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■ 風と花曲のアンブレラ

風と花曲のアンブレラ
作者 [ シキ さま ]
ジャンル [ 風をテーマにお嬢様の冒険RPG ]
容量・圧縮形式 [ 598MB・ZIP ]
製作ツール [ RPGツクールVX Ace ]
言語 [ 日本語 ]
配布元 ダウンロード先

(補足)
2024.12.08:現在の最新版は、Ver1.03です。 (2024.10.26)

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レビュワーハマリ度グラフィック サウンド合計総合判定
ES 10/10 10/10 9 /10 56/60 A
赤松弥太郎 9 /10 9 /10 9 /10

 《 ES 》  ハマリ度:10 グラフィック:10 サウンド:9

優雅に舞い降り、優雅に刺し、優雅にティータイム

本作「風と花曲のアンブレラ」の舞台を暴れ回る、ゆるふわお嬢様のセシリー。彼女がチート転生者並に暴れまわる序盤から、本作はコメディ味が強い印象を与えます。彼女の対極に位置するメインヴィラン・ゼヒュラも、踊りをたしなみ「舞台」にこだわるなどのぶっ飛んだセンスから、コメディ味をより強めています。
しかし、本作の根底に流れる物語は、とんでもなくシリアスです。文字通りの「血みどろ」だった人と魔族の戦い、3人の主人公がそれぞれ失ったもの、敵対する魔族にも事情や確執が存在する、そして「風乗りの伝説」の真相…。物語を進めるたびに、全キャラの事情が、その上で戦うしかない/戦ってはいけない理由が明かされていきます。

その中で繰り広げられる戦闘・探索も、本作では豊富に詰まっています。特に、戦闘はRPGツクールの典型的なターンベース戦闘を基礎としていながら、装備・アビリティ・「FW」という特殊なリソースなど、様々なカスタマイズ要素・作戦要素が詰まっています。
前半・メインルートではゆる目の難易度ではあるものの、後半ボスやサブクエストの戦闘難易度は高めに設定されており、ボスの特性を見て物理中心ならカウンターやパリィを、魔法中心ならグレースといった対応策が必要です。
それを最も感じるのが、中盤のサブクエスト「父を悪夢から救いたい」。このクエストのキーアイテムを手に入れるダンジョンは、序盤ダンジョンと地続きながら、出てくる敵はザコですら段違いの強さ。手に入れたばかりのレベルでは、キーアイテムを守る中ボスですら、かなりのHPが削れる強敵となります。
…そうです。キーアイテムを守るドラゴンは、「父を悪夢から救いたい」クエストのラスボスではありません。キーアイテムを届けた後に、更なる強敵と戦う必要があるのです。おそらく、サブクエストを受注したばかりのレベルおよび戦闘知識では歯が立たないレベルに強敵です。クエスト発注者のアドバイスにある通り、後回しにしてメインルートを進めることを推奨いたします。ストーリーを終盤まで進めても、サブクエストは変わらず実行できます。

そして、上記の通り、本作には寄り道要素も豊富です。サブクエストは吹き出しマークが出るなど分かりやすいですが、それ以外にも序盤は入れない絶対これ後半で開ける奴な遺跡が各地に点在し、その中にも更なるサブクエストが存在すると、かなり入れ子構造になっています。
本作の舞台自体は小規模ですが、いざ終盤になって点在する隠し要素を掘り尽くそうと思うと、所在地を忘れがちになって迷う時間がかなり費やされます。
サブクエスト・隠しダンジョンで戦うボスも搦め手ばかり。バフ・デバフの打ち消し合い、回避(カウンター・パリィ・グレース)が無効になる「封印」の使いどころ、「FW」を誰に回し誰が溜めるか(基本、溜めるのはセシリー・使うのはロウですが、セシリーやウィンリアのFW使用技にも強力な効果があります)…考える要素が豊富にあります。
そして、本作のバランスは「対策が必要」ですが「対策を一つでも見逃すと敗北する」ほどではありません。序盤はセシリーが暴れ回るだけで十分ですし、仲間が揃う時点でもザコ戦は回避も戦闘もそれほど難しく設定されていません。
本作は、戦闘ではなくストーリーを楽しむRPGだからです。ストーリーを停滞させないレベルには優しく、それでいて集中が求められるレベルには歯ごたえがあるバランスを保っています。

そこまでイチオシするストーリー、私からはあえて語りません。赤松さんもそのつもりのようです。心配せずとも、物語はコメディ面もシリアス面も王道であることは保証しておきましょう。
クリアまでおよそ10時間。時間を見つけて一気に進めることをおススメします。…本作、システム要素もストーリー要素も後半部に集中しているため、ゆる目の序盤は一気に進めた方が没入できます。

 《 赤松弥太郎 》  ハマリ度:9 グラフィック:9 サウンド:9

向かい風も 空も 夢も 理想も超え We can fly!

