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■ 偶弦(ぐうぜん)~人形の糸~

偶弦
作者 [ Onion rabbit さま(製作)・悲しき魚 さま(邦訳) ]
ジャンル [ 探索ホラーアドベンチャー ]
容量・圧縮形式 [ 79MB・ZIP ]
製作ツール [ RPGツクール VX Ace ]
言語 [ 日本語・中国語 ]
備考 [ 現在の最新バージョンは1.02 ]
配布元 ダウンロード先

偶弦 偶弦 偶弦 偶弦 偶弦

レビュワーハマリ度グラフィック サウンド合計総合判定
ES 8 /10 10/10 9 /10 151/180 B
シュン 7 /10 10/10 8 /10
牛人 8 /10 9 /10 8 /10
みりん星 8 /10 10/10 9 /10
hoikoro 8 /10 9 /10 8 /10
赤松弥太郎 7 /10 8 /10 7 /10

 《 ES 》  ハマリ度:8 グラフィック:10 サウンド:9

4人の少女、1人の男、彼らの「願い」とは…

今回のイチオシ「偶弦(ぐうぜん)~人形の糸~」は、中国製のフリーゲームです。しかし、見た目からはそれと分からないほど日本のフリーホラーゲームに溶け込んでいる作品です。
台詞は完全日本語対応。周りのグラフィックを見ても「Ib」や「魔女の家」など、日本製・グラフィックがウリのフリーゲームと比較してもなんら遜色はありません。

ただし、ホラーADVにつき物のリドルは難易度高めの部類です。日本語は不自由は無いのですが、ヒントの伝え方が分かりづらくなっています。「童話」と言う形で伝えてくるため、ただでさえ複雑な解法がよりユーザに伝わりにくくなっています。
難易度の高さは「アイテムを自動で使ってくれない」という仕様も一因です。「ただ調べるだけではGAME OVERになる」が分かりやすい部類に入るほどです。
私が詰まったのは「青い宝石」の使い方。何に使えばいいのか、その「何」がどこにいるのか、この2点で迷いました。これ以上はネタバレになるので、あまり苦労を語れないのが本当にもどかしいです。

有名作だけに攻略も充実しているため、そちらを参考にするのも一考です。本作の場合、答えが分かれば「あれがヒントだったのか!」は分かりやすいのですが、一見では「どの童話がどのヒントなんだよ!」となる複雑さです。
やっぱり、「ヒントを一箇所で一気に出す」のは、「何処に使うヒントか」が分かりづらくなり、それだけで攻略難度を無駄に上げてしまいます。

それでも、本作は「乗り越えてでも見たいストーリー」が特筆すべきものです。細音(さざね)と弦(げん)、2人の運命が気になるストーリーが複雑なリドルを乗り越えるモチベーションとなります。
それだけに、ネタバレに触れずに語れる内容があまりにも少なくなります。ぜひ自分の目で見てもらいたい所ですが、先述の「分かりにくいヒントのばら撒き方」が人によっては苦痛にすらなるレベルなのが、本当に「惜しい」と感じる作品です。

 《 シュン 》  ハマリ度:7 グラフィック:10 サウンド:8

この屋敷に集められたのは・・・「偶然」ならぬ・・・「偶弦」なのでしょうか?

 今作は最近結構数が増えた探索ADVです。中国製の作品を日本語に翻訳したものとなっています。
少々日本語との違いがみられる部分はあれど、特に問題なくプレイできると思います。

 主人公の細音(さざね)が目覚めると、とある古ぼけた洋館の一室にいました。
他にも部屋に迷い込んだ3人の人物。皆何か事情があるようです。その後細音は探索を始めることとなります。
探索する途中で出会う弦(げん)という青年も何か事情を抱えているようです。
そして明らかになる真実・・・。一体この洋館で何が起こっているのでしょうか・・・?

