく見る必要があるのです。東方知識を深く知っているならともかく、「かじった」程度では見抜きようが無い弱点なので。

そして、「弱点看破が重要」な本作にもかかわらず、「モンスター図鑑」に当たる機能がありません。
二次創作ゆえにキャラの中身やバックストーリーが豊富な東方シリーズ、「モンスター図鑑」に書けることは山のようにあるのに、本作での描写は最小限にとどまっています。
バイトの会話で分かるヒントは、イベントや好感度が進むとセリフが変わってしまい、再度見ることはできません。弱点などの知識は、外部にテキストファイルを作るか、プレイヤー自身の脳内に保存する他ないのです。

「手軽に楽しめる東方二次創作」「大御所二次創作者による綺麗なグラフィック」「『東方憑依華』(2017年初出)と、比較的最近のキャラが主役」と、本作は東方をよく知る人・かじった程度には知識のある人・全く知らない人、いずれにも楽しめる作品に仕上がっています。
それだけに、「一発で1万円も奪われる」後半の難易度は、システムに慣れたが故の「飽き」も合わさって、非常につらいひと時となります。うっかり長引かせると普通に赤字になるので。
「弱点を探るまで持たない戦闘バランス」「一度弱点が分かれば固定化してしまう戦法」「その中で生じる『使えない商品』の在庫」と、本作では味わえば味わうほど欠点も見えてきます。
そんな本作に必要な「知識」が得られる攻略本もありますが、有料(定価1,800円)なのは良しとしても、現時点では物理書籍のみ。こういうものこそ、電子で欲しいなぁ…と悲しみに包まれています。

 《 赤松弥太郎 》  ハマリ度:7 グラフィック:10 サウンド:7

たった今から ここはワルのパラダイス

 これは経営SLG? いやこれ、RPGだー!!

 えー、「HPが所持金に置き換わった感じ」と言われてもピンと来ないと思いますので、このレビューでは所持金を「HP」と表記します。
 本作の「所持金」は単位が¥になってるだけで、他のRPGのHPと何ら変わりませんので。
 所持金をHPに書き換えて、本作のシステムを説明すると以下の通りです。

 だから言ってるじゃないですか、本作はRPGだって。経営要素がおよそ見当たらない。
 まあ、ボクのような悪食プレイヤーとしては、楽しければそれでOKなので、こだわる点ではありませんけども。

 じゃあ、本作の楽しいところはどこか?
 振り返って考えると、やはり弱点を探し出す過程でしょうか。
 本作は、敵の種類があまり豊富ではありません。レベルを上げても繰り返し、同じ種類の敵が出てきます。
 だからこそ、色々なアイテムを試し撃ちする余裕があり、それぞれの敵の弱点も記憶に残るのです。
 敵の弱点がだいたいわかったくらいでクリアできる、飽きる前に終わるボリュームなのが好印象です。

 そのボリュームに収めるために、色々な説明を省略、東方知識が前提になっていることは指摘できます。
 皆さんは今さら何も疑問に思わないでしょうけど、河城にとりを初見で河童と判断できる人、いませんからね。
 それがわからなければ、これ見よがしに売っているきゅうりと関連付けて「ははーん、これはきゅうりを使えってことか」と理解することもなく、ひいては本作が敵の弱点を突くバトルだと把握するきっかけも掴みそこねます。
 言い方を変えれば、そういった細かい説明や背景をすっ飛ばせる、二次創作の強みを正しく使っているということです。
 思いついたアイディアをコンパクトに、ダイレクトにまとめるのに、二次創作って最適なんですよね。

 結局はアイディア勝負、一発ネタという評価は、否定できません。
 それはそれで肯定するとしても、ちょっと薄味すぎじゃないかな、とは思いました。

ハマリ度 : 7 / 10
 弱点を探すことにフォーカスしたシステムのおかげで、敵の弱点を探し当てると、そのキャラを理解できたような気持ちになれるのは良い。バランス調整は難しかったと思うが、まったく破綻無く、手軽に遊べる難易度にまとまっている。
 短い作品だが、それでもレベル3や4になると成長が鈍化し、ゲームとして若干ダレてくる。特にバイトの友好度上げがなかなか面倒くさい。攻略には全員の友好度上げがほぼ不可避なのだが、たかね以外、最終段階まで上げないとプレイヤーにメリットが見えないので、煩わしさばかりが目立つ。
 もしかしたら段階毎にバイトの性能が強化されているのかもしれないとも思ったが、ステータス変動が一切見えないので、プレイヤーには友好度を上げる動機が生じにくい。コミュニケーションの味付けをもう少し濃くすれば、ステータス上のメリットがなくても喜んでプレイヤーは友好度を上げるはずだ。
 ラスボス戦からエンディングへの流れがもう1つの不満点。ろくな準備もせずにラスボスに突っ込むように誘導していて、初見殺しとしてなかなかに悪質。オートセーブからやり直せるのでハマリではないとはいえ、特に必要の無い不意討ちで、プレイヤーの信頼を損ねる。
グラフィック : 10 / 10
 キャラドット、敵グラ、立ち絵等々描き下ろし。品質もマップ素材との親和性も文句なし。
 ドット絵は紫苑以外正面絵のみではあるが、その紫苑の歩き絵には苦労の跡が見受けられる。本当にお前の髪はどうなってるんだ。
 (おそらく)元ネタになったゲームがレトロRPGということを踏まえてか、フォントや一部デザインでドットの角を立たせているが、それ以外はごくモダンな作り。
サウンド : 7 / 10
 選曲も違和感なし、SEもグラフィック同様、一部チップチューン風を採用しているが、それ自体に違和感はない。
 ただし、文字表示時のポポポ音に強い違和感が残る。メッセージを表示したときに一定の長さのポポポ音を再生しているだけなので、まったく文字表示と合っておらず、メッセージ表示が終わっていてもポポポ音が鳴り続ける。こういう細かい積み重ねは非常に気になるところで、ない方がよほど良かったレベル。
 そして、やはりラスボス戦前の音楽演出。ラスボス戦を準備万端で迎えようとすると、無音状態が続く中商品を買いそろえる必要があり、場合によっては開店フェーズを何回か挟む必要すらある。明らかに演出面から下準備をさせまいとしている。

 キャラ描写は薄めとは言いましたが、しかしナズーリンの聖母っぷりは強烈に印象に残りますね。
 鴨が葱を背負ってきたとは、まさにこういうことなのかとその身を以て教えてくれました。
 皆さんも、うまい話にはくれぐれもお気を付けて。

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