オープニング1
 かつて母の背中を見て憧れた、あの空へ。
オープニング2
 狭い鳥籠を飛び出し今、羽ばたく!
オープニング3
オープニング4
オープニング5

 風の吹くまま、声に呼ばれて、神に愛された御伽の地、ガーデニアへと流れ着く。
 この2分ほどのオープニングの流れが本当に綺麗なんです。
 「さあ、これから新しいおとぎ話が始まりますよ」と、プレイヤーに呼びかけてきます。

 ……ただし、作中の人物にとっては、このおとぎ話は思ってたんと違うらしくて。
 主に問題なのは、セシリーお嬢様の出で立ちと性格でしょう。

 なにせガーデニアでは、風乗りは「英雄」としか伝えられてなくて、風乗りが女の子という発想が無かったみたいなんです。ジェンダーバイアスってヤツですね。
 実際には、セシリーの母親も風乗りでしたし、むしろ作中では可憐な女性の風乗りしか登場していないにもかかわらず、です。
 筋肉モリモリのマッチョマンが悪い奴をぶっ飛ばしてくれると想像してたら、いい所のお嬢様がふんわり笑ってたら、そりゃあ落差を感じてしまうでしょう。
 そんなのは勝手なイメージの押しつけで、セシリーのあずかり知らない話、まったくいい迷惑ではあります。
 が、性別や育ちを差し引いても、セシリーの振る舞いは、英雄らしさという面から見て自由が過ぎます。

ティータイムのお嬢様
 たとえダンジョンの中だろうと、隙あらばお茶をキメる!!
戦うお嬢様
 レースの日傘で空を飛び、戦いとなればその日傘で攻撃を弾き、敵を斬る!!
 誰ですか傘で敵を斬るなんて普通って言った人は。普通じゃないよ?
ピアノを弾くお嬢様
 酒場でピアノを見つければ優美な調べを奏で、ダンスに誘われれば、相手が魔物だろうと手を取り舞い踊る!!

 ここまで来るともう、優雅ってレベルじゃない。仲間たちがそろって「緊迫感なさ過ぎ!!」と叱責するのも当然です。
 まあ、この中のいくつかの行動は、プレイヤーが選択しているわけですが。
 選択肢次第では、より無粋なセシリーになる可能性はあります。が、ほとんどのプレイヤーがより優雅なセシリーを選ぶでしょう。

 優雅な行動をすればするほど、アビリティ習得に必要なEP(エレガント・ポイント)が溜まる、というメリットは用意されています。
 しかし、こんなメリットは実のところ、ほとんど関係ありません。普通にストーリーを進め、サブミッションをクリアしていけば、クリアに必要なEPは十分に溜まります。
 EPは後押ししてくれているだけで、別に報酬など無くても、きっとプレイヤーは優雅な選択肢を選ぶに違いないんです。
 ストーリーを進めれば進めるほど、これがセシリーの在り方なのだ、とわかるはずですから。
 そしてその在り方は、作中人物たちの想像とは異なっていても、ある1つのヒーロー像に違いありません。

 優雅なのは決して、ストーリーに限った話ではありません。
 戦闘やダンジョン探索も、その優雅さを支えています。

 とはいえ本作では、戦闘やダンジョン探索は決して際立つ存在ではないのですが。
 本作の特徴として、ザコ戦をする必要性が薄いことが挙げられます。
 本作はシンボルエンカウントで、敵の動きは遅く、回避しやすくなっていますし、エンカウントしても逃げられます。
 戦闘終了後にHP回復するアビリティが序盤で、MP回復するアビリティも中盤には手に入るので、戦ったところでリソースを消耗することがほぼ無いし、ボス戦前には必ずティータイムで全快できます。
 戦えば経験値や金、素材用のアイテム等をドロップしますが、全武器コンプリート等目指さなければ、ボス戦やサブミッション、ダンジョン探索でクリアに十分な量は入手できます。
 だいたい、出会う敵を全滅させるような戦い方はエレガントじゃない。
 ザコ戦をする動機は、ティータイムでは蓄積できないFW(フィールドウィンド)を、ボス戦前に貯めておくこと、……それくらいかなあ。

 でも、それでいいんです本作は。そこに主眼を置いた作品では無いんです。
 ひりつくようなリソース管理だとか、トレジャーハントとか、それよりも軽やかに作品世界を楽しんでもらうことが本作のテーマでしょう。
 さすがにボス戦については次第に難度が上がっていき、油断すれば足下を掬われる程の歯ごたえにはなっていきます。
 ただ、仲間も十分に強いので、基本的には仲間の強みを押しつけていけば勝てるバランスになっています。
 ボスのドットモーションに魅せられる余裕は、あるはずです。