 古い洋館を探索しながら謎を解明していくという今時の探索ADV作品です。
話の本質は違えど 『Ib』『霧雨が降る森』を髣髴とさせる作品です。
ちょっと厄介なのは「ヒントが妙に分かりにくい」こと、「セーブする場面によっては詰まったり、イベントが見られなくなる」こと。
今作品の謎解きのヒントとなる童話はそもそも「どこをヒントとしてみれば良いか」が分からないので戸惑うことでしょう。
実際は良く考えればちゃんとヒントになっているのですが・・・。
特定の場面ではゲームオーバーが確定したり、特定のエンドやイベントが見られなくなる場合ががあります。
セーブは時計(のオブジェ)で行い、システム時計を参照する都合上どれがどのセーブデータが分かりにくいのが難点です。
しかし詰まってしまう可能性を考えセーブデータは分けておいた方が良いでしょう。
エンドは6つありますが最低でも2周しなければ全てのエンドは見られません。
その理由は序盤の選択肢でその後のエンドの展開が分岐するからです。やはりセーブデータを分けるのは重要となります。

 注目はやはり「何故この洋館に集められたのか」と「集められて何をするつもりか」でしょう。
その理由が明らかになった時皆さんはどう思うのでしょうか?自分は・・・言葉に出来ません。
それにしても「そんな理由で・・・?」と思ってしまいました。詳細は明らかにされず、腑に落ちないですね・・・。
とりあえず・・・新蕗(あらふき)は可哀想です・・・。詩月(しげつ)は残酷・・・。詩夜(しいや)は救いが無いです・・・。
弦と細音は幸せな未来を歩んで欲しいです・・・。それが出来るかはプレイヤー次第です。
「運命」は決して人形の糸などで操れるものではないのですから・・・。

 《 牛人 》  ハマリ度:8 グラフィック:9 サウンド:8

(゚Д゚#)よまんのかい!(これは良い遊び心)

 ツクールVXAce製の見下ろし型アドベンチャーです。一部の謎解きが分かり辛く、攻略等の閲覧を抜きにはクリアは困難でしょう。

 ゲーム自体は少々の難はありますが、暗く不気味な雰囲気は非常に良く出ています。
謎解きの鍵となる童話も、シュールさが実に良い味が出ております。
作品の物語が詳しく語られることはありません。解釈のヒントは出ているので、想像力を刺激する所でしょう。

 キャラクターの名前が元の中国語とは変わってしまっているので、元の中国語の音がどんなものだったのか、という所は気になりました。
元の音でカタカナ表記でも良かったのではと感じます。もちろん、翻訳には付き物の事と言えます。 

女の子は可愛い。だが、エロ要素はない。

ハマリ度:8/10
今少し物語を語ってほしかった
グラフィック:9/10
キャラ絵が良い
サウンド:8/10
雰囲気は出ている

 《 みりん星 》  ハマリ度:8 グラフィック:10 サウンド:9

止まった時間の中で貴方の願いは叶うのか

偶弦

最初は細音ちゃんメインで描こうとしたのですが、そうするとカップリングは弦君よりお兄ちゃんの方がいいなーと思ったり。
あとは、狐ちゃんと一緒にタンスの裏を調べているところとか、
階段で逃げ回るシーンとか、
新蕗が人形を持って感傷に浸ってるとことか、
童話を読む細音ちゃんとか、
いろいろ考えてピアノになりました。
プレイヤーの癒しポイント。あそこのシーンが一番好きです。

 《 hoikoro 》  ハマリ度:8 グラフィック:9 サウンド:8

少女となった細音の願いはあの頃の家族なのでしょうか

偶弦 ~人形の糸~】今回レビューさせていただきました
あまり事前知識を入れることなくプレイすることにしました
海外の方が製作したゲームを日本語に翻訳したものらしく、さらに結構本格的なホラーゲームである、程度の事前情報でした
海外のホラーと日本のホラーには根本的に大きな違いがあり、意味合いが大きく異なると聞いたことがあったのですが
このゲームは…完全に日本系でした、日本的ホラー要素がかなり濃厚に含まれていました

BGMの中にひそひそと誰かの声が聞こえる、追いかけっこ、暗い闇の中を焦燥しながら進む、突然の音
どれも自分の知る日本的ホラーのそれと同じ…寧ろ不安的恐怖を感じるというところでは
自分の知る作品の中でもかなり上のレベルだったと思います
プレイした時間帯が薄ら寒い夏の夜であったことも割り増ししてか、終始緊張と震えが自分の周りに付き纏いました

基本的なアドベンチャーと同じように、謎を解き、次に進み、を繰り返してストーリーを進行していく形になっております
謎解きの鍵として、絵本の内容と謎が酷似しており、しっかりと絵本を読むことがそのまま攻略につながっている形になっております
このタイプのホラーゲームとしては、謎に対する消去法でのごり押しはあまりできないようになっていると感じました
絵本を読まずにプレイするとほぼ確実に進行に支障を来します

どうかしっかりと絵本を読んでください

ゲームそのものはそこまで長くはないのですが、広い館をじっくりと端から端まで調べられる上に
二度調べることでフラグを回収できるようにもなっている都合上、実プレイ時間以上に体感時間が長く感じられます
また、完全にクリアするためには二週する必要があるため、なかなかにボリュームのある作品に仕上がっていると感じました

上述しましたが、BGMはどれも不安感を煽るような恐ろしい物が多く、演出もプレイしていてかなり怖いです
あまり突然驚かすような演出も少なくなく、ホラーゲームとしてかなりレベルの高い作品であります
ですが、ホラーとしてはグロもごく僅かにしかありません
ホラー演出方法では、こういう言い方は語彙が乏しいとは思うのですが、‘Ib’‘青鬼’ を足して2で割った。というイメージです

ただ、難点も決して少なくはありません
難易度ともいえますが、謎解きが絵本をじっくりと読んでいても、発見することが難しいということも多く
かなり広い範囲(実際にはそこまで大きくないですが)を探し回るということが何度も起こりました
また、セーブを分けないと詰みが発生する場面もありました

アイテムの説明文も個人的には脱出ホラーにおいて欲しかったです
使い方がまったくわからなかった物や何の意味も無いと思われるものが存在していたことや
セーブ箇所がそこまで多くない割に即死トラップが多かったです
また、終盤に手に入れたプリントの日本語変換が、それまでほとんど違和感を感じなかったのに対し
急に翻訳機にかけたようになっていたのですが、あれはどういうことなのか…

登場人物の詩月詩夜についても、何が望みだったのか、ほとんど関わりもないままに終わってしまいました。
数少ない登場人物でありながら、目的や性格がわからないままに物語の幕を閉じてしまったのは少々残念に思います

(・・・もしかしたらフラグを回収できてないだけかな?)

しかし、多少の難点に目を瞑っても余りあるほどにグラフィックは素晴らしいものだったと言えます
ごく小さな仕草をドットで表現し、それがとてもわかりやすい
所々に差し込まれるCGも素晴らしく、感傷に浸り、恐怖心を煽ることに大きく手助けしています
このCGも収集できるのですが、儀式の際のものがなかったのが少々残念です

・ハマリ度:8/10

上述したとおり、多少の難点が無視できない程度には存在していて、そのため減点致しましたが
ホラーである以上ある程度恐怖を覚悟してプレイしたはずなのに、背筋を震わせながらプレイ
それを最後まで感じ続けさせられたのは本当に良かったです、夏なのに寒かったです
改変された童話も読んでいて楽しいもので、面倒になりがちな謎解き部分を大きく緩和していたように感じます
全体的に雰囲気も纏まっており、プレイしていて面白いと感じました

・グラフィック:9/10

素晴らしいです、細かな仕草、動作にもしっかりと存在しているドットや美しく描かれたCG
個人的にはあるEDのカップに映るものが繊細で美しいです(あの時点では意味を理解し難いEDでしたが)
個人的に新蕗さんはもっと登場して欲しかったです
カチューシャはやっぱりかわいいよね!!

・サウンド:8/10

耳を澄ませれば何かが聞こえてくるような、くすくすという笑い声が…
このBGMのお陰で、常に怯えながら探索する事になり、感謝しています…!!
ただ、ごく僅かなSEがこのゲームの雰囲気と大きく外れていたのが気になります
そのSEはツクールにはよくあるものなのですが、それならば無音でよかったのでは、と言う程違和感を感じました
しかし、それ以外のSEには何度も驚かされたり、毛を逆立たせられたり、寒くなったりしました
それらの使い方は特に素晴らしいです、実際怖かったです


フリーホラーゲームはメジャーなものしか殆どやったことがなく、軽い気持ちでプレイさせて頂いたのですが
いやはや、さすがに海外の作品を日本語化するほどのことはあります、ホラーというジャンルでもうお腹いっぱい、満足です
プレイ時間は短かったのに印象的な場面が頭のなかでいくつも浮かび上がり
その日の就寝時には嫌な夢を見て飛び起きて時計を確認しに行きました
時間の都合上、完全にクリアは出来なかったので、キャラクター図鑑は完成しませんでしたが(CGは恐らく完成しています)
とても面白く、夏にちょうどいいゲームでした!!