 そのためにも、しっかりと仲間の強みを把握しましょう。
 本作の仲間は全部で3人。
 セシリーは、攻撃・回復両面に長けた、パーティの要です。
 HPの低さが最大の弱点ですが、一定確率で物理攻撃を回避する「パリィ」と魔法を回避する「グレース」、両方が発動する唯一のキャラでもあります。
 優雅さを極めて回避の鬼とするか、MPの効率向上を狙っていくか、装備には2つの方向性がありそうです。

 ロウは物理アタッカーで、基本的にはそれしかできません。
 ボス戦では強力なFW使用スキルが火を噴きます。MP消費で絡め手スキルが使えますが、できればFWは彼に回して、大ダメージを狙っていきたいところです。
 HPは3人の中で最高ですが、回避スキルは物理攻撃を回避して攻撃する「カウンター」のみ、リターンは大きいが確率も低め、といった調整になります。
 3人目は回復と補助に特化、蘇生スキルが使える唯一のキャラです。
 HPも比較的高めで「グレース」も発動し、最終盤でほぼすべての状態異常に耐性を持つアビリティも覚えられる、と防御面も非常に心強いです。
 反面彼女が落ちると、終盤ボスの猛攻は非常に危険です。攻撃には期待できないので、MP効率や生存性能向上を目指した装備に自ずとなるでしょう。

 ……とは言え、仲間の役割分担や戦術をそこまで気にするようになるのは、早くて中盤以降の話。
 武器のアップグレードも、序盤から存在をほのめかされていますが、実際に機能するのは中盤に入ってからです。
 それまでの間は、この3人と妖精のシルフィ、4人のわちゃわちゃっぷりをまずは楽しもうじゃありませんか。
 仲間と茶を飲み語らう、平和なひとときがどこまでも広がっていけば、きっと世界も平和にできるのです。

 そんな平和だけでは満足できないというあなたは、クリア後のダンジョンをお楽しみに。
 きっとあなたを満足させる激しい戦いが、力と力のコミュニケーションがあなたを待っています。

ハマリ度 : 9 / 10
 ストーリーを楽しむのにほどよい長さのダンジョン、難しすぎないギミック、快適なバトル。さすがにラスボス1つ前のボスにはそれなりに苦戦したし、なんならラスボス以上の強敵だったが、それはストーリー上納得感のある難易度設定。しっかりと設計されている。
 クリアまで9時間というプレイ時間の割には、システムがかなりスロースターターなのが気になるポイント。開始してから3時間、3人目が仲間になるくらいまでは戦闘もかなり単調、武器のアップグレードも不可能。将来的に使用可能と示唆された機能がずっとお預けになっているのは、プレイヤーにとって気分が悪い。不十分ではあってもどんなシステムになるのか、先行して体験させてくれても良かった。
 ストーリーでは一点だけ、エリオットお父様は早い段階でセシリーがガーデニアにいることを把握するほど優秀なのに、なぜかなかなか登場しないのは不自然に思えた。さすがにプレイヤーが父親の顔や名前を忘れることは無いと思うが、エリオットの調査進捗イベントは中盤以降に回した方が彼の存在を思い出せたし、間が開きすぎなかったのではないかと思える。伏線の貼り方としては少し勿体ない。
グラフィック : 9 / 10
 安定のREFMAP素材にRド素材が下地、パーティキャラとボスキャラのドットが描き下ろし……かな? 輪郭線を描かない大きめのドットが大きく動くが視認性は良く、ダメージの数字も大きく出るのでエフェクトに邪魔されない。マップチップの光と影、風などの表現にもこだわりが感じられる。
 だが残念ながら小さすぎる。576x448はVX標準と比べると高解像度ではあるが、FHD以上のディスプレイでの等倍表示は厳しい。せめて2倍表示、1152x896のモードが欲しかったが、画面モードを変えるとなぜか633x492という半端な拡大になってしまい、ジャギが目立ってしまう。
 既知の不具合にもあるカーソルと仲間の並び順の不一致はやはり減点ポイント、直感的では無い。
サウンド : 9 / 10
 グラフィックもだが、余分な素材が入り込んでいるので、整理してアーカイブの容量を減らしてほしい。
 ピアノ曲を中心とした選曲には安定感がある。ボス戦はボスキャラ毎に別BGMになるこだわり。ただしその分聞いている時間が短くなり、一曲一曲はどうしても印象に残りづらい。

 今回のボクのプレイ時間は、クリアまで公称どおり9時間、クリア後ダンジョンを含めて11時間半ほどでした。プレイ時間が長くなりがちなボクにしては非常に珍しいことです。
 それだけボクにとっては狙いがわかりやすく、計算された導線通りに楽しめた作品でした。
 プレイすればきっと、美しく懐かしく、それでいて新しいおとぎ話が物語られることでしょう。

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