詩夜さんそんな性格なんやね…

 《 赤松弥太郎 》  ハマリ度:7 グラフィック:8 サウンド:7

君の泣き顔見たくないから 背中から見守るよ

 まず、最初に謝ります。ごめんなさい。
 ボクは今まで、たとえどんなにネタバレまみれだろうと、ギャグに走っていようと、未プレイの人に対する配慮はしてきたつもりなんです。いやマジで。
 これからゲームをプレイする人にとっても、「なんかわかんねーけど、楽しそうだなー、プレイしたいなー」と思わせることができれば、と願って書いてきました。一応。
 だけど今回はダメです。ちょっと言いたいことが膨らみすぎました。

 今回ボクが書くのは、ストーリーの核心も核心、特にエンディングについてです。
 本作、テーマの設定はなかなか鋭いところがあるし、近年のホラーゲーブームにちょっと独特な解釈を加えているところがあります。
 が、技術的にあまりうまくいっていないところが、本当に残念で。
 ボク個人の思いから、どんな方向性に深化させるのがいいか、色々と考えてみました。
 が、ネタバレもネタバレ、未プレイの方にはまったく読ませられないものになってしまったのは当然、致し方なし、といったところで。
 全編反転させちゃいましたので、未プレイの方はどうぞ、ボクの書いた渾身の闇夜のカラスをお楽しみください。
 あ、スクリーンショットは隠しませんので、どんな話をしてるのか当ててみるのも楽しいかもしれませんよ?
 それではしばらく、ごきげんよう。

 さて。
 いやね、本作の言いたいこと、これはわかってるつもりです。「弦きゅんかわいい」ってことでしょ?
 きっと作者さんは、弦きゅんがかわいくてかわいくてしょうがなくて、だからこのゲームを作った。弦きゅんはぁはぁしながら、しとどに濡らしながら書いたに違いないんです。……が、いまいちプレイヤーには伝わらないです。少なくともボクには。
 そこまで弦ってかわいいの? という気持ちで最終局面に行ってしまうと、これはかなり辛い状況です。しかも弦の好感度を稼いでなかったから、さあ大変。

「俺を助けに来ただと? 残念、俺がラスボスでした! 好きな選択肢を選んでね。

1. 俺と一生この家で添い遂げる
2. 俺と血縁関係を結ぶ
3. 逃げ出して魔物に食われる

 もう逃げられないからね-。覚悟してねー。」

 申し訳ないけど、さすがのボクでもこれはちょっと引きました。早く逃げちゃえば良かった。
 いや、現状でも弦に愛着が湧かないわけじゃないですよ。そうじゃないんだけど、やはり「実はラスボス」というひっくり返し方はかなりハードルが高くて、それには耐えられなかった感じです。
 だって現に、彼が引き金になって重大な事態が進行しちゃってるんですよ。多少同情を引くような描写があったところで、「そりゃああんたの自業自得でしょうが!」という印象が上回ってしまう。雰囲気やビジュアルだけでラブラブになって流されるわけにはいきません。

 このどんでん返しを成立させるために弦きゅんは、かなり綿密にプレイヤーの好感度を稼がないとダメだとボクは思うんですが、どうでしょうみなさん。
 ストーリーの構造を大きく変える必要は無いと思うんです。ただ、もうちょっとプラスアルファで作戦が必要じゃないか、と思いつくことを書いていきます。

1. 新蕗さんの好感度低下作戦

 せこいとか言わない。割と切実に弦きゅんにとっては大問題です。
 新蕗さんは、プレイヤーがファーストコンタクトを取る「まっとうな人間」です。当初の目的は「彼女と一緒に館を出ること」でした。途中で脱落した直後でも、細音の目的は「新蕗を元に戻すこと」だと明示しています。
 が、彼女はストーリー上、どうやっても救うことができない。
 彼女を救うルートを作らなかったところに、プレイヤーにも犠牲の重みを背負ってもらおうとする、作者の明確な意図が感じられました。自分は助からないことを悟った上での「あなた一人だけでも生き延びて」という台詞で、プレイヤーの背中を押そうとしているのはわかります。
 が、そんなことでプレイヤーが諦められるか、というと、諦められないですよね。彼女の過去を知ってしまい、ますます助けたい、という気持ちが強くなる。ドーラばあさんなら「お前それでも男かい、えぇ!?」というシチュエーションですよこれは!
 結果、最初のちょっとだけ一緒に行動した新蕗の方が、一番長く行動した弦よりも好感度が上がってしまう、という現象が発生するのです。

 新蕗のことばかり気を取られ、弦の影が薄くなってしまうのは、弦のアイデンティティにとっても、そしておそらく、本作のテーマとしてもまずい。
 はっきりとプレイヤーに、新蕗への未練を断ち切るきっかけを与えるべきです。
 最大のチャンスは、儀式遂行のシーンですね。あのシーンで新蕗は、詩月詩夜姉妹に黙って従っているだけですが、もっと積極的に儀式に関与させてみてはどうでしょう。
 細音の肩をがっちりホールド、弦から引き剥がして椅子まで引きずり、耳元で「あたしたちの幸せのために、祈ってくれるよね? あなたもあたしも、幸せになっていいはずだもの。祈るのは当然だよね?」とか囁けばもう完璧ですね。「この人にはもう、私の言葉は届かない」ということを痛感させられます。
 詩月詩夜姉妹は最初から人形側、プレイヤーの敵ということがハッキリしているので、新蕗が明確にそちらの味方になったことを印象づければ、プレイヤーとしてもあきらめが付くと思うのですよ。
 まあ、そこまでしたところで新蕗の方が好きだと思うんですけどね、ボクの場合。

2. 謎解きでもっとお役立ち作戦

 現実だろうとゲームだろうと、一緒に行動するのは好感度を高める常套手段です。
 でも、ただ一緒にいるだけでは好感度は上がらない、これまた現実もゲームも同様。
 「この人には私が必要なんだ」という保護感情と「この人がいてくれて助かった」という被保護感情、両方満たさなきゃならないのが難しいところなんですよ。
 その点、「ICO」のヨルダとか「Ib」のギャリーとかはうまいですよね。

 転じて、弦きゅん。
 この子は元々館の若旦那で、ずっと前からこの館で暮らしてます。別に細音がいなくても、問題なくこの館で過ごしていそうです。
 だからプレイヤーとしては、「弦きゅんを守らなきゃ!」という動機は弱い。
 一方で、細音にとって弦は頼もしい存在のはずです。
 彼がいなければ、高いところに手が届かないし、重いものを動かすこともできない。いくつかの決定的場面で、彼のヘルプは必要でした。
 じゃあ、彼にプレイヤーが愛着を感じるかというと……正直、狐の方がうまくやってるんだよなあ。

 なぜか。狐には彼がいないと越せない難所が、彼が居ることのメリットと隣り合わせで存在するからです。

 暗くて下の階に行けない、困った!
→狐さんにリンゴを与えて助けてあげる
→狐火のおかげで暗闇が明るくなった!
→狐さんのおかげ、ありがとう!

 という、わかりやすいギブ & テイクの関係が成立しているんですね。
 自分の手で助けなければいけない、というのもポイントが高いです。
 たとえ短い期間であっても、情が移っているから、狐を死なせなきゃいけない時にプレイヤーは重荷を背負うことになる。
 この狐の犠牲が、新蕗の犠牲と重なっているわけで、狐はストーリー終盤にむけて非常に重要な役割を果たしているのです。

 弦の問題は、細音が一人で行動している期間中、弦でなければ解けない謎解きが存在しないところにあります。
 たとえば、弦が仲間にならないと、3階から降りる階段までたどり着けない! 見えてるのに! とか。
 たとえば、単独行動中、クッキーが高いところにあって取れない! いつもみたいに弦が取ってくれればいいのに! とか。
 いつもそばに居て、助けてくれるだけではプレイヤーの心はなびきません。不在による不便を感じてはじめて、そのありがたさに気づくものなんです。

 弦にプレイヤーが何かをしてあげるシーンも、やはり必要です。これ以上新蕗に差を付けられないためにも。
 たとえば、王子の絵に4つのピースをはめる、あの謎解きが彼にとっても重要な意味を持っている、とか。
 じゃないと、気分的に借りを作っている状態で終盤を迎えるので、フェアじゃないと思うんですよね。

 しかし、細音は本当に弦に対して何もしていないのか、と言うと、ボクには一つ引っかかっていることがある。
 本作の冒頭、柱時計を動かしたシーンで彼の時間も動き始めた = 目覚めた、ということであれば、既に細音は、弦に決定的な救いを与えていることになります。そのことをもっと強調してみてはいかがでしょうか。
 細音が一方的に巻き込まれる存在ではなく、事態を動かしている、という実感が、プレイヤーにはモチベーションとして必要だと、ボクは思います。

3. フェアな取引に見せる作戦

 そう、ボクが一番弦に対して怒ってるのは、「フェアじゃない」ってことなんです。

 古典的にファンタジーは、「元の世界に帰る」ところまでがフォーマットです。アリスもドロシーもバスチアンも、ちゃんと自分の家に帰りました。
 ペベンシーの三兄弟みたいな例外もありますが。あの作品はそれが故に批判されている、というのが大きいです。
 最近は元の世界に戻らないファンタジーも増えてますが、よっぽどの事情がない限り元の世界に戻った方が良い、それが王道、とボクは考えてるんです。

 最終局面、細音には3つの選択肢がありました。

1. 新蕗たちと一緒に儀式に参加する
2. 一人で逃げ出し、元の世界に帰る
3. 弦を救うため、館の深部へ向かう

 選択肢はこの順番で現れ、後戻りすることはできません。1を選ばない、という決意をしないと2という選択肢が存在することにさえ気づかない。
 トゥルールートは3ですが、ボクはこのルート、納得ずくで選んだわけじゃないです。
 一人で逃げ出さなくても、弦や、もしかしたら新蕗とも一緒に帰れるんじゃないか、と思って、出口を見つけても探索を続けただけなんです。
 そうしたら退路を塞がれて、一番上の三択を迫ってくる。弦って、ほんと外道ですよ。
 好感度を稼いだ状態なら、細音に対する執着は無くしているようだから安心だけど、好感度の無い状態のトゥルーエンドって、そのままDV直行じゃないか……?
 弦が好き、トゥルーエンドで妹になりたい、という方に聞きたいんですが、あんな監禁男から一生逃れられない状態をお望みってことですか? それなんてストックホルム症候群?

 まあ、そういう性癖の存在は否定はしません。わからないではないし。
 しかし、ゲーマーとしての立場から、プレイヤーの自由意思を否定する選択肢の作りには、疑義を呈さざるを得ません。
 もともとのミッションは元の場所に戻ることだったんですから、それを唯一叶えられる2のエンドで、後味の悪さ、歯切れの悪さが残ってしまうのは、やっぱりフェアじゃない……
 まあ、トゥルーエンドルートを3に設定してる時点で、フェアでもなんでもありませんが!

 だから、せめてフェアに見せかける努力はしてほしいんです。
 「俺に構うな! 一人で逃げろ!」って言い方はまったくフェアじゃない。そこは弦も新蕗も同じですよね。そんなこと言われたら、助けたくなってしまう。
 「俺が道を切り開いた! お前一人なら問題なく無事に帰れるから早く逃げろ! 手遅れになっても知らんぞ!」とまで言えば、プレイヤーは覚悟を決めて、脱出か、弦の救出か、どちらかを選ぶことができるのです。
 選べるってところがポイントです。逃げ出すにしろ、弦を救うにしろ、他方は捨てると決めて、プレイヤーが選んだ道だから意味がある。
 その上で弦を救いに行ったなら、「なんで俺の言うとおりにしないんだ! このアホ! バカ! ヘレン!」と罵倒されても、それはしょうがない、と割り切れるんですよ。

 その段階に至れば、せっかく覚悟を決めて選んだ選択肢なんだから、それ相応のものがフィードバックされてほしいな、と言えるようになります。
 見返り、ということではないですよ。すべてハッピーエンドにしろ、なんて言ってない。

 たとえば上で言う1ならば。
 このルートではまだ、細音自身の不幸については一切明かされていません。だから↓な感じ。

 細音は祈りを捧げました。
 この後、この世のすべての子どもたちに、不幸が降りかかりませんように。
 そして不幸が降りかかっても、自分の力で立ち向かえる強さと、助けがありますように。
 そして、細音は消滅しました。
 ……その後しばらくして、一人の別な少女が人形に祈りを捧げました。彼女はこの世から姿を消しました。

 ってすれば、やっぱりダメじゃんバッドエンドじゃん、チクショー俺の覚悟を返せー! と、悔しさも倍増。
 それでも少なくとも、流された、とか、折れた、ではない、積極的に細音(プレイヤー)が選んだ結末なんだ、とある程度納得感は得られるのですよ。
 正直ボクは、弦の幸せを祈ったつもりは無いし、弦があやふやな幸せを手に入れたから何よ? と思ってしまうわけです。

 2は、トゥルールートでない以上、あまり現状から変える必要はなさそうです。
 しかし細音は、家族の遺影に手を振って別れる、くらいの覚悟を見せてほしいですね。
 そしてプレイヤーにとっても、そこまで覚悟するだけの魅力を提供してほしい、と思いました。

 他にも色々と作戦はありますよ?
 たとえば、謎解き部分。
 せっかく童話をメインモチーフにしているのだから、もうちょっと弦本人と絡ませてみてはどうか、とか。
 クリアし終わった謎解きにまつわる童話については、弦本人が何かコメントをするとかね。
 「この話は昔、母さんと〇〇した時に~」とか、「この話、聞いたときはわからなかったけど、今になって思えば~~」とか。

 でも、最初の前提、「弦きゅんが幸せになれる物語を追求して作っている」ってところが崩れると、今までの話は無に帰すんですよね。
 最初から不条理もので、悪魔の弦と人形に目を付けられた以上逃げられない、どうあがいても後味悪いエンディング、って方向性もアリですけどね。今とは全然違うお話になっちゃうけど!

 はい、以上、反転終わり。
 ストーリー以外の面でも、素材はいいものを集めてると思うんですが、イマイチそれを料理し切れていないというか……
 評点にいきましょう。

ハマリ度 : 7 / 10
 中盤で一気に行動範囲が広がり、謎解きのヒントも整理しない形で提示されるため、おそるおそる行動することを強いられる。
 その上、即死判定も割と多く、かなりシビア。リセットプレイが基本になる。ヒントがすぐには見に行けない場所にある、中にはノーヒントで即死付きの謎解きもあり、混乱する。「木の葉を隠すなら森の中」式のヒントの出し方が残念。
 ハマリは一ヶ所、王子の首が転げ落ちた直後、調べる前に真上の階段に踏み入るとハマることを確認。
グラフィック : 8 / 10
 キャラドットの芸がかなり細かい。妹と呼ばれて顔をしかめる細音などは必見。マップ画面は小綺麗で、見やすいは見やすいが、恐怖感は薄い。そこも含めて意図しての演出だろうと思われるが。
 一枚絵の使い方はなかなか狙い澄まされていて、印象に残る。ただ、ゲームのボリュームから言うと少なめで、使用シーンが序盤と終盤に集中してしまっている。それは中盤にストーリー上重要な意味を持たせられていない、ということも意味している。
サウンド : 7 / 10
 よく言えば安定感のある、悪く言えば保守的なサウンド。統一感はあるが、引っかかりもなく通り過ぎてしまう。
 効果音についてはもうひと工夫が欲しかったところ。音楽なし、シリアスな空気を作る場面でツクールデフォルト効果音では荷が重い。ソファーに座る音は特に違和感がありあり。

 以上、中国語からの翻訳であることにまったく触れないレビューでした。
 だって、ほとんど触れる必要が無いんだもの。
 翻訳がほぼ違和感の無い、高いレベルで仕上がっているのもそうですが、何より文化的に、まったく違和感がありません。
 日本の動画文化で火が付いたホラーゲーブームに、正々堂々と殴り込みをかけ、その上でなかなかに独特な解釈を加えている本作の姿勢は見事であり、かえって中国からの翻訳物であることを強調することが失礼ではないか、と思わせるまでに至った作者の、そして翻訳者の意気込みに、深く敬意を覚えます。
 日本の創作物も、こんなふうに元気よく海外へ雄飛できることを願ってやみません。

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